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五章、遠足っ
六話、予感
しおりを挟む「っ…!?」
「うん、化粧も、口紅……とても丁寧です」
頬に手を伸ばして、そう呟いた。
ビク、と女性は反応するも、すぐに落ち着いてアラカをただ見詰める。
「————かわいい」
勘違いじゃない、嘘じゃないとでもいうかのようにまるで揺れない瞳でそう告げる。
「で、でも……でも、さけ、てる……」
「女の子としての魅力を、頑張って磨こうとした。
そこにかかる努力の跡……それを可愛いと言わずに、なんというのですか?」
そう、忘れてはならない。アラカはどうしようもないほどの善性なのだ。
そして今までありとあらゆる怪異と向き合い、その上で抱き締めて来たのだ。
口が裂けている程度、アラカからしたら些事でしかなかった。
「女の子が努力する男性に惹かれるように、男性も健気な女の子に惹かれるものなのですよ」
ふわり、と女性の頭に触れないように撫でる。
「人は親しくもない人から髪を触れられるのを酷く嫌うと聞きますし、これだけで。
————僕もこの行為は、心底嫌いですので」
脳裏にトラウマを携えながら、そう告げる。
「嫌いってどういうことだろ…」
「……俺、知ってるけど……その、頭を撫でる行為を、さ……以前、菊池さんにした奴がいたんだよ」
「あ、それ知ってる。確か————」
そこまで言って、男子生徒は声を詰まらせて……息苦しそうに……こぼした。
「……足で、してたって、やつだろ、男。しかも、菊池さんの……ごめん、ちょっと吐きそうだから、無理だわ……」
アラカの瞳を見て、女性は頬を熱くさせたままぼーっとする。
「…………はっ」
しかしすぐに自我を取り戻して、慌てた様子でアラカへ再度問いかける。
「だ、だきしめ、られる……?」
信じられない、と言わんばかりで。綺麗なら抱き締めてみろ、とでもいいかのように。
「いいですよ」
「ウェルも。バブみに飢えてるから抱き締める」
ぎゅー、っと二人で抱き締める
見てるだけで癒される。
「ぁ、ぁ。ぁぁ……」
涙がポロポロと溢れていく。そして女性は嬉しそうに、ぎこちなく笑んで。
「ありが、とう」
と、光の粒子になり消えた。
「消えちゃった……」
「うん、そうだね。さ、いこっか」
アラカは山登りを再開して、ウェルもそれについて行った。
「————今の、たぶん怪異の能力だったから、警戒して行こう」
「うん……なにか、おこるね……」
そう、言い残して。
空には微かな雲が、ポツポツとあり……それは、少しずつ、少しずつ……〝一つの指向性〟を持ちながら、動いていた。
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