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五章、遠足っ

三話、バス

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 学校、というのは古くから様々なイベントが催されてきた。
 例えば弥生時代に存在したハイスクールでは土器の作成、
 江戸時代では子供の教育のため、罪人の首斬り体験学習などが盛んであった。民営事典より。

 そしてそれは現代でも例に漏れず、秋を謳歌する紅葉の山の側を県立破滅願望学園高等部(アラカたち)のバスが走っていた。

「ポッキーくれ」
「ボッキーは?」
「してねえ」

 バスの中は普段陰鬱な空気を放つクラスとは思えないほど和やかな空気であった。
 そしてクラスのうちの9割はとある箇所へと視線を向けていた。

「菊池さんとウェルさん……すごい可愛い」
「モデル級が二人も並んで寝てるとそりゃ絵になる……可愛すぎる」
「というかなんで平然と転入してるんだろ……」

 後ろから二列目の二人席には銀髪の首輪犬耳美少女アザつきと、赤髪のツイテール美少女アザ付きがいた。
 周囲と比較しても背の小さい彼女らは、その事情も加味した上で二人用の座席に組まされていた。

「……」

 アラカは静かに教科書を読んでおり、その隣でウェルは背もたれに身体を預けていた。
 ——刹那に。

「ぁ……ぅ゛…っ ぃ゛ゃ゛……ぁ…ー」

「「「!!」」」

 ——発作。それはウェルが来てから何度かあった現象だ。
 過去のトラウマを突発的に思い出し、苦しそうな声で泣き出す——人が周囲にいる状況ならばその確率は跳ね上がる。

 幼い美少女が しかも複雑な立場の子が泣き出す。それは周囲を動揺させるには十分すぎるものだった。

「(ど、どうする)」
「(どうするっていつも通り……いや、いつもはどうしてたっけ)」
「(え、確かいつもは菊池さんがウェルさんを連れ出して)」

 ぽふ………。

「「「…………」」」

 クラスメイトが目の前の光景に言葉を失った。端的に言おう。
 ——アラカが自分の胸にウェルを引き寄せた。


 本を片手に、泣き出したウェルを自分の胸に引き寄せて……そのまま、ポフっと男の夢顔面ダイブをさせたのだ。

「「「(……!?)」」」

「……」

 アラカはそっと、自分のジャージをウェルに被せて肩を引き寄せてよしよしした。

 無言で、それでも穏やかに行われるそれはクラスメイトの心を撃ち抜くには十分すぎた。

「(可愛すぎないか……)」
「(……なんだ、あれ。ここ天界……?)」
「(ウェルさんも泣き止み始めたわ……)」
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