人間不信の元最強英雄、TS美少女になり溺愛される治療生活が始まる。 〜壊れた天使の癒し方〜

足将軍

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三章、ノストラ

八話、アラカままーーー!!!おぎゃああああ!!

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「別に構わいません……こんなにも、汚い身体だもの」

 ぽつり、と呟きながら残った上で、義手の肘を摩る。
 そして、血の吹き出ている腹部を何度か摩りながら、言葉を続ける。

「腕と、脚は、一本ずつなくなってる。
 耳に関しては、もう人外のそれだよ。
 髪も、白銀といえば聞こえはいいけれど精神的な影響で色素が抜け落ちただけのもの
 ————ほら、こんなにも、汚い……」

 手を広げて、血塗れの平をテロリストへ見せる。
 ポタリ……と血の液体が、地面へ零れ落ちる。

「だけど、女としての機能は、幾らかあるのだよ。
 そんな、そこらの便所虫にも劣るこの腐った身体で人が一人救えるのなら……お釣りが来るんじゃないかな」

 壊れたガラス玉のような瞳で、そう微笑む。
 その言葉に、その瞳にテロリストは冷や汗と、涙が止まらない。

「なん、で……」

 テロリストの頬をスーッと涙が流れる。ただ、この男はそういう男だったのだろう。
 根っこはただの、弱い青年だったのだろう。

「お兄さん、元々…何してた人なのですか?」

 膝から崩れ落ちるテロリストに、アラカは問いかけた。
 もう交戦も意思も敵意も微塵も感じられなかった。

「……自衛、隊、だよ……。
 くそったれの、自衛隊だ……」

 自衛隊。ゆえに武器の取り扱いにも長けていたのだろう、とアラカは納得を示す。

「どうして、自衛隊に入ったのですか」

 その鈴のように愛らしく…透き通り……優しい声は、不思議と抗えない魅力があった。


「最初、は、ただのお金と資質の問題だよ。勉強より体を動かすのが性に合ってた、それだけなんだ……でも、少しずつ、少しずつ……変わっていって、さ」

 それは正直に、テロリストのリーダーの正真正銘の声だった。

「俺は…俺は…………」

 涙が溢れ出す中、懺悔するように……アラカへ言葉を送る。

「君みたいな、子を、怪異から守りたくて……。
 後に続く世代の代わりに、俺が傷付けば、って……!!」

 アラカは手を差し出して、テロリストは無意識にその手を取った。

 膝をつき、泣きながら、懺悔するように。


「一生懸命頑張ったじゃないかッッッ!!
 血反吐を吐いてまで繰り返し鍛錬して、戦わされて、ずっと、ずっと必死に生きてきたじゃないかッッ!、!!
 君は!!! たった一人でッッ!! ずっと、ずッ゛と゛ッッ!
 なんで、なんで……どうして…ッッ」



 顔を上げた時、男の顔はぐちゃぐちゃに、涙で濡れていて。


「————なんで……君みたいに、必死に生きて、奉仕した人間が苦しまなくちゃいけない…?」


 必死に生きてきた人間が、その輝かしい努力が全て踏み躙られ、嘲笑われる…そんな現実が殺したいほど気に食わなくて、壊したくて堪らなくて。


「ぐちゃぐちゃに壊れながら、泣きながら、それでも足を、ただの一度も止めなかった……誰よりも、何よりも頑張った、必死に生きてきた……そんな君が…、なんで…どうして…っ…!」


 


「女の子を、さ……守る、ヒーローに、憧れた、んだ。
 必死こいて、守って…笑顔を向けられる、ヒーローに……」

 だというのに現実はただただ厳しく。一人の女の子さえ守れない無価値な自分だ。



「でもダメだった゛!!」



 男は今でも覚えている、小さな、小さな男の子の命が手の中で、自分の無力で、自分の非力で少しずつ、少しずつ消えていく……そんな感触を。


「俺は、何をしたかったんだ……」



 アラカの両方の二の腕をガシ、と掴む。
 アラカも特に抵抗せず、男を見た。


「君、みたいな子が、俺以上に苦しんで……壊されて。一生懸命、必死に生きて、なのに、なのに…
 もう、わけわかんねえよ、この世界は、もう……いやだ……」


 鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっている男の顔が写る。

 それに対してアラカは……

「よく頑張りました、ですよ」

 ただ、そう……優しく、聖母のような母性を秘めた声でそう告げた。


「貴方がいたことで確かに救われた命もあったはずですよ。
 貴方に必要なのは救えなかった誰かではなく、守ることのできた誰かへ目を向ける勇気だったのでしょう」


 結局この男は大人になり切れなかっただけなのだろう。
 救えた人もいれば、救えない人もいる。それをみて、現実を見て、自分はよくやった、と納得できなかった……ヒーローを目指した子供なのだろう。


「もう少しだけ、貴方のことが大好きな誰かのことを見てあげてください。
 そして貴方は凄いのだと……貴方は確かに誰かを救えたのだと、そう思いなさい」


 こんな壊れたものに、目を向ける必要はないのだと。


「見れば傷付くだけの存在などに、足を引き摺られないでください」


 その声に、納得できない……と、しかし決壊寸前の心境でテロリストは持ち堪える。
 一番救われるべき菊池アラカの、壊れように怒りでどうにかなりそうなのだ。


「きみ、は…。きみは……っ」

「……世界中の人を、自分一人で救えるわけが、ないじゃないですか。
 ……なんて、言っても貴方には難しいでしょうね……世界はそういうものだと、思えなかったから…きっと、ここまで来てしまったのでしょうから」


 アラカはテロリストの頭をそっと撫でる…それは女神が幼い子供をそっとあやす様な仕草で。


「けれど、大丈夫ですよ」


 その言葉は、とても優しく……きっとアラカ本来の善性から来る言葉で。


「その言葉でこんなにも笑顔になれたのですよ、僕は。
 自分本位で行動してしまうのは少し頂けませんが……
 〝そう思ってくれる人が確かにいるという事実〟……それは僕の心に、とてもよく……響きました」


 にこり……と、少しだけ無理をして浮かべる笑顔に……テロリストは呆然とするも、すぐに自分は気遣いをされていると気づき。


「ぅ、ぁ、」


 それはまるで、大人の涙というより……子供が痛い現実から救われた時の、感動の涙のようで。


「ほら、笑顔……。ね…?」


 その幼い姿に、確かな母性があり。

「ぁ、ぁああ、ぁっ……ああああああああああああーーーーーッ!!!!」

 もう限界だ、と大声で泣き出した。




 ————尚、その部屋は放送室であり……その会話は全て、放送中であり。


「「「…………」」」


 外と校舎内、全てに大音量で広がっていた。
 そしてニュースで生放送されていた。
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