35 / 73
三章、ノストラ
五話、警察さえ敵。もう遅い
しおりを挟む「壊れていない健常者が死ぬよりも
初めから壊れてるやつの方がまだマシなはずだよ。
社会全体から見ても、そちらの方がより人という資源をうまく活用できる良い世界だろう」
「……っ」
アリヤはその言葉に戸惑う。
周囲さえ、そのアラカの言葉に頭が真っ白になってしまう。
「お嬢様、は……。
お嬢様、は、……お嬢様の、命は……彼らより、〝価値が少ない〟と、そう言ってるのですか……?」
「? 何を当たり前のことを言っているの?」
————嗚呼、だめだ、聞きたくない。
「彼らは五体満足で、肉体労働に会社で十分に活躍できる人間」
————やめて、その先を言わないで。
「対して僕は、魔力も作れない、腕もない、脚もない……端的に言って社会貢献がもう出来ないゴミ」
————そんな、悲しすぎることを、どうか。
「————どっちが生かした方が良いかなんて、誰でも分かることじゃないか」
その言い草に、周囲はぼろぼろ、と涙を流してしまう。
罪悪感を覚えているから、過去に痛め付けてしまったからこそなのだ。
「人の情を……何も、何も……知らないの、ですか……?」
呆然、とアリヤの震える指が……そう問い掛けた。
「情というのは、人と人の間である〝貸し借り〟の関係であろう?
借りれるものがもう一つもないそこらの紙屑へ、何かを貸したいと思うわけがないじゃないか。とても普通で、当たり前のことだろう?」
「っっ!!」
あまりにも残酷で、あまりにも可哀想で、あまりにも……救いようがない彼女。
違う、と誰もが心の中で強く念じた。
「ちが……」
そして止めようと手を伸ばし……伸ばしてから、自分の手が余りにも汚いと気付いて……悔しさに歯噛みをして、涙を流すのだ。
「一生懸命に頑張った人が、報われないなんて結末……ないですよ、そんなの」
ぐちゃぐちゃに涙を流し、膝をつくアリヤにアラカは膝をついた。
「大丈夫だよ、アリヤ。一本ではあるものの、腕はあるし、脚もある。
瞳と、耳と、鼻と口と胴体は満足に残ってる。だから僕は大丈夫」
違う、そういうことが言いたいのではない。と周囲が思う。
そして、それをいうことだけは、どうしても出来ないのだ。
「(人間不信になるまで痛めつけたのは、俺なのに……今更、情とか……何様だよ、俺は)」
「(……どうして、まだ私生きてるんだろ)」
そして立ち上がり、ヨタヨタと義足でなんとかバランスをとりアラカは進み出した。
「お嬢様」
アリヤは涙を必死に拭い、止められないと確信した。
「それは、お嬢様の決断ですか」
ならばせめて、と声をかけた。
「ああ、そうだよ。
理性と…………ああ、僕の決断だ」
「……ならば、こちらを」
アリヤは鞄から一本のナイフを取り出した。
それは魔力が込められた品であり、怪異相手でも達人級の技術者なら数分は戦えるものだ。
「銃刀法違反では……?」
「知ったことか、です」
警察の目の前で平気で違反するアリヤ、パネエ。
「警察さん、そこいるけど……」
「見ないフリをしてくれます。
お嬢様が傷付いていた時に見ないフリをしていた方々なのでもう一つ二つの無視ぐらいは些事ですよ」
警察にクリティカルヒット。
刑事は苦虫を噛み潰した顔をして、地面へ向けたまま帽子を深く被った。
「じゃあ、借りるね」
ナイフを受け取り、装備する。
そのまま、何もいえず、罪悪感で動くことすらできない警察の間をすり抜けて前へ進んだ。
「(もう、止めれねえよ。
警察の責務と自分に言い聞かせたくもない……その責務を過去に、気分で投げ出したんだぞ、俺は……そんな自分勝手で、恥知らずなこと…………くそ……)」
胸を締めつける痛みを覚えたまま小さく「……俺ら、こんな惨めに生きてて、何がしたいんだろうな」と呟いた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる