28 / 73
二章、怪異 死想
六話、過去の敵
しおりを挟む◆◆◆
男女の体力の差、それは高校生にもなると虚実に現れるものだろう。
ゆえに高校では男女では体育の競技を男女で分けていた。
————男女で、だ。
「…………」
男子は外でサッカー。女子は体育館でバスケ————尚、アラカは後者に分類される。
「ええっと…準備運動ですが。菊池さん、先生と組みましょう」
「……」(こくり)
体力差、という点においてはなるほど。アラカは女子に区分されるだろう。
加えて昨日、男性から暴力を振るわれたばかりなのだ。
「(クッソ可愛い……頬のガーゼが庇護欲を掻き立てるぅぅ…!)」
「(昨日間近で見たけど、やっぱり傷ができてたんだ……)」
「(殺)」
頬に痛々しいガーゼを貼られた彼女を受け入れる上で異論は一つも無かった。
ボロボロな見た目で、義足で何とか立って体育に参加しようとしてる健気な子を前にそんなことできるわけもない。
「(こんなかわゆい子を男子とかいう獣の群れに放り込んだらどうなるか……保護せねば)」
そして体育教師の中村はレズと男性不信を拗らせていた。
順調に授業は進む。しかし他クラスとの合同練習。
それはアラカと関わりが多少濃い人間がいるということで、当然のように厳しい体育となっていた。
「あ、あの……」
それは自由時間での出来事であった。
体育教師には様々な種類がある。
そのうちの一つ、『自由時間を設ける教師』こそが中村であった。
一通りの体育の授業が終わり、教師の方針か自由に運動してよしと言われると生徒らは救われた気持ちになるだろう。
「あら、か……くん」
「?」
そんな中、アラカへと声をかけるポニーテールの女子生徒がいた。
アラカは声をかけた生徒へ目を向けて——不快感に鼻血を垂らす。
「っ」
「ご、ごめんなさい……一言、一言、だけ……それだけ言ったら消えるから……ごめん、なさい……」
アラカには今、その女子生徒がまるで認識できていない。
本能的に嫌っているのだ。
「風魔さん。何してるの」
「ぁ……なか、むら…先生」
風魔沙霧。風紀委員長であり、男だった時のアラカを好いていた少女でもある。
————そしてアラカの心に亀裂を産んだ要因でもある。
「……風紀委員長として見過ごせないなら、別の子をお願いします。
その子の心には……距離が必要でしょう。貴方にも、菊池さんにも」
それは真実だ。そして正論でもあるため、風魔は挙動不審になる。
「い、いえ……あ……」
もどもどし、何も言えず、口が詰まり。
「ごめん、なさい……」
中村先生にそう言うと、落ち込んだ様子で背を向けた。
その背中は怯えた小鹿のようで、事情を知らなければ同情してしまうほどに憐れだった。
「……こちらこそ、少しだけキツい言い方をしたわ。ごめんなさい」
そう言う。別に厳しい言い方はしていない。
しかし風魔の精神からしたらどうしようもなくキツい言葉に聞こえたことだろう。
それを中村先生は汲んだのだ。
「(以前はもっと明るい子だと聞いていたけれど……すっかり心にきて、元気がなくなってるわね……風紀委員長も、辞めさせてほしいと言ったらしいし……)」
アラカが生徒の一人を優しく諭して許したと聞いたが、周囲との溝はあまりにも……いいや、これまで以上に深まったと言えるだろう。
「(明るい性格で、真面目でハキハキ喋る子……と、聞いていたけど)」
あの調子じゃ、将来は厳しいかもしれない。
そう思わずにはいられない様子だった。
◆◆◆後書き
この話、アラカ視点では全部風磨の言葉は「■■■■■■■■■■■■■■」で埋め尽くされてます。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる