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二章、怪異 死想

四話、勇気

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 昨夜の戦闘を終えると、アラカは屋敷のベットの上で目覚めた。
 そこでコードレスの無事を聞き、幾らか安定してから学校へと足を向ける。


 学校登校2日目、未だぎこちない空気の中ホームルームが行われて一限の準備の時間となった。

 ——一限、合同体育。

 さて、ここで一つ問題がある。クラスメイトの中ではその問題は共通の認識であり、その特異点とでも呼ぶべき少女へ視線が集まる。

「……」

 新品の体育着を手に固まるアラカ。男の時の体操着はビリビリに破かれて捨てられた過去があるため、買い替えにも丁度よかったのだろう。

 そして、元男とはいえ今は女の子の身体なのだ。


「「「(着替え、どうするんだろ……)」」」

 要約すればそういうことであった。

「ぁ、お、あの、その……さと…きくち、さん」

 そこへとんでもなく挙動不審の男が近付いていた。
 それは他クラスの男子であったが、合同体育の着替えのためアラカのクラスに入ってきたのだ。

「あ、の……体育着を破いてしまって、すみませんでした。
 新品の、新しく買ったので……ど、どうぞ」

 すっ、とビクビク怯えまくった手で男子用のジャージが差し出される。

 その男子は過去、アラカの体育着を破いた犯人だったのだろう。

「…………」

「あれ何してんだ?」
「以前、菊池さんの体育着、ビリビリにされた状態でゴミ箱の中から見つかった件。あったよな、多分あれだろ」

 それはアラカが学校に通っていた際に起きた事件の一つだ。
 体育着が刃物でビリビリに破かれて、目の前で燃やされるという事件。

 その犯人であった男子生徒は冷や汗でびしゃびしゃになりながら頭を下げていた。

「…………」(コクリ)

 それを前にアラカは虚無としか思えないほどに感情のない動作で、ジャージを受け取った。

 そして鞄から一個の注射器を取り出して……自分の腕に突き立てた。

「!?」
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