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二章、怪異 死想

三話、鏖殺の加護

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 ドゴォォォン、コンテナを破壊し貫通してもなお止まらず。

「がっ゛…は……ぁ゛…」

 壁に激突し、血を吐き膝を突く。

「今、のは……!」

 死想は想像以上のダメージに困惑する。
 だがすぐに得心がいったのか不敵に笑んでコードレスを睨み付ける。

「なる、ほど……相性、差か。
 相性でしか、勝てないとか…弱者、哀れ。可哀想……しくしく」

 そう言って身体を腕で支えて、刀を持ち……はあ、と息を吐いた。

「弱者が哀れ……殺すべき…殺してあげないと可哀想」

 そう言うと怪異は刀を腰に帯刀して——踏み出した。

「…………」

 常人では目で追うことすらやっとの速度。しかしそれさえコードレスには児戯の範疇でしかなく、カウンターの要領で移動先を予測し拳を置いた。

 それで終わるはずだ。

「(接触まで0、5秒…ここからの方向転換はその系統の能力所有者でもない限り不可能でしょう)」

 抜刀の構えのまま駆け出していたとしても真剣勝負でもなく、間合いを図るでもなく、斬りかかるしか手段を持たない時点で知能は知れている。

 だからその行動で終わる————はずなのに。

「弱者、哀れだよ」
「!?」

 迫る死想。コードレスの拳。
 それが〝接触したら空振った〟。

「……な、」

 そしてコードレスの腹から〝刀の切先〟が現れた。

「弱者のおまえ、哀れ…可哀想……」

 いつの間にか背中に回っていた死想は、突き刺した刀を抉る様に動かした。

「…………」

 刀を抜き、コードレスは膝をつく。
 コードレスは膝を着き、血を吐いた。
 死想は血塗れの刀を手に立っていた。

 その構図は勝敗を決したと言っても過言ではなく

「と、いっ、ても…弱者の能力……有名だ、よ。
 不死、の能力があるこ、とぐr」
「————は?」

 ゆえにその結末を認められないと激怒する少女が暴走を始める。

「貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様」
「E?」

 バチっ、ビリ…——殺意の捩じ込まれた黒い稲妻——

 ——触れたものを——
         —全て死滅させる———   ———鏖殺ノ光—

   ——是なるは—— 
   あ                「」

  ———鏖殺—。
      ————殺意、


      ——■ ■■——

「—————————————」

 知っている。死想はその伝説に近い異能を知っている。
 自分達の原初とも呼べる存在が遊び半分で弄ぶ絶対の異能。

「ま、さ、…か、それ…は」
「いま何した、何した何した何した。壊した?殺した?は? 傷付ける? 理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能————死ねよ、お前」

 ズザザザザザザァーーーーッ!!
 地面ごと抉り殺してやる、という意志がこれでもかと言うほどに込められた黒い稲妻が放たれる。

「条件/殺意。殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意殺意。満たした、死ね、だから殺す、死を想う性癖を満たす、喜べ、喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ喜べ」


 衝動を抑えることをやめて、殺意のままに行動する獣。

 その殺意が命じるままに腕へ死の気配を宿す黒い稲妻を走らせながら、腕を大きく後方へ下げ

「ひっ」

 その後方に退げた腕はある種の装填だと、見るだけで分かった。

 この怪異を3回殺してもあまりあるほどの怒りを込めてチャージされるそれは、放たれるのは今か今かと待ち望む。

「ご、ごめ、ゆ、ゆるs」

 ————放たれた。

 何を? どこへ? 怪異の全てを——飲み込む規模——の稲妻を。
 心が折れかけた怪異の声など知らぬ存ぜぬ今すぐ殺せと。

 その衝動のままに放たれるレールガンはあまりにも過剰な威力を宿しており……


 結果として、その廃墟にクレーターを生み出した。

「……きえ、た」

 少なくとも姿形は視認できない。ただそこにあるのは抉れ壊れたクレーターばかりだ。

「…………ぁ……」

 コードレスの死体(生きてる)を前に、膝を折る。

「…………また、まも、れなかった」

 表情が抜け落ちる。尚生きてる。

「……アリヤ」

 そこでメイドの少女を思い出す。逃げろといった彼女を探して……少し離れた場所で倒れてるのを見つける。

「……気絶、してるのだ、ね」

 それを確認すると、ただただ疲れが身体中を襲い。

 睡魔に抗うことも叶わず、気絶する様に眠った。

 そしてコードレスは普通に生きてる。
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