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序章番外個体

六話、見えない何か 精神障害が起きちゃった

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「■■■■■! ■■■■■■!」

「……?」

 学校からの帰り道、見慣れた商店街を歩くと変な存在が出てきた。
 真っ黒で、人の形をしてる気持ち悪いナニカ……なんだろう、これ。

「あなたはどなたでしょう、うちの子に何か御用件ですか」

 黒いモジャモジャから僕を守るように、一歩前に出る上司。
 国としては僕の魔力生成能力復活を求めているはずなので、余計なトラブルによる欠損を恐れての行動だろう。

「■■■■■!! ■■■■■■■■、■■■■」

 黒い塊が、何か不快なノイズを言い出す。
 気持ち悪い、吐き気が出てきて口を思わず手で覆う。

「あなたに親権はもうないでしょう」

 しん、けん……ダメだ、気持ち悪くなってきた。
 なんだろう、考えたくない、気持ち悪い、吐きそうだ。

「アラカくん、背に隠れなさい」
「? ……」

 耳に届かない。何も聞こえない。
 そのためとりあえず上司の指示通り、背に隠れる。

「■■! ■■■■■■■!」
「っ……」

 こちらに詰め寄る黒い物質。
 なんだろう。気味が悪い、頭に痛みが走る。

『この悪い子めっ! ■さんはな、■ちゃんのことえっちだと思ってたんだぞ?
 え? ああ、■■さん! いやあ、あはは、■■さんには頭が上がりませんよ。あ? なんだよ……アラカか、失せろよばっちいな。なーなー■ちゃん、すごいぞ。見てくか』

 あれ、これ、なに、いたい、なにこれ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛みが溢れ出す、きえてきえろ失せろ死ねよ消えろ、なにこれいたいいたいいたいいたい

 パン……乾いた音が、耳に届く。


 …………息が乱れる。涙が頬を伝う、泣きながら、記憶を散らすように頭をグチャグチャにする。

「ふーっ…ふーッ……!」

「わかりますか■■さん。今私が軌道を修正しなければ貴方、死んでましたよ。
 あと商店街では撃たないように」

 上司の言葉で目の前が正常に見える。
 僕の手元に硝煙を出している拳銃が握られており、腕は上司によって掴まれていた。

 加えて上司の腕から血が溢れていた。

「ぁ、ぁ……」
「問題は何一つない。銃弾は受け止めてる」

「いやそうはならんやろ」
「なんであの人、平気で銃弾受け止めてんだよ」
「目立ったイカれかたしてないけど、あの人も割と異常者枠だからなあ」

 軍から渡されていた銃を無意識に使っていたらしい。黒い塊のすぐ隣を掠って消えたので被害はおそらくなし。

「申し訳ございません。
 やはりこの子は貴方の元には行かせられません。
 この子がいつ、お前らを殺してしまうか分かったものではありませんから」

 銃を取りあげられる。僕の銃……。ダメだ、不安が増えてきた。
 人を殺す手段が、自衛の手段がない、コワイコワイコワイコワイコワイこわ、嫌だ。返して、壊れる、いやだ、無力は嫌だ、苦しい、やめて。

 泣きそうな顔で訴えたら、銃を返された。よかった、胸裏ポケットに入れる。火傷した。まあいいや。
 ……? なんか銃軽くなった……? ちょうど弾丸ほど……気のせいかな。

「それにいつ。この子が襲われるか分かったものじゃありませんから」
「■……」

 黒い塊が何か歯軋りをしている。

「全部調べはついていますよ、ははは」

 愉快そうに手を開く上司、しかし目が全然笑っていなかった。

「■■■■■■■」

「は?」

 雰囲気がガラリと変わった。殺意が商店街中に充満する。
 そこら辺で遊んでた子供が、野菜を可愛いね、あげるよとか言ってくれたおじさんが、駄菓子屋のおばちゃんが一気にそれを感じ取った。

 泡を拭いたり、真っ青になって視線が下に入ってたり、意味もわからず怯えていたり、反応は様々だ。


「お前さ……」


 動揺に怯えて。レンガ道に黄色い汁を垂らしてる黒い塊に近付いて胸ぐらを強引に掴んだ。


「まともな人間は娘にそんな感情抱かねえよ!!
 お前頭おかしいんじゃねえのか!?!?」


 怒鳴り散らす、本当にキレてる上司。
 胸ぐらを離し、黒い塊の顔面を蹴り飛ばした。


「気持ち悪い、今すぐ消えろ。この薄汚い恥晒しが」


 上司は黒い塊に近付いて、黒い塊を全力でぶん殴った。
 倒れた黒い塊の頭らしき場所を掴んで地面に叩きつける。


「私は去勢済みだ。二度とその汚ねえ口開くな」


 強烈な威圧。それを放ち、黒い塊は意識を失った。


「ダメだ、本当に気持ち悪い。アラカくん、行きましょう」
「?」(コクリ)


 手を引かれてついて行く。商店街の人に迷惑かけたので後日、謝りにいかなければならない気がする。

「後で菓子折りを持って私の方で謝罪しておく。殺意を撒き散らしたのは私だしな」

 考えてることが見抜かれたのかそうフォローされる。そしてこちらをチラリを見て、何かに気づいたのか膝を付いて僕と向き合った。

「涙が出ている、拭き取るから静かに。
 あと鼻血が出ている」

 ポタポタと血が服についている。ティッシュを軽く当てられる。
 本当だ、いつのまに。


「遅かったので迎えにきましたが正解だったようですね」


  その時、不思議な女性に声をかけられた。
 何故か現代日本では見慣れない白と黒を基調にしたフリルのドレス……メイド服を着た女性だ。


「む……君は手配していた子、で相違ないかね」






「はい、アラカお嬢様の世話係として配属されました。
 羽山アリヤ、18歳です」


 ニコリ、と笑顔を浮かべて亜麻色の髪をしたメイドの女性はそう告げた。

◆◆
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