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本編

6、奴隷少女と孤児院

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「マザー、お客さんです」
「どなたです?」
「依頼を受けてくださった冒険者だそうで」
「……なるほど、今行きます」

   教会は孤児院も兼ねている、そしてマザーと呼ばれた女性はその二つを束ねている言ってしまえば経営者だ。
   教会と孤児院は国の管理下にある、なので国から援助金がくるのだが、最近ではそれを狙ってゴロツキが難癖を付けては金を要求してくる。

   国に相談してもそれは範囲外だと言われ突っぱねられる。だからこそ、冒険者ギルドに依頼を出して護衛という名目で雇っているのだが……

   ゴロツキがいつ来るか分からないのでその間は孤児院の手伝いや子守をして貰っているのだが、冒険者も所詮は荒れくれ者。孤児院も経営のため、そこまでお金が出せないので今まで来た人は文句ばかり言っていた。ただ一人の例外を除いてーーー

「今回はどんな方ですか?」
「えっと……Aランク冒険者のシオン様で……」
「はぁ……(あの鎧の人ですか、子供達が怖がるでしょうね)」

   Aランク冒険者のシオン、マザーはその冒険者に対しては最悪だ、という評価を下していた。文句は言わない、悪さもしない、言われたことは全て器用にこなす。

   しかし、いつも鎧を脱がないのだ。鎧を脱がないので子供達からは怯えられて『鎧の魔物』と言われている。何故、鎧を脱がないのかと責め立てると「すまない、もうこの依頼は受けないから許してほしい」と素直に謝られた。

   マザーはてっきり荒れくれ者の冒険者だから文句を言うと思っていた。だが、そのシオンという冒険者だけは素直に、しかも誠実な答えを出した。


   それゆえに、苦手だと感じてた。自分の考えを出さない。人に言われることをする人形。そんな冒険者の態度が非常に不愉快だと思ってつい、「役に立たないから報酬は払わない!」と口走ったのだ。

   流石にこれは怒るだろう、とマザーは思ったが「わかった」とだけ言って去ってしまったのだ。それ以来、シオンとは会っていなかったのだ。

「彼は……怒ってますかね?」
「彼……?マザー、何言ってるんですか?」
「何がです?」
「あんな可愛い女の子が、男なわけないじゃないですか。胸も平均並みにあったしあれは絶対女の子ですよ~」

「……え?」



「貴女……本当にシオンさんなんですか?」

   依頼に来たのに突然そんなこと言われるなんて心外だな。まぁ、フルアーマー無いからそう見えるのは仕方ないか。

「あぁ、いつもの鎧が無くなってしまって……素顔で会うのは多分初めてだと思うが」
「こんな女の子だったなんて……」
「あ、受付嬢から手紙を預かってるぞ。俺が行くことになったから丁度いいと言われてな」

   俺はギルドを出る直前に渡された一枚の手紙を渡す。中はプライベートなので見てないが、少し気になるな。

「は、はい……預かります。それではミラ、シオンさんを案内してあげて」
「はーい」

   ここ、俺がいつも寄付してる教会じゃん……まぁ、好きでやってるだけだから威張れることでも無いな。



「ギルドの方が手紙なんて……何かしら?」

   マザーは封筒を開けて中の手紙を取り出す。

『依頼があり、本日は手紙を出させて頂きました』

「依頼……?」

『依頼内容はそちらにいると思いますがシオンちゃんのことです。実は彼女はーーーーーーーーーーーー』

   手紙にはシオンの現状と今までの生活環境が記されていた。

家が燃やされた事、
仲間がいなくて心を閉ざしてしまった事、
不人気の依頼ばかり押し付けたせいで借金奴隷落ちした事、
奴隷として毎日のように強姦されているであろうという事、
もう既に二回強姦されている事、
今、誰も頼れる人がいない事。

「なにこれ……」

『ーーーーなので、彼女が幸せな女の子になれるように協力してください、報酬は払います。』

   全て読み終えたマザーは前回の様子を思い出した。鎧は脱がなかったが、真剣に仕事をしていたし、ゴロツキも何人か捕まえて兵士に突き出していた。

    他の冒険者とは比べ物にならないほど仕事をしていたのだ、しかしマザーはそんな少女を最悪だと貶し、約束されていたお金も払わなかった。

    手紙には昔の生活していた宿屋も記されていた。その宿屋は正直、孤児院より酷い場所だ。

   あの時、お金を払っていればシオンは借金を抱えずに済んだのでは無いか、払っても払わなくても借金は抱えただろうが、それでも少しはマシになったのでは無いか、そんな罪悪感の中、どう話しかければいいのかを悩みながら教会の中に入った。



「と、言うわけで私は新人のミラ!よろしくね、シオンちゃん!」
「ああ、よろしく頼む」

   仕事内容は大体わかったから、まずは掃除から始めるとするか……ゴロツキが来れば撃退するとして……

「じゃあ、始めるか」



「……彼女はどうですか?」
「あ!マザー!彼女すごいですよ!掃除が凄く上手で、他の冒険者とは大違いですね、可愛いし~」
「…………そうね」
「どうしたんですか?」
「なんでもないわ、貴女も仕事をしなさい」
「はーい」

   シオンに対する評価を聞いて、更に心が痛くなるマザー。

「…………」
「ふぅ……次はあっちか」
「……隷属の首輪」

   シオンの首にその呪いのアイテムが着いていた。せめてアレを外せればいいのに、と考えるマザーだが、主人はきっと貴族なのだ。貴族を相手にするなんて孤児院には無理だったため、自分の無力を実感するマザーだった。

「どうした?」
「シオン、さん……」
「?」
「えっと、シオンさんの主人ってどんな人?(この子が一番辛いのに、私が泣いちゃダメよね……)」
「ご主人様?そうだな……この前は無理矢理服を脱がされたし……その前は初めて(のキス)を奪われて……」

   声は少しずつ小さくなっていき、最後の方が全く聞こえなかったが、マザーは確信した。シオンが酷い目に遭っていると……

「シオンさん、悩みは私に相談してくださいね……私は貴女の味方ですよ……」
「特に悩みはないし、大丈夫だ」
「……そうですか(心を閉ざしてるとは聞いてたけど……これは想像以上ね)」

    マザーはシオンの様子を見てトラウマの一人が自分なんだろう、と思い自己嫌悪した。
   どうすれば良いのか、親に捨てらた子供などとは何度も話をして来たが、自分が傷付けた女の子の話し方など分かるわけがないのだ。

「……私って、馬鹿ね」

   そう言いながら、マザーは自室に戻ったのだった……
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