Postman AAA

オーバエージ

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嵐の前の静けさ

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遠く離れた母親から来た、娘へ宛てた手紙は、娘にとっては何よりもかけがえのない大切な手紙には間違いない。
しかしプロのポストマンのランク付けで言うなればそれは、Cランクの手紙となる。
公正証書や小切手、直接の現金封入など、とにかくお金に関わる手紙となるとBランクに位が上がる。
そして位の高い者によるやりとりはAランクとなる。
さらに言うとAAAは大統領命令を取り扱う事のできるポストマンで、世界に数人もいない。

そして、位の高い手紙ほど闇市場で良く売れる。

巨大なハッカー集団「オールプロ」が世界中のインターネットを遮断するウイルスをまき散らして以来、
国家間の連絡手段は皮肉にもインターネットから手紙へと余儀なくされた。
と同時に手紙を安全に配達できるよう、郵便屋は銃の扱いや柔術など、ありとあらゆる戦術を叩き込まれることになる。




カロリーバーを一口かじる。とたんに口の中が砂漠のようになっていく。
ほおばっているのはブラックスーツに身を包んだ猫族である。その証拠に被っている帽子からは耳が飛び出ている。
その猫族はとある町の入り口付近で夕日を眺めていた。

そのすぐ後ろには車があり、バンに倒れ込むボロボロの男と、それを抑え込む女性の姿があった。
スーツ姿の女性は咆哮にも似た叫び声でその男につかみかかった。
「そろそろ懲りただろう!AAAのポストマンはこの町にいるのか!?」
すでに殴るところがない所まで殴られた男は「…しらねぇ」とだけ最期の力を振り絞りぼそっとつぶやいた。
何年も一緒に仕事しているとその女性の気の短さがよくわかる。
案の定その女性は銃を取り出し男にためらいなく突きつけた。

いつもの事なので猫族は背中を向け、相変わらず沈みゆく夕日を眺めていた。
「もうこれ以上は無理ね」
1発の銃声が周囲に手短に響き渡った。猫族の男は振り返りもせずカロリーバーの残りを食べていた。
女性は息絶えた男をバンから払いのけ、銃をホルダーに収め、右手を大きく天に向かって指差し叫んだ。
「雨!」
まもなくポツリと猫族の帽子に冷たいものが弾けた。次第に雨音は大きくなり、本格的に雨が降り出した。
(なぜよりにもよって雨なんだ?)即、疑問が頭を駆け抜けたが、気性の荒い今の彼女には言うことははばかられた。

彼女は銃の腕前はもとより、世界に数人しかいない「気象強行士」であった。よって周辺の天気は彼女の言われるがまま、その様相を変えてゆく。
「ネコパンチ、町にいくわよさっさと乗りなさい!」
ネコパンチと呼ばれた男は小走りで車に乗り込むと、町の入り口へと消えてゆく。
居た場所には殺された男がただ一人、雨に打たれていた。



荒廃した町を一台の車がトロトロと進んでいた。さきほどの女性とネコパンチが乗り込んだ車とは全く違う車種だ。
やや卵型のその車は雨に打たれながら相変わらず徐行運転をやめなかった。
運転手は思わずつぶやいた。
「ほとんど店、しまってるなぁ」
と、明かりがかすかに見える建物を見つけ
「どうか食べ物屋でありますように」と運転手はつぶやいた。
狙いは的中し、ダイニングバーの古い看板を視認すると、車を止め何やら袋を抱え、小走りで店に駆け込んだ。
カウンター数席とテーブル席が4、5席ほど。テーブル席の1つには先客が陣取って陽気に酒を酌み交わしているようだ。
店に入った青年はそれを「いちべつ」し、カウンターに腰を下ろした。

「いらっしゃい」の一言も無かった、カウンター越しのふくよかな女性店員は青年を見定めるようにジロジロ視線を動かし
「ラム酒?ビール?」と、初めて青年に声をかける。青年は慌てたような素振りで
「い、いや。何か温まる食べ物を下さい」と弱腰で店員に言い返した。
店員はハーッとため息をつきながら
「あのねぇ酒じゃないと儲からないんだよ」と食ってかかった。
「とにかく腹ペコなんです。寒いし…どうかおねがいします」
「酒は無しってこと?」いぶかしげに女性店員が言い放った。
青年は震えだし、ズレ下がった袋を持ち直しながらテーブルを両手で軽く叩いた。
「そりゃねぇ!僕だってビールの1杯も飲みたいですよ!でも飲めないんです!それを分かって下さい」
そういうと青年は顔をカウンターに突っ伏した。青年が相当弱っている事態を察すると
「分かった分かった、シチューでいいね?」と諭すように優しく呼びかけた。
青年からの返事はない。目もつむっている。寝てしまったのかと青年を揺さぶろうとした、その時だ。

青年の帽子に身分証がくっ付いており、自然に視線がそちらの方に向かう。
まず名前。テッド・ロスと書かれている。そして名前の下を見て店員は動揺を隠せなかった。

そこには「ポストマンAAA」と書かれていたのだ。

狼狽する店員に、テッドは目をつむったまま応えた。
「僕は悪党に狙われっぱなしだ。たとえあんたが銃を取り出しても一瞬で消すよ」
「わ、わかったよシチュー待ってて」慌てて厨房に駆け込む。
と、その時だ。ドアが激しく開く音でテッドは目を開けた。
ドアの前には2人のいかにもザ・悪党という感じでテッドにゆっくり歩み寄っている。
「店の前にポストマンの車が横付けされてるかと思えば、案の定いるじゃねぇか」
「しかもAAAとはついてるぜ。ブツを早速頂こうか、あぁん?」
テッドはピクリともせず一言つぶやいた。
「当たると痛いよ?」
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