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88 風よ、吹け

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正直、どうして彼女がここに来たのかわからない。
【風魔法】を持っているのが条件だろうけど、私の風魔法はLv4。正直、他にもこれ以上のレベルの【風魔法】を持っているプレーヤーはいるだろう。
――と、考えたところでハタと気づく。

(ファンシーやプルミエならわんさかいるけど、エデンは掲示板の情報によると私を入れて8人しか出入りしていない。しかも、私が昨日から見たプレーヤー、2人だけだった。夏休みだから私はダイブ出来ているけど、社会人なら働いている時間帯だ~)

ともあれ、彼女の背中を押して動かすだけのミッション!
ふふふ、私の最大【風魔法】、"竜巻"を見よ!




「で、どこで?」

現在、雨の精霊の彼女に先導され森の奥へ侵攻中。
見たことないモンスターが現れ慌てたけど、強さ的にはプルミエ冥界門とほぼ同等だ。多分、地形攻略出来なければ苦戦したのだろうけど、ここで浮遊付きの雨合羽、大活躍。ヒューヒュー。
サーベルタイガーの牙とか、防御力付与に使えるよね! ワクトキです。

(あれ、ドールマスターはドール種の武器も作れるんだよね。ドールマスターヨハンナはドール種の武器職人だもの。これらの素材、武器強化付与にも使えるのでは?)

今更ながら、PK時失くしたオパールが武器強化にも使えると言われたことを思い出す。
うーん、もっとドールマスターについて学ばなくちゃ。つか、クラウス、なんで別行動してんのだ。チクショー。
とりあえず師匠のクラウスに恨みの念を飛ばして気分スッキリしとく。

サクサクモンスターを倒し、私たちは精霊の指定する場所まで辿り着いた。
それは"精霊の座"という大きな岩で、その上に私たちを案内してきた雨の精霊と同じ姿の女性が座っていた。
思わず驚き、私の前にいる白銀に輝く彼女と、岩に座り込むやはり白銀の女性を見比べる。
すると案内してくれた精霊がすぅー、と座る女性…精霊に吸い込まれ消えた。
座っていた女性の目がパチリと開く。

「ここまで来てくださってありがとうございます。わたくしが"雨の精霊"本体ですわ。見ての通り、動けません。どうか、あなたたちの【風魔法】で背中を押してくださいませ」

そう言って、古風なドレスを着た"雨の精霊"本体はにっこりと笑った。


――と、いうのでまずは私、フェザントから参ります。
ちびっ子たちがやんやと応援してくれる。癒されるわ~。
私は大岩―"精霊の座"―の後ろに回り、そこに座る"雨の精霊"に向けて魔法を込めたナイフを向けて【風魔法】を発動する。

「――竜巻!!」

ごうっという音と共に風が雨も巻き込んで高く旋回し上に向かう。
すると腰かけていた精霊の腰が浮き……、またペタンとお尻を落とした。

「勢いが足りないようです…」

精霊のしゅんとした声が聞こえた。
竜巻、竜巻、竜巻っ――とナイフに込めた5回分の【風魔法】を放ったが結果は同じであった。
ああ~、私の魔法の威力弱!

「それでは、おねーさまの次は僭越ながらわたくしが」

そう言って【風魔法】をつけたメリッサちゃんがやはり竜巻を放つ。
今度はふわっと精霊も浮き上がり、岩の上に立ちあがった。だが、前に進まない。

「ええ、どうして~?」

私が思わず聞いてしまう。
精霊が粛々と答えてくれた。

「人数が足りないようです…」

「うっそ、二人必要なの!?」

私の持つ【風魔法】スキルはひとつしかないのに~!
思わず頭を抱える私にメリッサちゃんが声をかける。

「おねーさま、おねーさま、落ち着いてくださいませ。ささ、フランソワ、あなたに一時【風魔法】を預けますわ。それでおねーさまのナイフにあなたの全力の風魔法を込めるのです」

あ、そうかと私はフランソワ君を見る。
けれどフランソワ君は戸惑い気味で返す。

「でも、ボク、魔力が…」

そう、竜巻を込めるには彼の魔力量ではわずかに足りない。
ミミッキーやジローのように私からの魔力流用もできないのだ。

「これを食すのです」
「え? まさか、"華御膳"を? 駄目だよ、おなか壊しちゃう!」

フランソワ君の満腹度96なんだから、さすがに食べられない…、と思って声を上げたら、メリッサちゃんが出したものはお弁当ではなかった。

「……キノコ?」
「マジックポーションの材料のマジマジキノコですわ。塩を振っております」

メリッサちゃんが手にしていたのはこんがりとホイル焼きにしたキノコだった。赤地に黄色い斑点という見た目、めちゃくちゃ、毒々しいキノコだが、【採集】で見た時は、確かに魔力増量効果が見込めるとあったな…。ステータスアップ料理か。
そんなキノコを手にして、真剣な顔のメリッサちゃん。
それに対峙し、戸惑いながらもやはり真剣なフランソワ君。
なんか、シュールだな。

フランソワ君はそんなメリッサちゃんの勢いに飲まれたのか、ついにそれを受け取り、パクリと口にした。

(味は大丈夫か…。もう、【料理】はレベル上がっているし…。んん? これ料理した覚えないよ、私。てことはメリッサちゃんが焼いたんだよね…。スキルの付け替えはメリッサちゃんたちが勝手にはできないワケで。――いつ、メリッサちゃんはあのキノコを料理したの…!?)

蘇る熊鍋の記憶。
【料理】をつけていない。または【料理】のレベルの低いステータスアップ料理の味は――!!

ふ、ふ、フランソワ君ーーーー!!


……涙目で んぐんぐと私が手渡した果実水を飲み、【風魔法】を付けたフランソワ君はナイフに全力の竜巻を込めて、メリッサちゃんと共に"雨の精霊"に竜巻をぶち当てた。

そして、その勢いで"雨の精霊"はゆっくりと上昇し、ありがとう、という声を残し雨雲に消えていった。
その雨雲は風に流れるように遠く遠くへ動き、雨が晴れ、太陽が顔を出す。
久しぶりの、お日様だった。


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