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83 エデンの実情

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「じ、10億?」
「さようです」
「じゅうおく…。アロハオエ10億…。見たことない数字の囁き…、神の試練か? ノオ…」

ゲームでもそんなもん見んわ。
私が虚ろに呟くとおじさんの一人が、あ、なんか今すごい創作意欲溢れたぞ! と言い出し木工始めた。
ちょ、称号"即興詩人"の判定範囲緩すぎいぃぃ! 今の私の呟きは詩かー!?
出来た! と言って私やメリッサちゃん達の分の椅子を作ってくれた木こりのおじさん、ありがとうございます。

私はそれによいしょと座る。
外はまだ土砂降りで、聞かされた金額の途方もなさにため息つきそう。

(えっと、今、先遣隊のプレーヤー人数7人? 私入れて8人? その人数で10億集めるの? 現実だったら首くくるレベルの無理ゲーではないの)

いや、この先遣隊の参加費は5千万か。単体でそれだけ貯めることの出来るプレーヤーなら20人もいればすぐ満額か。…多分、このエデンでしか採集できないアイテムが豊富だろうし。このゲームはボーナスで大金が入ったり、モンスターがお金を落とすことはないけど、無理ゲーというほど困難ではないのか…、と気づく。
マーケットボードがないってことはログイン時しか売り買いできないから大変だろうけども。

そして周囲を改めて見回す。
12畳ほどの狭い小屋。椅子や机はNPC住人の木こりさんの手作りだ。いつの間にか昼食の準備始まっていてドールたちが手伝っている。その食事の支度も木こりのおじさんたちで行っており、雑役をする専門職はいないようだ。そして食器も椅子同様木こりの手作りのようだ。
正直、町の生活に比べて豊かな生活とは言いがたい。


(プレーヤーは生産品提供できないのかな…。それとも10億貯まるまで、環境改善出来ないのかな? ゲームの仕様なら致し方ないけど…)

そこに思考が行き着いたところで、再び転移門が開いた。

その扉から現れたのは、いつもの馴染みの武器屋のおじさん、アルバートさんだったが。
私は思わず驚きの声を上げる。

「……おじさん!? 体が半分になってますよ!!?」
「いや~、痩せちゃってね~」

そう、ガタイのいいアルバートおじさんがヒョロヒョロの細身ウェイトになっていたのだ。





「はー、まだ雨はあがらないか…。仕方ないな。おっと、フェザント少し待ってなよ。プルミエからの手紙を配っちまうから」

驚愕する私を後目に、おじさんはヒョロヒョロと動き、手に持ったカバンから手紙の束を取り出す。

(昨日会った時は普通の体形だったのに、私がエデンに来て状況変わったからかな。しかし、痩せ具合が半端ない~。おばさんやリオンちゃんが心配しちゃうよ、これ)

おじさんは数日に1回プルミエとエデンを行き来し、エデンで得たアイテムを換金しているそう。そして日用品や必需品を仕入れて木こりや私たちに売ってくれるそうだ。
エデンではまだ自給自足すら出来ない状態なので、すべて食材もプルミエ頼り。
そして、今、木こりの家族からの手紙を預かってきたおじさんは皆さんに配布中だ。
その間、ご相伴に預かり、私は木こりさんの手作り料理を堪能。おお、具沢山シチュー、美味しいじゃん。メリッサちゃんやフランソワ君、ペットのみんなもワイワイご馳走になる。

一通り配り終えたら、私たちのテーブルにおじさんが加わった。それと、丸顔神官さんと。

「改めて自己紹介します。私はエデンの神官、トッドです。ご領主のディスケート様の代理人です、ハイ」
「おう、トッドさん。この子は俺の家の下宿人のフェザントだ。まあ、俺の姪っ子みたいなモンだ。狩人でな、ドールマスターの修行中でドールもこの子もいい子だぜ。よろしく面倒見てくれな」

おおう、おじさんがそう思ってくれていたなんて、フェザント、感激!
ていうか、この神官さん偉い人なのね…。
なんか おじさんも神官さんもめっちゃ緩々ゆるゆるだが。

「一人でも神獣様の御使いが増えてくれるのは嬉しいことです。目標額に近くなればこの小屋も大きくできて、ディスケート様をお呼びすることも出来るのですが、ハイ。――いかんせん、今の現状ではとてもとても」

(なるほど、貯蓄額がある程度になると、この環境が変えられるのね。段階踏んで変わるのかな? …にしても)

私は改めて小屋を見回す。
誰が見てもやっつけ仕事で出来上がった建物。粗末な家具。これらも木こりの皆の手作りなんだろう。

(味がある、といえばいいのかな? でも食事の支度も自分たちでやるなんて、木こりさん、働きすぎじゃない? 雑務をしてくれる人がいたらいいのに。先遣隊は有料と聞いていたのに…。これはボリすぎでは?)

少々職場の環境に眉根を寄せているとおじさんがポロリとこぼした。

「せっかくディスケート様が領主になっても、あんまりいい扱いじゃねえよなあ。転移門の成功で賢者ポラリスは王都に戻れることになったが――星読み一族は歓迎していないみたいだしな」
「……?」

私は不思議そうな顔で武器屋のおじさんを見た。
ああ、とおじさんは説明してくれる。

「ディスケート様は高貴な生まれだが星読み一族は一枚岩じゃないのさ。一族の長の座を争ってディスケート様は敗れた。ディスケート様とその半年下の弟君でな」
「半年?」

え? そんなことあるの?

「第2夫人の子だな。第1夫人のディスケート様の母君は離縁されている。ポラリス様はその第1夫人の実弟だ。ディスケート様の母方は貴族だが権勢のある方じゃない。ぶっちゃけ、貧乏貴族だ。そのせいで権力争いで負けたんだな。星黄泉ほしよみディスケートの悪名も弟君側が流したという噂だ。それだけ、ディスケート様の読んだ未来は当たったんだがな」

おお、星黄泉ほしよみディスケートのバックグラウンドが今、明らかに。

「それで離縁された後、母君は再婚し、ディスケート様はプルミエの村に庵を構えていた伯父のポラリス様に預けられた。ポラリス様は実家が貧乏なので神官になるべく幼くして神殿に預けられた方でな。あまり権力とは無縁で生きてこられたんだな。若い頃から神童と持て囃されていたが欲のない、研究者気質だ。結局神官にはならなかったが王都の神殿の研究院で働き、時に研究のために冒険者としても冒険に出られていた。"賢者"の称号もその時期に得たものらしい。自然、ポラリス様の元に行ったディスケート様も、神殿の庇護を受けることになった」

そして、チラと神官のトッドさんを見る。

「さようです。なので今回、神殿の人間がディスケート様の代理なのですよ、ハイ。正直、私どもはディスケート様のような才あるお方を手放す気はございません。ハイ。出来ればこのまま、神殿の庇護の下で健やかにお育ちになるのを望んでいるのです。ハイ」

ただなぁ、とおじさんは続ける。

「ディスケート様はその予知の力を使ってまた王都に戻るんじゃないかと政敵に危惧されている。王都にいる間、何度か命を狙われたという話だ。それもあって、プルミエに住むポラリス様に預けられたわけだ。実際、その予知の力で危機を脱していたらしいぜ。それで、今回のスタンビートを当てて、プルミエを救ったろう。王やその側近は賢者やディスケート様を王都に戻したいらしい。だが、彼らに戻られると困る連中がいる。だからと言って、報償を出さないわけにもいかない。
――その連中が出した案がこの開拓領地の下賜だな」

「つまり?」

おじさんは頬杖をついた。

「報償という名の貧乏くじだったわけだ」

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