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71 姉、来襲
しおりを挟む「わ~る~い~ご~は~い~ね~がぁ~…!?」
ファンシー神殿の階段の先で、立ち尽くす姉を見た時、あ、これ怒っていると直感した。
でも。
(言っていること頭悪すぎないか? いったい、どうして、ここにいるんだ!?)
隣のアリアドネを見ると ふむ、と顎に手を当てて、それからチラと私を見る。
「…もしかして姉君?」
「どうしてわかるの!?」
「ボクと似ていると言っていたからね」
「いやッ、アリアドネの方がまともだから!!」
「ちょっと! それ酷くない? み…フェザントちゃん、アリアドネに殺されたって聞いたんだけど生きているの!? その恰好、幽霊なの!?」
はあ? と私は姉に歩み寄る。
「なに、その情報?」
「掲示板に書き込みあったのよ。またPKされたかと思ったわ! アリアドネが神殿に向かったって書いてたから姉、復讐に来たワケよ」
姉はドンと片手でモーニングスターを振り回し床に叩きつけた。
「なのに生きてんじゃん、妹」
「おうよ、生きているよ、姉。なに、偽情報に振り回されているのよ。姉と私、フレンドなんだから情報確認すればいいだけじゃん?」
あ、という顔を姉は一瞬して、歪んだ口元で小声で呟いた。
「そーだった…。チッ…、アリアドネと一戦交えること出来るかと思ったのに」
ブツブツ言うな。
暴れる理由が欲しかっただけか、姉。
「おねーちゃん。イベント参加者はイベント中の決闘不可だよ」
「うお、忘れていた!」
「それも忘れてたのかい…。おねーちゃん見ていると頭が良いって、成績じゃないんだと思うよ…」
「心配した人間ディスんな~! もう、ボス戦やらないで、大金はたいて冥界門の移動ポータル使ったのに~!!」
それは失礼した。
「彼女が幽霊ならボクもだね。この姿は【魔弾の射手】の呪いだよ。神殿に来たのは解呪のためさ。姉君は過保護なのかい?」
アリアドネが腕を組み、可笑しそうに聞いてきた。この呪いの原因はアリアドネなんだけどそこはスルーか。
なかなか巧みな話術だ、姉が納得している。
私がアリアドネの質問に答えた。
「まあ、そう。あと脳筋」
「フェザントちゃん、もう~! ……いや、アリアドネさん失礼しました。掲示板情報、鵜呑みにしちゃって」
「脳筋は否定しないのだね。なかなか清々しい姉君だ」
事実だからな。
「うん、リアルでも筋トレ趣味なのよ~」
姉が満面の笑みで答えた。
ほらね。清々と擬音が入りそうな笑顔だね、姉。そういうとこ好き。
姉とアリアドネは話しが弾んで、どうやら首尾よくフレンド交換出来たようだ。
「それじゃあ プルミエ冥界門に帰るね」
「転移?」
「そそ。あそこにも実は移動ポータルあるんだよ。直帰するわ。レイドボスに間に合わせる!」
そう言うと、姉はじっと私とアリアドネを見た。
それから、ん~、と考え込み、何か言おうかどうか悩む仕草をする。
「…なんか言いたいことあるでしょ」
ジト目で私の気持ちを伝える。姉のそういう態度は珍しいので。不安になるじゃん。
「う~ん、う~ん…。まあ…ね。……あんたまた新しいドール入手したでしょ」
「え、良く知っているね? そう、さっきのレイド後。あ、私たち徘徊レイドモンスター倒したんだ!」
アリアドネと黒騎士さんたちと一緒にねと私はつい弾んだ声で言った。でへ。
「おお、あとでゆっくり聞かせて。で、そのドールっておいくら?」
(珍しいこと聞くなー。姉はあまりモノの値段知りたがる人じゃないし、ドール種には興味なさそうだったのに)
「20万ゼニーだったよ。丁度レイド後で懐温かかったし、あっ、無駄使いじゃないからね!」
思わず慌てる。
「いや、ゲームの中でまで妹のお小遣いの使い道、監視する気ないから」
姉が呆れて言う。
「監視してたんだ…」
衝撃の事実。
(こ、こ、この女 怖ぇ…)
すると姉はうんうん、と頷き、悪い子はいなかったと呟く。
なんなの?
「ごめん、あとでまた話すわ。アリアドネさん、ごめんね。この子と仲良くしてやって」
姉は今度決闘しようね! とまた清々しく神殿の移動ポータルの転移門に入っていった。
姉、お金持ってんだなあ…。ちょっと裏山。
「ごめんね、アホな人で」
「いや、なかなかいい人脈が出来た。ボクは基本ソロだけど、レイドではやっぱりフレンドに頼ることが多いからね。けど、ほら人権なくてね」
「人権ではなく人望では? せめて【魔弾の射手】の7射目はやめた方がいいと思うよ」
「キミまでそんな平凡なことを!」
驚愕の目で見るのやめてくれる?
呪い受けてるこの姿で神殿来ている私が「どんどんやって♪」と言うわけないと思うの。
さ、とっとと解呪するよとアリアドネの背中を押して、神殿の神官に声をかけた。
神官さんと伴に神官長に会うため、以前入った神殿奥への廊下を歩いているが、何に気を取られているのかアリアドネが押している私に体重かけてくる~。
「ちょーぅっとアリアドネ、体重かけないで~…っ。自分で歩け~」
「……気になるのだよ」
「何が~?」
あんた、結構、重いぞ。言わんけど。
「掲示板情報。なぜ姉君はドール種の値段を聞いたんだろう? 通常はドール種の入手方法と言えばネームドのソロ討伐だ。キミがドゥジエムの闇オークションに参加する資格を持っていないのは姉君も知っていよう? 普通は金銭授受でドール種を入手するとは思わない」
「え? ドゥジエムのオークションって誰でも参加は出来ないの?」
「錬金術師ルートと同じでカルマ値が高くないと参加できないのさ」
はて? なんで私のカルマ値が低いことがわかるのだ?
「さっき【造成】の話をした時、開拓団に参加すると言っていただろう? あのルートはそれこそカルマ値が低くないと派生しない」
それから、しばしアリアドネが無言になった。
「フェザント、キミはいつもは掲示板を見ないのかい?」
「見たのは最初だけ~。基本見ない~っ」
そう言って、勢いよく押したら、アリアドネの体が軽くなり、私が前のめりになった。
アリアドネがこちらを向いていた。彼女はモニターを表示していた。
真っ黒い姿だが、アリアドネの目はハッキリ見えるので、その目が笑っていないことがわかった。
そして真剣な声で言う。
「姉君の言う掲示板情報、見つけたよ。で、姉君は過保護ということでハッキリお話なさらなかったが、キミを特定できる内容だった」
「でしょうね~。じゃなきゃ さすがにあの姉でも飛んで来んわ。アリアドネが私をPKしたとかそういう内容?」
私のお気楽な答えにアリアドネが一瞬躊躇した。
「……姉君はキミは知らない方が楽しくゲーム出来るだろうと判断したと思う。でもいずれ人から聞くとは思う。キミが感情的になりやすい性質なら、リアルで姉君から聞いた方がいいとも――思う」
――慎重な言い方だった。
「……感情的になる内容?」
「一般的にはそうだね。先に解呪した方がいいと思うよ。その後も知りたいと言うなら教えるさ」
「………アリアドネだったらどれ位感情的になる?」
「そうさなあ…。ボクは意外に血の気が多いので、全財産かけての決闘を書き込んだ輩に申し込むね」
「PKしないんだ…」
アリアドネが目を細めた。
「傷つけられたのは名誉だ。さらに自分で堕としては意味がない。キミは?」
私が答える前に、彼女は先導する神官に促され、神官長の部屋のドアをノックした。
解呪後、アリアドネの見せてくれたモニターには、『ファンシーライトオンライン』の掲示板のスレ名が見えた。
【悲報、狩人ちゃん希少ドール種を買い叩く】
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