上 下
66 / 92

66 愛と葛藤

しおりを挟む


キッチンデビルは美味しかった。
あ、いや、食べていないよ? デビルからポップしたものが美味しいという意味で。
称号"冥界へのしおり"が超有能だった。これはダンジョン限定だが、貴重なアイテム取得率アップなのだ。
なので戦利品は"ダシノモト"だけでなく。

「これは"巨匠の包丁星3つ"!すごい、【料理】のグレードがアップする…! これは"亜魔糖"! お菓子のステータスアップレシピに欠かせないんですよ! ここで入手できるなんて…!」
「見たことない魔法具持っているんだな、キッチンデビルって。"悪戯シェイカー"…。あ、戦闘中に味方の位置の入れ替え出来る。へぇー」
「わーい、やった、新しい称号出た! "デストロイヤー殲滅者"だってー。複数の敵を恐慌状態にするってー! 強そう!」

それぞれウハウハしながら欲しいものを入手し、ありがたいことにお礼と言ってサーシャからは評価5の料理をたくさん。クロからは自作の幻想器をもらった。

「トランク?」

それはアンティークな白いトランクだった。幻想器はあまり見ないのでどういうものかよくわからない。
ダンジョンの途中、デビルのポップ待ち中に使い方を教えてもらう。サーシャも興味津々だ。

クロはトランクを縦にして洞窟の床に立てる。トランクの蓋の口は小さな宝石が付いていて、これをカチリとずらすと蓋がパカリと開いて、開いた先、トランクの中は――。

「牧場…?」

しかも、日暮れなんですけど。
鞄の中を、雲がプカプカ浮いている。あ、今雨雲通った。お天気雨だわ。え? なにこれ。

「評価はそう高くないから気にしないで貰って。サイズ調整で牛とか豚とか小さくして運べるよ。魔法具屋では運搬によく使われるんだ。牧場にしたのは俺の趣味」

「ああ、インベントリの代わりの魔法カバン!」

NPC住人が持つんですよとサーシャが教えてくれた。インベントリと違って、生き物も入れられるそうだ。

「容量がそう大きくないから。魔法具類、譲ってくれたお礼」
「え~、なんか、メチャ私得していない? いいの? ありがとう!」

基本、私は頂き物は遠慮しない。
いいの? でも悪いから。え~、でも~。いいの、貰って貰ってとかのやり取りがメンド臭いから。
様式美だなと敬意は抱いてはいるけども。同い年の友達には いらんだろ。
――と、いうので、わ~いと貰った。そそくさとインベントリにしまい込む。

どうしよう、新しい土地に行くのに、なに入れていくかな~。ドゥジエムの色変わりする羊さん捕まえて入れちゃおうかな~。

「クロ、困ったら何でも言って! 手伝うからね」
「その時は遠慮なく」
「うわ、フェザントちゃん、めちゃくちゃモノに釣られる女じゃないですか…」

う、サーシャの突っ込み、鋭い。ひ、否定はしない…。よく姉にも言われるのだ…。





そんな物欲のフィーバータイムを満喫した後、サーシャはプルミエに戻り、生産でのポイント稼ぎに行くと言う。プルミエでは籠城準備が始まっているらしい。
クロはログアウト、私はせっかくなので地下2Fへ潜ることにした。
地下2Fは敵は強くなっていて、さすがに一撃とはいかなかった。
ミミッキーが意外に魔法耐性が高く素早さもどうやら私より上で、メリッサちゃんのバフでさらに速さの上がった彼が釣ってきて罠で足止めし、私が物理で止めの流れで割と調子よく進んでいった。2Fにはけっこうプレーヤーもいたので狩場独占とはいかず。だが、モンスター自体は外に外にと出てくるのでひっきりなしの戦闘だった。

(順調、順調! メリッサちゃんも、ミミッキーもLv上がったし)

ご機嫌で進む先、そこで気になるものを見る。

珍しい、1/12ドールだった。

(……メリッサちゃん以外初めて見た!)

だけど、そのドールを連れたプレーヤーはどうやら――修羅場だった。

「もう、コイツ全然使えないじゃん! 捨てていっちゃえって!」
「バカ言うな。こいつ、いくらしたと思うんだよ」
「じゃあ、売っちゃえば? インベントリに仕舞いっぱなしにも出来ないし、ドール種マジうざい」
「……つったって、武器屋や魔法具屋じゃいい顔されねえし……、オークション出すにも手数料かかるし。せっかく紅薔薇出し抜いたんだしさぁ」
「でもコイツが戦闘で役に立ったことある? だいたいさ、この体型で剣士職って、ないわー。あたしも戦闘の効率悪いのそろそろ我慢出来ないんだって!」

見たところ、ドール種の持ち主は男性プレーヤーの方で、それに文句を言っているのは女性プレーヤーだった。男性プレーヤーの傍では【変化】で小学1年生サイズになった、赤毛の2本のおさげのドール種が所在なさげに不安そうに立っていた。
その風貌は、私のところに来たばかりのメリッサちゃんと同じ、木靴に生成りのワンピースのまま。

(ド、ドールマスターのクエやっていないの…か…な?)

あのあと知ったけど、ドール種の防具制作には特殊アイテムの『ドール種の古いカタログ』が必要らしい。普通に作っただけではクエスト達成されなかったという書き込みがあった。

(でもあのカタログ、入手はそう難しくはなさそうだし、別にクエスト達成しなくても着てはくれるみたいだし…。き、き、き、気になるぅ~!)

――なので、しばしの葛藤の末、首を突っ込んでしまった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~

まきノ助
SF
 高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

基本中の基本

黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。 もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。

蒼き臨界のストルジア

夜神颯冶
SF
              現実は残酷で酷い      だからこそ我々は変えていかなければいけない            命の痛みを知らなければいけない          戦わなければいけない     

病弱少女と青年ロボット

りょうか
SF
ひとりの少女と廃棄場に捨てられた一体のロボットが触れ合う不思議な物語。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

半妖姫は冥界の玉座に招かれる

渋川宙
ファンタジー
いきなり部屋に御前狐のユキが現われた! 今まで普通の女子高生として生きてきた安倍鈴音だったが、実は両親には大きな秘密が!! さらに突然引退宣言した妖怪の王の跡継ぎ問題に巻き込まれ・・・ イケメンライバル・小野健星や妖怪たちに囲まれ、異世界生活スタート!?

処理中です...