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58 成功報酬

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あの後。
イベントクリアのメッセージの後クロを見たら、いつの間にか伯爵は床に降ろされていてクロの背中の背負子も消えていた。
な、なんか、爆笑するポイントをずらされたような、何気に悔しい…。

「何事ですか!?」

突然現れた私たちに神殿の神官さんたちが大慌て。わらわらと人が集まり、周囲に人垣ができる。
私、神殿来たことないので神官職初めて見たー。中にはプレーヤーも混じっていてロールプレイなのかちゃんと神官職の制服着ているよ。すごーい! …というか、私自身が町娘服のロールプレーヤーじゃん…。何をいまさらな事に気がついた…。

「私はプルミエ湖畔の村に住まうポラリス・アストロフ。神殿長にお目にかかりたい。こちらにいるプルミエ伯爵の治癒を願いたい!」

周囲が騒めき、モーセのごとく人垣が左右に割れ、開いた扉から年老いた女性がお付き人にかしづかれながら現れた。

「これは、いったい…? いえ、ともかく奥へ。あなたたちも」

この人が神殿長かー。女の人なのね。あ、こちらへ、と私たちも促されている。ともかくパーティーメンバー全員神殿長に付いていく。途中、神官ロールのプレーヤーにSSとられているんだけど。メリッサちゃんとジローさんはインベントリにひっこんでいるんだけどな?

「有名税だけど、いやだったらブロックしてもいいと思うよ? きみたちは配信していないんだし」

私の戸惑いが伝わったのか、前を歩いていたペケポンさんがこちらを首だけ振り向き言う。

「あ、ペケポンさんはいつもはゲーム系アイドルのマーヤさんのパーティーだからか。マーヤさん、このゲームのSNSにも動画アップしているもんね~」

(それで撮られているのか、納得、納得。て、いうか、ペケポンさんリアルフェイスだよね?)

現実の彼、ペケポンさんを知っているのでついつい余計な詮索しそう。自重。

「あ、俺とワンはマーヤと同じ事務所なの。俺たちもモデルで仕事してんだよね。その付き合いもあって、今回マーヤの動画にもリアルで出てんの」

顔をポンポンと叩いてペケポンさんが言う。
おおー、一般人ではなかったのか! なるほど、それならファンクラブにも納得だ。

「そ…、それは失礼しました! …て、言うかペケポンさん超能力者!? なんで私の考えていることわかったんですか?」
「いや、妹ちゃんはわかりやすいよー」

ケラケラ笑う彼にクロがうんうん頷いていた。ええー…? ちょっとそれは反論したい。むむぅ。ところで"ワン"て誰だ? …あ、陸上部の部長さんの方か。

「もしかして、クロくんをマーヤさんと勘違いしているのかも」

サーシャの発言に私とサーシャは思わずクロを見る。クロのアバターの顔は、お姉さんのマーヤさんのアバターとそっくりな顔なのだ。
……そのせいか、たまに私もクロが男の子だと忘れてしまう。悪い。
クロに対して男性恐怖や人見知りがまったく出ないのはこのおかげかもしれない。

「もう慣れた」

肩をすくめるクロの諦観混じった仕草を見て、私とサーシャは笑ってまた歩き出す。
ペケポンさんだけは少し私ををじっと見て、立ち止まっている。

「な、なんですかー…?」

ペケポンさんはあまり親しくないから、やっぱちょっと真面目な顔されると少し怖い。しかもイケメンの彼はモデル体型で背が高いのだ。思わずクロかサーシャの後ろに隠れたくなったのを我慢する。
だが、ペケポンさんは相好を崩して言う。

「んー、妹ちゃん、もしかして自覚ないの? きみ、結構有名プレーヤーだよ?」
「まあメリッサちゃんが今のところ唯一の1/12サイズドール種だってのは知っていますけど…。そのせいでファンシーでは結構SSや動画撮られますから」

(有名プレーヤー…。それは言い過ぎ! 恥ずかしい)

「えっと、今は許可していないので動画では顔はぼやける仕様だし、もともとリアルフェイスではないのでそこまで気にしていないんで」

最初のアオハお兄さんとのドゥジエムでの戦闘動画でだけ顔出ししているんだよね。と言っても数あるフェイスパターンをちょっといじっているし、リアル顔とかけ離れているもん。
そうそう、アオハお兄さん元気かなー。動画はたまに見ているが、なぜか毎回フィールドでコケている…。最初の動画でコケたの、受けたのかな? 存外あざといのか、もしや。

「妹ちゃんが気にしてないならいいけどさ。多分、きみの強さはどれくらいか気にしだす連中も出始めるんじゃないかな」
「え? なんで?」

――マジなんで?

「多分、このハウジングイベントで神殿長じきじきに対応してくれたパーティー、俺たちが初めてだからだよ」

そう言って彼は華やかに笑った。



***




神殿長に付いてきた私たちは高台のテラスで眼下にファンシーの町を見渡しながらお茶なんか楽しんでいる。
伯爵ご一家とディスケートたちは神殿長の部屋にとどまり、伯爵自身はクラウスさんたちが病室に連れて行き。そこで治癒を受けているそうだ。

「おお? 新しい茶葉ですね」
「最近、紅茶メーカーがスポンサーに参加してたよー。そこのだね!」

ギルドで出しているクッキーにハマった私はリアルでお店で探して見つけたのだ。以来、ゲーム内で出ているスポンサーの食べ物にも詳しくなった。
搾取されている。美味しいからいいか!

(そういえば、さっきペケポンさんの言っていた"神殿長じきじきに対応してくれたパーティー、俺たちが初めてだから"…って、どういう意味合いなんだろ。もしや、もしや…。無料特典が…? き、期待してしまう)

同じことを考えていたんだろう。サーシャと目が合い、ニマァと笑う。私とサーシャは二人してにやにやが止まらなかった。ペケポン…。罪な男よの。

そうこうしているうちに、扉が開かれ、神殿長と護衛対象の伯爵令嬢と、ディスケートたち。S級冒険者、クラウスさんとヘレンさんが入って来た。
ペケポンさんが立ち上がり、私たちも思わずそれに倣った。
神殿長が深い笑みを浮かべ、お座りなさいと言った。おお、優しそー。
そして最初に話し始めたのはお嬢様…、伯爵令嬢だった。

「今回は誠にありがとうございました。あなた方のおかげで伯爵は、父は一命をとりとめました。すでに意識は覚醒しています。母は今父に付き添っているためここにはおりませんが、母からも十分なお礼をと言付かっていますわ」

神殿長はそれに目を細め紅茶を飲み下す。

「そこでギルド経由でお支払いする報酬の他に、感謝の意を込めたものをお贈りしたいと思っています。ですが、お恥ずかしい話ですが、私どもには正直金銭的価値のあるものを用意するのが難しく…。なので、あなた様たちに土地をご用意したいと思います」

令嬢がそう言うと、眼前に土地の3D立体映像が現れた。

「うわぁ、プルミエの一等地! ここ、貴族街ですね!」

歓喜の声を上げたのは、サーシャ。
彼女の手元でくるくる回る立体映像は土地周辺まで現れていて、瀟洒な塀に囲まれた平らかな土地だ。周囲には貴族が住むような屋敷が立ち並んでいる。
ペケポンさんの手元に現れた立体映像はきちんと造成された土地だが、貴族街ではなかった。プルミエの門近くの繁華街のさなかだ。
そして、クロは。

「湖畔の村の土地! リゾート地じゃないですか~」

クロの手元の土地は近くに船着き場がある湖近くの湖畔の土地だった。

(うわあ、噂には聞いていたけど、綺麗な風景~。まだ、私、湖畔の村にも行っていないんだよね。いいなあ)

そして、私は自分の手元を見た。

…それはどう見てもリゾート地ではなかった。
リゾートどころか、近くに家一軒、店一軒ない――言うなれば、無人の荒れ地、だった。
林立する木々、高さのある葦の原。ただ、流れる川は浅く幅広だがとても澄んでいて美しく、穏やかだった。

(まさか、貰える土地にパーティー内で格差があるなんてなー…)

ずい、と前に出たのはクラウスさんだ。

「――期待外れだったか?」

その言葉に私は思わず顔を上げる。失望が顔に出ていたかと羞恥を覚えた。思わず顔を隠そうとしてしまう。
その私の仕草を見た彼は微笑んでいた。

「そこは、ディスケートの領地だ。まだ全くの未開の土地だがな」

えっと驚きの声をあげたのはペケポンさんだ。
気にせずクラウスさんが続けた。

「ポラリスの新しい幻想器が成功したからな。今さっき、王都と魔法具で連絡して話は通した。これから未開拓の土地に俺たちも含め冒険者を送ることになった。新しい街の開発だ。――新たにディスケートに領地が賜り、プルミエとファンシーから移民を募集することになったんだ。その、先鋒だな。……この選択はお前を見込んでのことだ」

私はごくりと喉を鳴らした。
続いた、彼の言葉に。

「開拓団に参加して欲しい」

カランカランと鳴るシステム音。ワールドアナウンスだ。

《――各町の神殿に移動ポータルが設置されました。未開の土地エデンが解放されました》
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