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49 ハウジングイベント その壱
しおりを挟む(おっと、噂どおりの旅人嫌いか)
私は思わずクラウスをマジマジと見た。そんな私の不躾な視線に気が付き、彼が眉を顰める。
「あんた、見覚えがある」
わ、覚えているのか!
驚いたけれど、それなら、と私は彼らに向き合う。
「はい、以前魔物から助けてもらいました。あの時はありがとうございます」
ふかぶか~と頭を下げた。
そういや、あの時、彼は割符に注目したよね。この再会はフラグ回収かな。
「ああ、何事もなく再会出来てなによりだ」
ヘレンもこっくりと頷いた。
ヘレンは今のところセリフを喋ったことがないらしい。ちなみに顔出しも皆無。アレかな、某錬金術師の弟と同じネタとか?
「ほう、フェザントは二人と面識があるのか」
プルミエギルド長が珍しいものを見た、というような口調で言う。
「俺だって旅人全員見境なく敵意を持つ訳じゃない。彼女は狩人で、プルミエの住民のために食肉を率先して卸してくれていたと聞いた。そういう者に対してなら俺たちの態度も変わるさ」
(あら。狩人の依頼完遂は結構高評価なんだ…)
「それでは打ち合わせを始めてもかまわんかな?」
「――ああ」
それぞれが椅子に付き、自己紹介を終える。
そして具体的な話をギルド長から聞いた
「まず、準備が整ったらプルミエ西門の外にある"金の雄鶏亭"という茶屋に来て欲しい。そこに馬車も用意してあるのでな。護衛対象に引き合わせよう。彼らを守りつつ、夜のプルミエからファンシーへの森を抜けてほしい。途中、休憩をはさむことになる。ご一家は強行軍に慣れていないのでな」
(ご一家?)
ギルド長の表現に一瞬首を傾げる。
すると、クラウスがこちらを向き私たちに声をかけた。
「俺たち冒険者には慣れた道でも、一般人には馬車の揺れもあって一気に抜けるのは困難だ。森の開けた場所で一刻ほど休む。食事や休憩の準備も俺たちの仕事だ。人数は俺とヘレン、星読みの子供とその保護者、ご一家は3人家族で合計7人分。必要なものはそちらで準備してくれ。かかった費用は後でまとめて支払おう」
それから彼はチラと相棒のヘレンを見る。彼女は頷いた。そして、クラウスは続ける。
「俺たち護衛は危険があるから雇われたということを忘れないで欲しい。…今回、一番用心して欲しいのはモンスターじゃない。……人間だ」
「人間?」
…と、言うと。
「ヘルメス商会?」
思わず私がこぼした。
すると、彼らの視線が一斉にこちらに向いた。
「さすがに気づくか。ああ、今プルミエを陰で支配しているのはヘルメス商会の会長、ワルザだ。ワルザはこの島の領主の娘婿だ。――そう、お察しの通り、ご一家とは、高齢の現領主夫妻とお嬢様の3人だ」
(いや、全然察してないし!)
思わず意気揚々と護衛対象の正体明かすクラウスさんに突っ込みです。
だが、サーシャからメッセージが入る。
サーシャ:お手柄です、フェザントさん! クラウスから護衛の対象一家の正体を事前に話してもらえるのは、クラウスの好感度が高い証拠。普通はギルド長が説明役なんです。幸先いいです!
サーシャを見るとテーブルの下で親指立てていた。
おおう、良かった。失言したかとちょこっとヒヤヒヤでした。
クラウスの言葉を引き継ぎ、ギルド長が難しい顔をして口を開く。
「ヘルメス商会は主に薬草を扱っていた。その縁で会長のワルザは島のご領主様と懇意になり、一人娘であるお嬢様と結婚したんじゃが――。ご領主様の持つ爵位は妻たるお嬢様が相続するものだったが、そのお嬢様を差し置いて自分が爵位を継ぐと言い出した。
当然、伯爵家は困惑した。じゃが丁度その頃、旅人がプルミエで独自のルートで商売を始め、商業ギルドや薬師ギルドがそれらに振り回された。しかし それに目を付け、ヘルメス商会のワルザは率先して旅人と取引し、皮肉なことにギルドではなくヘルメス商会がわしら住民の利益を少なからず守った。プルミエの商業ギルドを牛耳っていた【暁旅団】が二分され、プルミエで勢力を縮小したのもそのおかげ。その結果、今や領主たる伯爵よりワルザは発言権を持つことになり、今度はヘルメス商会に歯向かう者を弾圧し始めたのじゃ」
ふー、と息を吐きギルド長は唇を紅茶で湿らせる。
「弾圧って…」
私の脳裏には、薬草を買い取ってくれなかったお店と、眼前で消えたプレーヤーのお店を思い浮かべる。
ヘルメス商会はプレーヤーすらも意に添わねばプルミエでの出店を取り消しできる。
(……なんとなく、プレーヤーのせいでプルミエが魔都になるっていう意味が少なからず理解できた。そういうやり口をプレーヤーがゲーム内で行って、ゲームAIに学習させちゃったんだな~)
同じ事を考えていたのか、サーシャやクロやペケポンさんと視線を合わせてしまった。
ギルド長の話は続く。
「お嬢様はワルザとの離縁を決断したが、ワルザはさすがに頷かなかった。この島は王家から伯爵が頂いた領地。お嬢様と離縁となればいくら町の有力者と成り上がったとしても、ワルザが爵位を奪うのは無理があるでな。それで、ワルザはご一家を監禁し、伯爵に毒を盛った。永遠に眠り続ける薬じゃ。ともあれ、このままにはしておけん。眠る伯爵とその家族を急ぎ神殿に連れて行く。解毒を施さねばならん」
(あー、そっか。NPCも死なないゲームだもんね。天国門前から出戻り可能だから、眠り薬かぁ。伯爵は死なないから相続も発生しないし、それでワルザが自分の奥さん…、お嬢様を監禁して立場利用して好き勝手やろうというのね。何たる、何たるDV男…! 許せん!)
「そんな薬の入手元はおおよそ察せられるが――。奴は悪魔に魂を売ったのじゃ。その証拠に冥界へ続く門が現れた。あれはその地に住まう人間の心が堕ちると現れる…」
ギルド長の言葉にいや、それもプレーヤーのせいですとは言えず。
正しくは私の所業です。
「護衛が必要ということは、ヘルメス商会から追手がある、ということじゃ。神の遣わした旅人のそなたたちは、人間相手にその剣をふるうことになる…。その覚悟はあるか?」
私たちが沈黙していると、クラウスとヘレンが立ち上がった。
「――彼らをプルミエから脱出させる。ヘルメス商会が監禁している屋敷から連れ出す手筈はすでに整っている。これは俺たちが請け負う。あんたたちとは"金の雄鶏亭"で落ち合おう」
くるりと背を向け、二人は扉に向かう。だが、クラウスがチラリと私たちに視線だけ向けた。
「まあ、無理はするな。あんたたちがこの仕事から降りても、誰も責めはしないさ。神の使者が人間相手に不快な思いを好んですることもない。旅人にとって、ここは異世界、しょせん遊び場だろう?」
彼はそれだけ言い捨てて、ギルド長室から出て行った。
するとポーンと軽やかな音がして、視界の端に時間が出ている。――60分。そしていつものアナウンスが流れた。
『ハウジングイベント:"プルミエからの脱出"はタイムアタックです。今から現実時間60分以内に護衛対象全員をプルミエの神殿に連れていくこと。護衛対象の満足度により、購入可能のハウジングスペースが変わります。タイムオーバーすると購入不可となります。このイベントはタイムオーバーによる購入不可判定の場合のみ再チャレンジ可能です。初チャレンジで時間内に脱出成功し、護衛対象からの評価が高得点の場合、無料購入可能です。また、チャレンジ時のジョブLvによりヘルメス商会の屋敷からの伯爵一家脱出イベントから行えます。最終確認になります。本イベントを開始しますか?』
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