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41話

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「うーむ、まずはニンジャさんたちの住宅の建設ですわね…」

トンテンカンテン、トンテンカンテン。

「それに近いうちにエレスチャレの町にも顔を出したいですわ。あそこが、私が代官としてお仕事するこの地域で最大の町ですもの」

カチャカチャ、ガチャガチャ。シャコーシャコー。

「あと、新しい住民の皆さんはもしかして薬売りが なりわいでは? エレスチャレ館でリビアンさんが医療院を開業するなら そこに医薬品もおろしていただけないかしら? ねえ、どう思います?」
「お嬢様、うるさい」

ガーン! 晴れた日のティーブレイク。薫り高い紅茶とクッキーをつまみつつ、私は自分の考えを披露したらピンクが一刀両断したー!

「げどう! ピンクはそこいじが悪いですわ!」
「誰がピンクだ。お嬢様、俺のこと脳内でピンク呼びしてたんですか? ああ? つか俺らが何しているかわかって言っているんですか?」

あ、外道の方は否定しない…。モルダヴァイトは外道自覚しているんか…。

「ええ、わかっていますわ。冬の寒いさなか、わたくしのワガママでロープウェイとゴンドラ設置にいそしんでいただいています…」

と、モジモジしながら言ってみた。
ちなみに今、私はモルダヴァイト、アンバー先生、スピネル君、そしてコンクシェルのメンバーで森の入り口まで魔獣避けの刻印の入ったゴンドラを設置中です。
雪の中、肉体労働中の彼らの脇で、スピネル君の用意してくれた簡易椅子に腰掛け、おやつ堪能中…。
確かに、これは人としてどうよ。

「恥ずかしいですわ、気がつかず。ささ、モルダヴァイト。どうぞ、召し上がって」
「おやつ欲しいワケじゃないんですけど」

とか言いつつ、遠慮なく私の出した皿からクッキーを受け取り咀嚼するモルダヴァイトに、スピネル君が無言で背中に手刀かました。
あの、魔力で身体強化した彼の腕力って、通常の九歳児レベルじゃないよねぇ…。
モルダヴァイトが前のめりに勢い良く転んだあげく、盛大にむせているんですけど。
スピネル君、あれ、ちょっと目が怖いよ?

「まあ、丁度いいです。一息つきましょうぜ」

コンクシェルとアンバー先生も椅子を広げ、空晶館の手前から森の入り口迄 一通り立てたゴンドラの支柱を見上げる。スピネル君がポットからお茶を注ぎ、彼らに配り、私もそのお手伝いだ。

「お嬢様は本当に、発想が面白いですなあ」

コンクシェルが熱い紅茶を一口飲んで呟いた。



そう、ロープウェイ。
前世ではスキー場や、山中では珍しくない移動手段だが、この世界にはなかったのだ。
私の今ひとつ造りを理解していない説明を、アンバー先生と専門家のコンクシェルが解読し、設計してくれたのだ。

あの例の睡眠のシャチハタの魔法陣部分を、アンバー先生の開発した魔獣避けの陣に変えて、それをスタンプした駅舎やゴンドラを設置して、エレスチャレ館から空晶館への安全な移動手段にしようと考えたのだ。

今の現状では、魔獣がわちゃわちゃいるこの森に入るのは、村の人達だけでは正直危険で、だからと言って、いつもシルバートやアンバー先生ら、孤児院の腕利きを迎えに出すことも出来ない。

だが、アンダリュサイト村で受け入れる退役ニンジャの家族の件、シャチハタ量産の件、また、代官の仕事の引継ぎなどでエレスチャレ館のリビアンさんやアンダリュサイト村の村長とのやり取りが必須だ。
電話もメールやチャットもない世界なので、基本 書簡でのやり取りになる。
すると空晶館と村との間で、配達人だけでの安全な往来が、可能でなければならない。

私がエレスチャレ館に住めば問題はないだろうが、安全面から言うと、やはりこの空晶館にいた方がいい。
エレスチャレ館の建っている場所は、ギリギリ 空晶の土地から外れているので、最後の守りである空晶の魔法が届かない場所になる。
精霊の契約者を、精霊の守りの外には置きたくないと、スマラルダスが判断した。

そこでロープウェイです。

ロープウェイの駅、支柱に魔獣避けのスタンプをして、ロープウェイの動線を魔獣の寄ってこない安全地帯にするのだ。もちろん、ロープウェイのゴンドラ自体にも魔獣避けは施す。
そうしたら、シルバートらに頼らない一般の村人がアンダリュサイト村から空晶館まで立ち寄れる移動手段となる。
アンダリュサイト村周辺は高地なので雪が積もる。
馬ソリでの移動方法もあるけれど、屋根つきのゴンドラなら、多少の荷物があっても移動できるし、できれば将来的に、あの浜辺や、エレスチャレ町、魔鉱石の鉱脈の可能性のある場所への設置も考えたいところだ。
このエレスチャレ地方一帯は山なので、高低差が激しいから丁度いいと思うんだ。

勿論、動力は魔石を使用なので無尽蔵とはいかないから計画的に一部の道だけになるけれど。
少なくとも、この空晶の森の中での安全地帯を確保したいのだ。

さてさて、そんな思惑で始めたロープウェイ設置。錬金術で客車のゴンドラは完成しているし、支柱自体は空晶館で骨組みを作っているので、あとは現場でその組み立て--という次第。
アンバー先生とスピネル君が大活躍。これは、人目にさらしちゃダメだなと私でも思うレベル。
その部品の接続はシャチハタの魔力スタンプで行う。
さすがに駅はコンクシェル先生に魔法で建ててもらいました。これに関してはちょい 出費が…。

あと、この"空晶の森入り口駅"--"空晶館前駅"間のロープウェイ運行で、吹きさらしの屋外でスタンプが実際に消えないか、なども実証実験しようという思惑。

最後のゴンドラ自体をつなげ、その中に乗り込み、最後の一人-コンクシェルがゴンドラの外、すぐ脇にある私の肩くらいの高さの柱に埋め込まれている魔石に手を置く。すると勝手に体内の奥の魔力を感知してガコンとゴンドラが動き出す。この世界で魔道具を使うのに一般的な方法だ。
小さい魔力なら、一般人も体内に沈んでいるのだから。
その魔力をスイッチにロープウェイは魔石の中の魔力をエネルギーにして動き出す。
設置した魔石の魔力が空になる前に、定期的に魔力を充填した魔石と交換して使うのだ。

コンクシェルが乗り込み、扉を閉めて、小さな無人駅からゴンドラはゆっくりと滑り出す。
ひさしから抜けて、明るい空の下に出た時、思わず私とコンクシェル、ピンク…いやモルダヴァイトが歓声をあげた。アンバー先生はともかく、スピネル君もはしゃごうよ!

「屋根があるのがいいな。寒さもしのげる。大荷物は後ろの荷台に載せられるしこれは便利ですよ、お嬢様!」
「いいですね。揺れも少ない。そこそこ速さもあるし、景観も楽しめる」

モルダヴァイトもアンバー先生も満足そうだ。
ふふ、椅子は背もたれもクッションつきです。冷えたらイヤですもん。
客車のゴンドラは結構大きく、私のリクエストで防寒、防暑効果も盛り込みました。
乗り込み制限人数は二十人まで。
隣を空の客車がすれ違う。
空晶館までの道なりに設置したので、伐採した分また木材が増えてしまったな。

「周囲の索敵しましたが、魔獣は一定距離から近づきません。アンバーの魔法陣の効果ですね。馬車道も効果の範囲内のようですね。予想外の効果です」

スピネル君が冷静に周囲を感知する。
コンクシェルも頷き返した。

「魔除けも接合もスタンプ自体は問題ないですな。まあ、アンバーの魔法陣だからもともと効果は折り紙つきですがね」
コンクシェル専門家がそう言うなら心強いですわ。…でも、アカハナトナカイで移動すればもっと便利だと思うのですけれど」

私は今だ諦めきれずに口にする。

「あれは、数が少ない内はアイアンディーネ様の万一の脱出手段以外では使用したくありませんね。ニンジャがもしかして情報を外に売る可能性もあります。警戒は緩めたくないんですよ」
「アンバー先生…」
「七歳のアイアンディーネ様には酷な視点を強要しているかもしれませんが、用心するに越したことはありません…。フロウライト伯爵夫人は今だ健在なのですから」
「いいえ。アンバー先生の言うとおりですわ」

そうだ。
私は代官任命された時点で、フロウライト伯爵家の跡継ぎレースに名乗り出てしまったんだ。
望む、望まないに関わらず。
国王や、フロウライト伯爵領の他の代官が、私を伯爵家の長子と認めたのだもの。
貴族としての魔力の有無は、空晶との契約で吹っ飛んでしまった。
これはパール可愛さに、フロウライト伯爵夫人や、彼女の実家のハーキマー伯爵が私の命を狙ってもおかしくない。
命を狙われなくても、自分たちの利益のため、アカハナトナカイの強奪もやりかねない。
彼らの欲した子爵位のため、実際エレスチャレ子爵は彼らの罠に嵌ったのだ。
その子爵位を今現在持っている私は、やはり彼らにとって邪魔な存在なのだ。
退役ニンジャを受け入れるのもこの空晶館やアンダリュサイト村の防衛の手段だし、用心深くあるのは当然だな。

それに--。

私はチラとスピネル君を見た。
彼は私の視線を見つけて、微笑む。エンジェルスマイル。

隠さなければならないのは、アカハナトナカイだけではないのだ。

私がスピネル君とスマラルダスから、スピネル君が彼らの元で育つ経緯を聞いたのは、ソーダライトのお祖父様が帰った直後だった。


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