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7 ビジネスホテル
しおりを挟むアレクレットはクラウディオが選んだビジネスホテルに来た。
必要最低限がそろっただけのシンプルな作り。だが、配色や照明の配置に工夫があってちょっとオシャレな感じがした。
二つ並ぶベッドの片方にクラウディオが腰掛け、アレクレットにも座るように勧めてくる。向かい合うように座れば膝が当たってしまうくらいに距離が近い。
「それで、妖精王の祝福を持ってるのはあんたなんだろ?」
コクンと頷く。
クラウディオは拳をグッと握り興奮を隠さず、見せてもらえるのかと腰を浮かせて聞いてきたので、アレクレットは両手を広げて『条件がある』と相手の動きを止めた。
「やっぱり、金か? ・・・一千万までなら、用意する」
「違う違う、そうじゃなくてっ、あのー・・・抱いて、欲しいんだ・・・」
尻すぼみに小さくなる声をクラウディオは聞き漏らさなかったが、その意味はすぐに理解出来るものではなかったようだ。
「抱くって、セックス、だよな? そりゃ、ここまで来て、男は無理ですなんて言わないが、・・・その、祝福持ちのあんたが言うと、違う意味に聞こえるんだが?」
すでに察しがついているのなら、アレクレットの恥じらいは可愛いより鬱陶しいだろう。服のボタンをモジモジと弄っていた手を止めて、両膝に両手を置いて背を伸ばしハッキリと頼みを声に出した。
「子どもが欲しいから、精子を中に出して欲しい!」
一瞬、あっけにとられたクラウディオは腕を組んで眉を寄せて低い声で唸る。しばし、あー、えー、うーん。と悩んだ後、困った様子で確認の質問をした。
「・・・子どもの父親になって欲しいって意味じゃないよな?」
「違う。精子、子種だけ欲しいんだ」
アレクレットは、産みの父がヘテロなのにゲイの子種の父と結婚して、そのあとの結婚生活が上手く行かなかったと言う話と、過去に女性と付き合ったけど別れた話。その時の彼女に指摘されて、妖精王の祝福を消したいという目的のために女性と結婚しようとしていたことに気づいた話をした。
「だから思ったんだ! 結婚せずに子どもを産めば良いんだって。ただ、やっぱ、自分の精子では妊娠出来なかったから子種だけは誰かから貰うしかなくて。だから、ほんと、子種だけでいいんだ」
「いや・・・さすがに、そんな無責任なことは出来ないよ・・・」
「子どもの養育費とかも請求したりしないからっ」
「白い結婚というか、友情結婚とかじゃダメなのか?」
「・・・結婚は、したくない」
「でもなぁ・・・」
事情を話している間からクラウディオの熱が冷めていっていることには気づいていた。説明している途中から『条件がある』なんて言わずに『抱いてくれ』の一言で良かったかもしれないと後悔していた。
けど、クラウディオは真面目な人間だ。きっと男同士だからと、避妊具をつけない配慮のないセックスなんてしなかっただろう。
いや、そもそも、子種を貰うだけなら誰でも良かったのだ。妖精王の祝福を知られたくないだけなら、服を脱がずにするなど方法はあったはず。そして、妊娠するまでマッチングアプリなどを使ってワンナイトを繰り返せば良かった。
そう自分の行動を反省すると、クラウディオに対する申し訳なさが膨らんで、今すぐ逃げ出したくなった。
「無理を言って済まなかったっ、この話は忘れてくれ! 僕は帰る! ホテル代は払っておくから、君は泊まっていって良いからっ。あ、くれぐれも僕が祝福持ちだということは秘密にしてくれよ。じゃあっ!」
アレクレットは脇においていたカバンを引っ掴み立ち上がる。ベッドの間は狭くてクラウディオの長い脚に足を引っ掛けてコケかけたけど、ベッドに手をつけば危ないということもない。
白っぽいズボンに靴の汚れがつかないように大きく跨いだところで、クラウディオに後ろから捕まえられた。
「ちょっと待て、抱かないとは言ってないだろ!」
「もういいんだっ、離せよ! 君みたいな真面目な人に頼むようなことじゃなかったって思ってる!」
アレクレットは腰に回された腕を掴み、払い退けようとしたが、クラウディオはより一層力を込めてきた。
それでもアレクレットを傷つけないように配慮された手は優しく、その隙を突いて腕の中から逃れると、クラウディオの手がアレクレットの二の腕を掴んだ。
「聖紋を見るまで、離さねぇよっ!」
腕を掴む手は力強く、手首を掴んで引き剥がそうとしても逆に力を入れられて少し痛い。ならば、体幹も使って引き抜こうと距離を取ったら逆に引っ張られてクラウディオの懐に引き込まれた。
両手が腹に回される。さっきまでの優しい捕まえ方とはまるで違う、服をギチっと握られ、『そんなに引っ張ったらボタンちぎれる!』と、服の心配をして気を取られた一瞬でベッドに投げられ、掴んでいたカバンもどこかに投げ捨てられた。
体全体でのしかかられて両手も押さえ付けられ、身動きが取れないアレクレットが最後の抵抗として『抱いてくれないなら見せないからな!』と叫んだら『抱けば良いんだな?』との言葉が返ってた。
「中出し、してくれる?」
「不本意ではあるが・・・」
とても苦々しい顔であったが、言質は取った。
***
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