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3 狙うは男

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 アレクレットは祝福持ちであることを隠して女性とお付き合いをしたことがある。

 アレクレットにとって人生で初めての彼女は、大学時代の時。
 女性から告白されてお付き合いが始まった。初心者だったアレクレットに合わせてゆっくり進んだ交際は初めてのセックスの時に躓づくこととなった。
 彼女はアレクレットが祝福持ちだと知ると『貴重な祝福を消滅させるようなことは出来ない』と言った。アレクレットが祝福がなくなっても構わないと伝えても彼女の意見は変わらず、別れることになった。

 2人目は社会人になってから出会った女性だ。
 今度は最初から祝福持ちだと告げた。ドキドキの脱童貞もこの彼女。妖精王の祝福は性行為をするだけでは消えず、アレクレットは祝福持ちのまま。交際が進み、2年ほど過ぎた頃、アレクレットが『祝福が消えてもいいから君と結婚したい』と、プロポーズした。しかし彼女の返事は冷たく『祝福が消えてもいいんじゃなくて、本当は、祝福が消せるなら誰でも良いんでしょ?』と、図星を突かれたアレクレットは何も言い返せず彼女とはそれで別れた。


 思い返せば、アレクレットは本当に彼女たちを愛していたかと問われると自信を持って答えられない。
 自分なりに彼女たちを優先して、大切にしていたけど、マンガやドラマで見るような恋のときめきや胸の高鳴りを感じたことはなかった。

 むしろ『結婚せずにずっと一緒にいようね』なんて言われたら、アレクレットの方から別れを切り出していただろう。
 アレクレットは無意識の内に妖精王の祝福を消すために彼女らを利用しようとしていたのだ。

 そのことに気づいてから、アレクレットは結婚したいと思えなくなった。もう、生涯独身を貫こうとさえ思った。


 だが去年のことだ。7年ぶりにリカルド=カポトイーニがアレクレットの前に現れた。

 未だに独身のまま。50歳になっても妖精王の祝福をカポトイーニ家に取り込むことを諦めていないリカルドは『女性とは上手く行かなかったようだね』と言って、聞いてもいないのに、『やはり、妖精王の祝福は男と結婚し、その貴重な祝福を次代へと引き継ぐべきだ。それには伯爵位を持つ家が相応しい』などと語り、要するに、私と結婚して子を作ろうと言う話をしてきた。
 自身を売り込むセールスとしても、相手を口説き落とすプロポーズとしても、どちらにしても最悪だ。


 アレクレットは祝福持ちでいることが恐ろしくなった。早く祝福持ちであることを辞めたい。だけど、女性の人生を利用するようなこともしたくない。

 だからと言って、男と結婚するのも嫌だった。

 それは、父の失敗を見て育ったからだ。
 アレクレットの父は妊娠が可能な祝福持ちであったが、性的指向は女性に向いているヘテロセクシャルだった。そして、父も13歳の頃からカポトイーニから結婚の申込みをされて心底うんざりしていた。
 そんな父の支えは親友の存在だったが、親友は実はゲイで父に恋をしていた。その恋心は泥酔するほど飲んだ酒のせいで暴走し、父は親友に襲われて妊娠した。
 二人は仕方なく結婚したが、性的指向が違う二人の父の性生活は噛み合わなかった。ヘテロの父は抱かれることを嫌い、何度も離婚しようとしたが相手が同意しないため、アレクレットが16歳の時に家を飛び出し、現在は別居中だ。

 アレクレットも男性を魅力的に感じたことはないため、ゲイと結婚すれば父と同様に性生活で衝突を繰り返し喧嘩別れする将来が待っていることだろう、と考えている。

 もう結婚に夢はないのに、独り身でいる限りカポトイーニの存在に悩まされる。祝福は無くしたいけど、結婚はしたくない・・・と頭を抱えた時にふと、ひらめいた。

 ──子どもだけ欲しい。

 素晴らしいひらめきだと思った。
 結婚なんかせずに、妊娠だけすれば良いのだ。

 アレクレットは1人でいることが苦ではないが、孤独を好むわけではない。
 誰かと一緒にいたい気持ちはあれど、それは家族で十分だ。何故、わざわざ他人と一緒に暮らさねばならないのかとすら思う。その点、子どもは紛うことなき家族だ。
 父が自分を愛してくれたように、自分も子どもに愛情を注いで、親子で仲良く暮らす生活には憧れる。

 当然、片親で子どもを育てるのは大変だろうし、行きずりの男と関係を持って子どもを作ろうとしている行為そのものを父は叱るだろうけど、父は50歳とまだ若く、子ども好きでもあるし子どもの存在は大いに祝福し喜んでくれるに違いない。子育てにも協力してくれるだろう。

 このように考え、アレクレットは父と同じ轍を踏まないよう、性的指向が女性に向いているヘテロの男に子種を貰うため、合コンで自分を抱いてくれそうな男を探すことにしたのだ。

 さらにいえば、このヨナセレス国では男も抱けるヘテロの男性を探すのは難しくない。
 なにせ、国王陛下は妖精王の祝福を引き継ぐお方、常に婿を迎えて男同士の夫夫になられるため、この国では同性愛に理解があり、学生時代には友情が高まって交際したことがあるという経験者は多いのだ。
 あとは、秘密を守ってくれる真面目な人であること。できれば『妖精王の祝福』に詳しい相手であれば、なお良いと考えていた。

 というのも、アレクレットは祝福持ちだが、その知識は父親から聞かされる経験談しかないのだ。
 ネットを検索してもほとんど情報がなく、問題が発生した時に相談出来る相手であったら良いなと言う期待があった。


 以上のことから、アレクレットは合コンの途中からクラウディオを狙っていた。

 女を避けているようなところが、実はゲイなのかもしれないという不安があったが、それ以上に妖精王伝説に詳しいところが気に入った。
 案の定、二次会には参加しなかったし、妖精王の祝福にも強い関心があった。研究者気質だから問題が発生した時も一緒に考えてくれそうなのがまた良い。

 だから、このクラウディオを女には譲れない。


 駅に到着して『では解散』というタイミング。
 女性が「もうちょっと飲みながら話そうよ」と言った台詞に、アレクレットはわざと台詞を被せてクラウディオの関心を奪う言葉を口にした。

「実はさ、僕の知り合いが祝福持ちなんだ。話、聞きたい?」

 予想通りクラウディオの関心は全てアレクレットに向けられた。
 クラウディオはアレクレットの肩を掴み前のめりに質問を畳み掛けてきた。

「本当か? 未婚? 既婚?」
「未婚の祝福持ちだよ」
「本当に本物か? 男同士のカップルの子どもだからそうだろう、とかじゃないだろうな?」
「お腹の聖紋も見せてもらったことある」
「すごい・・・。どんな模様をしていた? そもそもどうやって知り合ったんだ? いや、こんな話は外でするべきじゃないな。どこか店に入ろう」
「バーでいいかな?」

 話がまとまろうという時、その場にいたもう一人の声が差し込まれた。

「私も聞かせてもらって良い? 妖精王の祝福持ちの話が聞けるなんて、こんな貴重な機会ないし」

 女性は化粧をしていたり、表情を取り繕うことに長けていることから、心の内の思惑を読み取るのは難しいものだ。
 だから、本当に『妖精王の祝福』に関心があるのかもしれないが、単にクラウディオと接触する機会を増やそうとしているだけだろう。と、先入観から邪推した。
 どちらにせよ、アレクレットにとっては彼女の存在は望ましくない。

「あー・・・、えっと、どうしようかな・・・じゃあ、まずは、3人で普通に飲みに行く?」

 アレクレットはわざとらしく言いよどむ言い方をした。そして、上目遣いでクラウディオを見ながら『彼女がいるなら、祝福持ちの話をするのをやめようかな~?』と焚き付けてみた。
 それを読み取ったのかどうかは分からないが、クラウディオはかなり冷たい言い方で彼女の参加を断った。

「すまないが、男同士のセンシティブな話をすることもあるだろうから、女性の貴女は遠慮してもらいたい」


 誘導は成功した。
 お持ち帰りの勝者はアレクレットだ。








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