上 下
96 / 102
新婚旅行編

新婚旅行編:一日目の夜・R18

しおりを挟む


 旅館というか、シェルターホテルは1フロア1ルームで、純和風の部屋と和モダンの洋室が内扉で繋がったそれぞれにリビング・ダイニング・寝室が2部屋づつの合計8部屋もあった。
 これに和室側には大開口窓の見晴らしの良い温泉風呂があり、洋室側にはキッチンがあり、必要な道具も全てそろっており、今からここに住むと言っても可能なレベルだ。


「浴衣見つけた!」

 持ってきた服をクローゼットにかけ終わった酒田は慶介の声が聞こえた和室の寝室に顔を出した。
 慶介はすでに敷かれている布団の上であぐらをかき、浴衣と羽織をを広げていた。

「見て。羽織と綿入れ半纏はんてんの二種類があるってことは浴衣のまま外に出歩けたりするってことかな?」
「そうかもな。まだ時間あるから、さっそく温泉に行くか?」

 今は夕方。遅めの夕食をリクエストしている慶介たちには、お風呂に入るのに丁度よい時間帯。

 ──だが、その提案は断らねばならない。

 慶介は、ダボッとしたフード付きニットの胸元をつまみ、わざとらしい上目遣いとツン唇をとがらせてアヒル口を作って言った。


これ・・着て行かすのかよ?」


 それを見た酒田はそっぽを向いて、右手で顔を隠す。

「おい、笑うな。」
「ニヤけてるだけだ。見せられる顔じゃない。」
「それは見たい。見せろ。」

 慶介は酒田が隠すニヤケ顔を見るために、敷布団に引っ張り込み、もみ合いをした。


 なぜ酒田がニヤけるのかと言うと──、

 実は、慶介は今、酒田のリクエストで女物下着・・・・を身に着けているのだ。

 旅行中の何処かで女装プレイがしたいと言った酒田に、慶介は喜んで貰いたい欲目から『絶対に他人にバレない服だったら外でも着てもいい』と許可を出した。
 そして、一日の大半を車の中で過ごす旅行の初日に、オーバーサイズの服を酒田とお揃いのスポーツミックスで揃え、その下にブラジャーとショーツをコッソリと着ていたのである。


 女物の下着は、慶介に強い違和感を感じさせた。だが、常時、こちらのことを気に掛ける警護の三人に勘付かれるわけにはいかないため、下着のズレを直したり気にするような仕草を取ることは出来ず、慶介はソワソワとハラハラで気を張り詰めさせていた。
 一方の酒田は、リクエストを受け入れてもらえただけでも鼻血ものなのに、男の格好で女の下着を着て貰っている事がさらに性癖に刺さり、今日一日、知らぬ顔をするのに苦労していた。

 ちなみに、さっき酒田が外の温泉に誘ったのも慶介に言わせるためであり、慶介のほうも酒田のむっつりスケベなところを知っているのであえて乗って上目遣いとアヒル口をしたので笑われたのかと思って怒ったのだ。


「慶介っ、ほんと、ダメだって! あんまり触られるとなし崩しにヤることになるし、今始めたらご飯も温泉もどうでも良くなってしまう!」

 顔を両手で押さえながらうつ伏せになって半ば叫ぶ酒田。
 さすがの慶介も豪華な夕膳を逃すのは惜しくなったので、ニヤけ顔を見るのは諦めて一人分の距離を取って離れた。

 その後は、酒田は温泉の下見がてら大浴場に、慶介は個室の温泉に浸かることにした。



 室内といえど湯は温泉だと書かれていたお風呂は大の字になっても余るくらい広く、開放感ある大開口窓の景色はなかなかだった。

 酒田のニヤケ顔を諦めてでも選んだ夕膳は秋の会席料理というような豪華な食事。
 目に良く、舌に良く、きのこの炊き込みご飯はお櫃にたっぷりで酒田が喜んでいた。


 食後はサービスエリアで買ったおつまみやお菓子を肴に、酒田はビール、慶介は日本酒を飲んで過ごした。

 食事中は対面でくっつけなかった分を補給するように、慶介は酒田の立て膝の間で後ろから抱えてもらうように座り、足を伸ばしてリラックス。
 そして、酒田からアルファの愛情表現である給餌を受ける。
 ぐい呑みが空けば注いでくれるし、欲しいものを言えば口にまで運んでくれる。酒田の手が届かない物は仕方なく慶介が取ったりすると、戻ってきたところでギュゥと息が詰まるほどにキツく抱きしめてきて『ほんの一瞬も離したくない・・・』などと言われ、息苦しいのが逆に気持ちが良くなってしまったりした。

 先に酔いが回った酒田はずっと慶介の体を撫でくりまわしては浴衣に出来た僅かな段差を見つけて嬉しそうに微笑んでいる。
 そうやって嬉しそうにしている酒田を見ていると、慶介も気分が良くなり酒がぐんぐん進むのだ。


(あ、酒なくなった・・・)


 ひっくり返してもポタポタとしか出てこなくなった酒を手放し、慶介は酒田にしなだれかかる。
 だらけた格好をしたことにより浴衣がはだけて、慶介が着ていた下着がチラと見えた。はだけた肩を戻すよりも早く酒田がバッと顔をそむけてまた顔を隠しているが、素直な男の股間は固くなって慶介の尻を押し上げてくる。
 その様子を見ていた慶介は楽しくなってきて、対面座位になって尻で酒田の股間のものをこすってやった。
 ただ騎乗位で腰を振るのとは違う動きはぎこちなく、着慣れない浴衣は体の動きを邪魔をした。だが、それが一層酒田の興奮を煽っていることに慶介は気づかない。

 慶介としてはそうこうしているところに酒田が我慢ならずに襲ってくることを想定していたのだが、頑張って尻を擦り付けていても一向に手を出してこない。

(俺、そんなに下手? でも股間はガチガチなんだけど・・・)

 慶介が酒田の様子を見れば、もう限界と言わんばかりの真っ赤な顔で、片手で下半分を隠し、目をつぶっていた。

(目ぇ、つぶってやがる・・・。なんのために女モンを着てると思ってんだ・・・!)

 しびれを切らした慶介は酒田を押し倒し、片膝立てて腹の上でしゃがみ、東山の金さんバリに見せつけるように片肌脱いで宣言した。

「おら、目ぇかっぴらいて、堪能しろ! やってほしいことがあるなら言っておけ! 女の下着は今日だけだからなぁ!」

 驚いているのか、目をパチクリとさせる酒田。
 数回、瞬きをした後、驚きの顔は恍惚の微笑みへと変わり、慶介の体へと手を伸ばしてきた。

「あぁ、いい・・・。そのまま男らしく振る舞ってくれ。」
「なんでだ? 女っぽくするほうがエロいんじゃねぇのか?」
「違う。俺は慶介に女の部分を見つけたいんじゃない。男であることを再確認してるんだ。」

 酒田の手が浴衣の裾から滑り込んできて大腿二頭筋の筋をなで上げる。そしてたどり着くのはレースのショーツ。

「女の下着に収まらないこれとか・・・」
「んっ・・・ふ・・・」

 女物の下着には女には無いものを収めるスペースがないため、僅かに浮いているところや布が突っ張るところがあり、そこを撫でられた慶介は鼻から息が漏れた。
 不格好に膨らんだ布地を撫でられでもすれば、格好つけた姿勢が崩れて背が丸まって、酒田はそうやって慶介の体に男の部分を見つけては指でそっと愛撫していく。

「はぁ、んっ・・・!」

 ようやく手が上半身に伸び、半分剥き出しにされた浅葱色のセクシーなブラジャーに刺繍された紫の花を撫でた。

「こういう体に合わずにダボつくところと・・・、ああ、ここは食い込んでるな。ちょっと痛いか?」
「まぁな・・・」

 あえてAカップを購入したブラジャーには、鍛えて作った胸筋があれどそのカーブが合うことはなく、きちんとアンダーサイズを測って買ったはずでも、ワイヤーが肋骨に食い込んだ。
 食い込んだ所に指を入れてさすられると、痛いような、気持ち良いような、妙な感覚になって艶声が僅かに漏れた。

「もう外すか?」

 酒田は優しさでそう言うのかもしれないが、慶介はその親切を蹴飛ばした。

「言っただろ? 堪能しろって。」

 強気の発言に、酒田が目をギラつかせた。

 慶介の浴衣の帯を手荒くほどいて投げ捨て、その勢いのまま上下が入れ替わり、ブラジャーで寄せられた胸筋の谷間に顔を押し付け匂いをかぐ。もう片方の手も荒い手つきのまま腹筋をなで回し、筋肉の溝を確認しているようだ。

「はぁ・・・浴衣と下着だけ見れば女なのに、中身は男で・・・、相容れない感じがたまらない・・・」

 興奮する酒田。今度はショーツに顔を埋めてレースの上のから肉を食み、境い目のきわをツーっと舐められ、慶介は下半身がむくむくと固くなるのを感じた。
 完全に納まらなくなった部分がはみ出して居心地が悪い。ポジションを修正したくなるのをグッとこらえて握った拳に歯を立てた。
 それを見下ろす酒田の顔は赤く、目は見開き、呼吸は荒い。凶悪なつらはまるで悪役か犯罪者のようだ。
 慶介は酒田の理性を焼き切るべく、足で固くなった股間をひとなでし、浴衣の襟をチョイと開いて滑り込ませて言った。

「勇也も脱げよ。せっかくの浴衣なのに、いつものインナーなんか着やがって、情緒がねぇなぁ。」

 酒田は凶悪な面のまま、フッと笑ってから慶介の足の裏にキスをした。その間に片手で解こうとした帯は解けなかったようで、帯を諦めると両肌を脱ぎ、黒いインナーを脱ぎ捨てた。
 そして何をするのかと思えば、裾をまくってパンツをずらし、ギンギンになったそれを取り出すし、慶介の両足を抱えて持ち上げて太ももの間に差し込んだ。

(まさかの素股!?)

 何気にスマタは初めてだ。
 レース越しの摩擦はものたりないけど、バチンと打ちつけられる腰はいつもより強く身勝手で、食い込む指の強さから酒田の興奮の限界が測れる。

 何度も足の隙間を往復する肉の感触がなんとも生々しく、体を使われている感じが慶介の被虐趣味をくすぐる。
 酒田の動きが早くなり鼻息も激しくなってきた頃、慶介はトドメと言わんばかりに内ももに力を入れて強く挟み込んでやった。それに刺激された酒田は腰を太ももの裏に強く押し付けビクビクッと震わせた。

 ビュッと飛んだ白い液体は慶介のヘソに流れ込み、浅葱色のレースも汚された。

「あぁ、エロい・・・」

 深く息をつきながら零した本音と欲情に突き動かされる腰の動きは、出したばかりで少し萎えたそれを、達せず熱が溜まったままの慶介の陰茎にこすりつけてくる。

「あっ、んんっ、今度は俺もイきたい・・・」
「ああ、続きは布団でやろう。」


 白濁で濡れた腹はそのまま、前抱き抱っこで軽やかにはこばれた。

 酒田は帯をほどいて着ていたものを全て脱ぎ、キスをしながらショーツが脱がされ、ブラジャーのホックが外された。

「もう外すのか?」
「ああ、痛そうだし。」
「パンツも履いたままヤると思った・・・」
「あー・・・、それは・・・・・・また、使いたいから。って言ったら引くか?」
「フッ。引かねぇよ、笑うけど。」

 スルリと腕を抜けていくブラジャーが酒田の手で畳まれ、邪魔にならない位置に置かれる様子には次も使うためだけとは言いがたい丁寧さを感じた。

「跡になってる」
「ホントだ。ワイヤーと・・・パンツの方も思ったよりいっぱいついてる。ゴムが細いからかな?」
「そうかもな。」

 酒田は腰骨についたゴムの跡にキスをし、左手の薬指にキスをし、最後に唇にキスをした。

「ありがとう、慶介。堪能した。」
「嘘つけ。もっとやりたいことあっただろ。」

 自分の可愛い男が下がり眉で視線をウロウロさせながら『そんな事ない』なんて言う言葉を誰が信じるってんだ。
 だから、慶介は思った。

(次はスーツの下に着てやろう。それもサプライズで。今回でこんなに興奮したんだ。次こそはそのまま襲わせてやるからな・・・!)












***











しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

処理中です...