【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

文字の大きさ
93 / 102
新婚旅行編

新婚旅行編:ショッピング

しおりを挟む


 『外商顧客』という言葉を聞いたことがあるだろうか?
 百貨店でたくさんお買い物をしてくれるお得意様は、店舗ではなく個室でお買い物をさせてくれるという噂話だ。


 慶介は今日それが本当に存在することを知った。
 店舗ではなく裏に通され、案内されたのはホテルのスイートルームのリビングみたいなゆったりとした広い部屋。案内してくれたスタッフ以外にも2人、百貨店のスタッフが部屋で待機していた。

「これが噂の外商顧客というやつか・・・!」
「違うよ。」
「え? 違うの?」

 信隆が慶介の期待を否定した。

「確かに僕は百貨店のカードを持っているが、お得意様と言われる程の買い物をしていないからね。今日は百貨店の方に個室で買い物させて欲しいと頼んだんだ。かわりにそれなりの使用料も払うし、十分な買い物もさせてもらうという約束でね。だからこいつらも連れてきた。」

 信隆は後ろに視線をやる。水瀬、吉川、永井、我が家で服にお金を使うおしゃれ組たち。
 今日はこのメンバーと信隆、酒田で、新婚旅行のための服を買いに来た。

 最初は、オメガたち御用達の色々買ってあわなければ返却というスタイルのネットショッピングで買おうと思ったが、そのネットショップでは180cmの慶介に合う服は少なかったのでやめた。
 買い物デートで買おうかと話していたら、信隆から「その件は僕に任せておきなさい」と言われたので任せたらこうなった。


 普段、慶介と酒田は1枚3000円程度のTシャツとジャージを着ている。ここに1万円弱の上着類と、スポーツブランドの5000円くらいのちょっといい服が時々混ざる。
 そんな庶民感覚の慶介が、1980円のTシャツと水瀬の1万円のTシャツを一緒に洗濯機に入れて乾燥にまでかけていた、と知った時の驚きと慌てっぷりが想像できるだろうか。
 大慌てで水瀬に謝った慶介に「1000円だろうが1万円だろうが服は服。」と水瀬はあっけらかんと言ったが、慶介は逆に怒って「今後、1万円以上の服は別カゴに分けて、クリーニングに出すように!」と言ったが、クリーニングに出すのが面倒な水瀬や信隆は、1万以下だったなどと嘯いて家の洗濯機で洗っていたりする。


 特別な部屋でスタッフまでついて、言われたものは持ってきてくれるという買い物の仕方に遠慮しきりの慶介は後回しにされ「景気づけにパーッと買え」と言われた吉川と永井の買い物から始まった。
 まだ学生で警護のバイト代しかない2人は秋服だけでなく冬服まで遠慮なしにアレもコレもと選び、吉川は「ずっと欲しかったんだよね~」と、10万超えの腕時計まで買っていた。
 次に買うのは水瀬だ。さっきの2人とは違って「あのブランドの新作と白系のトップスを」と落ち着いた慣れた様子でスタッフに指示を出し、値段やブランド関係なくきちんと自分に似合う服を選んで購入していた。
 信隆はスタッフからの提案を聞くスタイルだ。軽いプレゼンを聞きその中から好みを選び、慶介が「似合う」と言えば購入してしまうので迂闊に何も言えなくなってしまった。


 吉川が揉み手をしながら、永井に問う。

「さ~て永井、勇也と慶介、どっちから選ぶ?」
「お楽しみはあとに取っておく。と言いたいところだが、慶介の服が決まらないと勇也の服は選べねぇからな。おい、ちゃんとネックガードの候補持ってきたか?」
「アナログタイプは全部持ってきた。これと、これはお気に入りだ。この辺は肌触りがいまいちだって言ってた。これとかは買ったはいいけど結局使ってない。」

 酒田が机に慶介のネックガードを広げて説明している間に、慶介は念押しの確認をした。

「あの、父さん・・・」
「なんだ?」
「服は3組くらいで十分だから。着回ししたらいいし、温泉だし、荷物多いと大変だし、吉川たちみたいに沢山は買わなくていいからな?」
「分かった。4組にしておこう。」
「増えてるし・・・」

 あらかじめ、店側に慶介と酒田に似合いそうな服をチョイスしてもらっていたのでそのプレゼンを聞く。物によっては2人で合わせたコーデもあったのでその時は酒田も一緒に試着した。まずはネックガードとの相性が悪いものは却下して、主に信隆と永井が良し悪しを判断した。
 その中で慶介の好みで選ぶのだが、慶介が値段が高くて遠慮したら永井が匂いで感づくし、2人が却下したものでも、慶介がちょっと良いなと思ったりしたものは酒田が「気になってるみたいです」と信隆に告げ口して購入予定に入れられる。

「買いすぎだって! 4着って言ってたのは!?」
「慶介くん、諦めてください。」
「だって水瀬さん! 冬モンのコート3つも買っ──」
「4年分です。」

 ズイッと顔の前に突き出された手は4の数字を表している。

「慶介くんが信隆さんに服を買わせなかった4年分が、今のこれです。」
「え・・・、えぇ、じゃぁ、どうしたらいい? ほんと、コートとか1枚で十分なんだけど・・・」
「今後も服を買わせてあげることですね。」


 「買うのを止めて欲しい」ではなく「来年また春になったら新しい服を買って欲しい」だったら止まってくれますよ。との水瀬のアドバイスを受けて、慶介は信隆の服の袖を掴んでお願いをした。

「あの、冬服ばっかじゃ困るから・・・また、次、来よう?」

 慶介は『おねだり』が苦手だ。自分がしたいことや希望を伝えることは出来るようになったが、今回のような相手がやりたいと思っているものを止めさせるというのがどうにも気が引ける。
 水瀬とのやり取りが聞こえていた信隆は即答した。

「では3月に。次は食事もしよう。2人で・・・と言いたいところだが、親といえど僕も未婚のアルファだ。番の勇也を外すわけにはいかないね。」
「コース料理?」
「ん? そうだね。僕らしく、勇也には出来ない財力を見せつけてあげよう。高い料理をご馳走しよう。」
「ははっ、違うって。3人で食べるんだったら、高校のマナー勉強の時以来だなって思っただけ。」

 信隆はいつもよりも目を少し大きくさせ、パチパチと瞬きをして黙った。そして、スゥッと眉が下がり、頬を緩ませ口角が僅かに動いた。
 それは慶介が初めて見る信隆の『微笑み』だった。

「予定通りなら3月は安定期だ。その頃なら、つわりも終わっているだろう。コース料理でも何でも、慶介が食べたいものを食べに行こう。」
「うん!」

 信隆は購入予定の服を3分の1ほど減らし、それでも、旅行用の服は着回しなしで5組、それとは別の秋用の服と冬用の服を4組づつとコートは2着も選び、最初の話はどこへいったのやらだ。


 最後は、慶介の服に合わせて酒田の服を選ぶのだが、どれを着てもピンとこない。これには皆がウ~ン? と唸る。

「勇也は、なんか野暮ったいねー。」
「本多さんと同じレスラー体型ですからね~、服を着ると小太りに見えるのが難点ですね。」
「チッ、慶介と合わせるのは諦めるしかねぇか・・・。いつも通りスポーツウェアを混ぜたミックス系にすんぞ。」

 そんなわけで、いつものスポーツミックス系になった酒田。でも、ジーンズやトップスがちょっと良いモノに変わるだけで印象がキュッと締まる感じがするし、なかなかにお高い黒のレザージャケットは良く似合っていた。
 しかし酒田は365日欠かさないぴっちりインナーを禁止されたので「なんか落ち着かない」と不満そうだった。









***








しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...