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新婚旅行編
新婚旅行編:ショッピング
しおりを挟む『外商顧客』という言葉を聞いたことがあるだろうか?
百貨店でたくさんお買い物をしてくれるお得意様は、店舗ではなく個室でお買い物をさせてくれるという噂話だ。
慶介は今日それが本当に存在することを知った。
店舗ではなく裏に通され、案内されたのはホテルのスイートルームのリビングみたいなゆったりとした広い部屋。案内してくれたスタッフ以外にも2人、百貨店のスタッフが部屋で待機していた。
「これが噂の外商顧客というやつか・・・!」
「違うよ。」
「え? 違うの?」
信隆が慶介の期待を否定した。
「確かに僕は百貨店のカードを持っているが、お得意様と言われる程の買い物をしていないからね。今日は百貨店の方に個室で買い物させて欲しいと頼んだんだ。かわりにそれなりの使用料も払うし、十分な買い物もさせてもらうという約束でね。だからこいつらも連れてきた。」
信隆は後ろに視線をやる。水瀬、吉川、永井、我が家で服にお金を使うおしゃれ組たち。
今日はこのメンバーと信隆、酒田で、新婚旅行のための服を買いに来た。
最初は、オメガたち御用達の色々買ってあわなければ返却というスタイルのネットショッピングで買おうと思ったが、そのネットショップでは180cmの慶介に合う服は少なかったのでやめた。
買い物デートで買おうかと話していたら、信隆から「その件は僕に任せておきなさい」と言われたので任せたらこうなった。
普段、慶介と酒田は1枚3000円程度のTシャツとジャージを着ている。ここに1万円弱の上着類と、スポーツブランドの5000円くらいのちょっといい服が時々混ざる。
そんな庶民感覚の慶介が、1980円のTシャツと水瀬の1万円のTシャツを一緒に洗濯機に入れて乾燥にまでかけていた、と知った時の驚きと慌てっぷりが想像できるだろうか。
大慌てで水瀬に謝った慶介に「1000円だろうが1万円だろうが服は服。」と水瀬はあっけらかんと言ったが、慶介は逆に怒って「今後、1万円以上の服は別カゴに分けて、クリーニングに出すように!」と言ったが、クリーニングに出すのが面倒な水瀬や信隆は、1万以下だったなどと嘯いて家の洗濯機で洗っていたりする。
特別な部屋でスタッフまでついて、言われたものは持ってきてくれるという買い物の仕方に遠慮しきりの慶介は後回しにされ「景気づけにパーッと買え」と言われた吉川と永井の買い物から始まった。
まだ学生で警護のバイト代しかない2人は秋服だけでなく冬服まで遠慮なしにアレもコレもと選び、吉川は「ずっと欲しかったんだよね~」と、10万超えの腕時計まで買っていた。
次に買うのは水瀬だ。さっきの2人とは違って「あのブランドの新作と白系のトップスを」と落ち着いた慣れた様子でスタッフに指示を出し、値段やブランド関係なくきちんと自分に似合う服を選んで購入していた。
信隆はスタッフからの提案を聞くスタイルだ。軽いプレゼンを聞きその中から好みを選び、慶介が「似合う」と言えば購入してしまうので迂闊に何も言えなくなってしまった。
吉川が揉み手をしながら、永井に問う。
「さ~て永井、勇也と慶介、どっちから選ぶ?」
「お楽しみはあとに取っておく。と言いたいところだが、慶介の服が決まらないと勇也の服は選べねぇからな。おい、ちゃんとネックガードの候補持ってきたか?」
「アナログタイプは全部持ってきた。これと、これはお気に入りだ。この辺は肌触りがいまいちだって言ってた。これとかは買ったはいいけど結局使ってない。」
酒田が机に慶介のネックガードを広げて説明している間に、慶介は念押しの確認をした。
「あの、父さん・・・」
「なんだ?」
「服は3組くらいで十分だから。着回ししたらいいし、温泉だし、荷物多いと大変だし、吉川たちみたいに沢山は買わなくていいからな?」
「分かった。4組にしておこう。」
「増えてるし・・・」
あらかじめ、店側に慶介と酒田に似合いそうな服をチョイスしてもらっていたのでそのプレゼンを聞く。物によっては2人で合わせたコーデもあったのでその時は酒田も一緒に試着した。まずはネックガードとの相性が悪いものは却下して、主に信隆と永井が良し悪しを判断した。
その中で慶介の好みで選ぶのだが、慶介が値段が高くて遠慮したら永井が匂いで感づくし、2人が却下したものでも、慶介がちょっと良いなと思ったりしたものは酒田が「気になってるみたいです」と信隆に告げ口して購入予定に入れられる。
「買いすぎだって! 4着って言ってたのは!?」
「慶介くん、諦めてください。」
「だって水瀬さん! 冬モンのコート3つも買っ──」
「4年分です。」
ズイッと顔の前に突き出された手は4の数字を表している。
「慶介くんが信隆さんに服を買わせなかった4年分が、今のこれです。」
「え・・・、えぇ、じゃぁ、どうしたらいい? ほんと、コートとか1枚で十分なんだけど・・・」
「今後も服を買わせてあげることですね。」
「買うのを止めて欲しい」ではなく「来年また春になったら新しい服を買って欲しい」だったら止まってくれますよ。との水瀬のアドバイスを受けて、慶介は信隆の服の袖を掴んでお願いをした。
「あの、冬服ばっかじゃ困るから・・・また、次、来よう?」
慶介は『おねだり』が苦手だ。自分がしたいことや希望を伝えることは出来るようになったが、今回のような相手がやりたいと思っているものを止めさせるというのがどうにも気が引ける。
水瀬とのやり取りが聞こえていた信隆は即答した。
「では3月に。次は食事もしよう。2人で・・・と言いたいところだが、親といえど僕も未婚のアルファだ。番の勇也を外すわけにはいかないね。」
「コース料理?」
「ん? そうだね。僕らしく、勇也には出来ない財力を見せつけてあげよう。高い料理をご馳走しよう。」
「ははっ、違うって。3人で食べるんだったら、高校のマナー勉強の時以来だなって思っただけ。」
信隆はいつもよりも目を少し大きくさせ、パチパチと瞬きをして黙った。そして、スゥッと眉が下がり、頬を緩ませ口角が僅かに動いた。
それは慶介が初めて見る信隆の『微笑み』だった。
「予定通りなら3月は安定期だ。その頃なら、つわりも終わっているだろう。コース料理でも何でも、慶介が食べたいものを食べに行こう。」
「うん!」
信隆は購入予定の服を3分の1ほど減らし、それでも、旅行用の服は着回しなしで5組、それとは別の秋用の服と冬用の服を4組づつとコートは2着も選び、最初の話はどこへいったのやらだ。
最後は、慶介の服に合わせて酒田の服を選ぶのだが、どれを着てもピンとこない。これには皆がウ~ン? と唸る。
「勇也は、なんか野暮ったいねー。」
「本多さんと同じレスラー体型ですからね~、服を着ると小太りに見えるのが難点ですね。」
「チッ、慶介と合わせるのは諦めるしかねぇか・・・。いつも通りスポーツウェアを混ぜたミックス系にすんぞ。」
そんなわけで、いつものスポーツミックス系になった酒田。でも、ジーンズやトップスがちょっと良いモノに変わるだけで印象がキュッと締まる感じがするし、なかなかにお高い黒のレザージャケットは良く似合っていた。
しかし酒田は365日欠かさないぴっちりインナーを禁止されたので「なんか落ち着かない」と不満そうだった。
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