【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

文字の大きさ
上 下
83 / 102
ウェディングパーティ編

SS:短冊に願い事 (7/7追加)

しおりを挟む

「そっか、もうすぐ七夕か。」

 大型ショッピングモールにあった短冊が結びつけられた笹が並んでいるのを見てボソっとつぶやく。
 一緒に買物に来た水瀬のおじさまが「ウチも七夕やりますか?笹どっかから取ってきて」と冗談っぽく言った。


 本多の家では行事モノはほとんどしない。恵方巻やクリスマスケーキなどの食べ物系ならちょっとは乗るが、飾り物は酒田の爺やが玄関のインテリアを時々変えるだけで終わっている。


 笹にはすでにたくさんの短冊が結ばれていて、下の方は子どもが拙いながらも書いた純粋なお願い事があり、上に行くに連れて定型文の願い事から、漫画のセリフやふざけた願い事が増えていき、つい笑ってしまうような願い事を探したくなる。

 警護に同行中の悪友3人組が面白がって、願い事を書き始めたので、慶介も3人のノリに便乗するか。と『自由にお書きください』と長机に置かれた短冊をとってペンのキャップを取ったところで固まった。

「どうした?書かないのか?」
「いや、真面目に書くか、笑いをとるかで迷ってる。」

 真面目に書くなら『皆、健康でありますように』しか出てこないし、笑いをとるといってもありきたりな『世界征服』とかしか出てこかったので貧相な発想力に自分でがっかりする。

(こういうのは、ある程度、本心でなければ面白くないと言うか、ウケないというか・・・)

 なかなか出てこないので、ペンのキャップをカチッと戻した瞬間にパッと浮かんだ言葉にニヤリとした。

 酒田が周りを警戒して意識をよそに向けている間に、慶介は中腰になって素早く願い事を書き、短冊を酒田に見られないよう、笹の先端付近に結びつけた。
 慶介が警護される定位置の酒田の左斜前に戻り、酒田は安心した顔で慶介の腰を抱く。そして、慶介が書いた短冊を見た瞬間、酒田が固まった。


 『 彼氏も全身脱毛してくれますように 』


 我ながらウケそうなワードと本心を偽ったわけではない加減がうまく融合した願い事が書けたと思う。

 また、180cm超えの慶介が腕を伸ばして短冊を結んだ笹は目測3m弱。そんな高い位置にあるへのお願いをつけたか?までを考えると更に面白がってもらえるのではないか、と思う。
 それでいて、普通の人が容易に見れる高さでないところが、慶介の「実を言うと見られのは恥ずかしい」という気持ちをカバーしている。

「え、あの、慶介・・・、ホントに思ってるのか?」
「さぁ~?どうだと思う~?」

 ケラケラと笑いながら、羞恥心も薄れた手繋ぎで酒田を引っ張るようにして水瀬の伯父夫夫の後を追いかけた。


 鳩が豆鉄砲くらったような顔をした酒田はしばしの間、鳥のように首を捻って、その動揺はそのあと3日間も引きずり、4日目の夜に寝入りばなベッドの上で正座をしながら

「慶介が望むなら、全身脱毛してもいい。ただ・・・・・・ハイジニーナは、ちょっと・・・少しは残してもいいですか?」

 と、苦悩の選択と言う顔をしながら聞いてきた。
 3日間もずっとそのことで悩み続けていたのかと、酒田の献身が愛おしくなり、その悩みが「全剃り」か「デザインカット」かで悩んでいるあたりが酒田らしい。自分の好きな方を選べばいいというのに。

 慶介は腹を抱えて大笑いしたあと、枕カバーで笑い涙を拭いて酒田の迷いを終わらせてやる。

「あんな冗談、真に受けるなよ。短く処理してる今のままでいい。」
「でも、慶介にはハイジにしてもらったのに・・・」
「俺は良いんだよ。残したいとも思わなかったし、今は無い方が快適だ。だから、勇也は脱毛なんてしなくていいからな?わかったな?」
「本当にいいのか?」
?」
「ああ、分かった。すまない。」

 よほど申し訳ないと思っているのか、酒田は慶介の胸に額を押し付けて抱きついてきた。

 正直、眉毛以外を全身脱毛した慶介からすれば、ひげ剃りから解放されるし、毛がない陰部もスネもツルツルな方が蒸れもないし、触り心地も良い。そういう理由からオススメしたいところではあるが、そんなに悩むなら取り返しがつかないようなは決断は先送りにした方がいい。

 アンダーヘアの処理を怠るようなことがあれば、また短冊に書いてやろうと思った。











***

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(‪α‬)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。 まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。 水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。 そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...