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結婚式編
結婚式編:初夜は無し
しおりを挟む早朝のご用聞きに水瀬の伯父が来てくれたおかげで酒田は取り上げられていたスマホや薬の類を取り返せた。
スマホを受け取ったその手で景明に連絡をとり「ご用聞きや付き人役を身内で固める必要がある」と飛ばしたメッセージにはすぐに既読が付き「了承した」と返事がきたので、これでやっと本多家の差し出がましいお膳立てを阻止出来ると思うと開放感から大きくあくびをした。
寝所や御帳台の中の家探しも終わり、必要な道具類のリストアップも終わり、半纏を羽織りながらスマホで調べた可燃効率の良い炭の置き方を試しながら思う。
(この手にしているスマホがなければ、この御帳台の中だけはまるで時代劇の中みたいだ。)
枕元の小さなの有明行灯のみの暗がりで、白の浴衣というか寝巻きで火鉢をつついて、番のオメガの寝顔を見ているという光景は「まぁまぁ、絵になるんじゃないか?」と情調に浸ってみたが、そんな気分も長続きせず、慶介が眠る布団戻るには冷えてしまった自分の手足に、やっぱりムードのある火鉢なんかより便利なエアコンか灯油ストーブの方が欲しくなった。
**
慶介のヒートが始まったのは予想通り、翌日の昼過ぎ。
いつもなら腹痛を感じさせる暇のないくらいの寸止めの快楽責めと時間配分と体力調整を考慮した上での優しい愛撫で気持ち良さに溺れさせてくれるはずの酒田が今回は全然してくれない。
キスが中心で、ほんの時々、敏感なところをかすめる程度のみの愛撫で、シクシクと気になるけど痛いというほどでもない程度に緩和された腹痛がつづき、もう丸1日経とうとしている。
「なぁ、酒田・・・。」
「ん。」
木の板を曲げて作られた座椅子にもたれてスマホで電子書籍を読む酒田、慶介はその酒田の膝の間でスマホゲームをしていたがゲームライフがゼロになって暇になったとたんに腹痛が気になりだしてきたので、痛みを紛らわるための愛撫をせがんだ。
スマホをポイッと布団に落とした酒田は慶介をズリあげて体勢をととのえてから、キスをしながら腹をゆっくりと撫でる。常に火鉢で温めてスタンバイされている酒田の手は湯呑を持った時のようにじんわりと温かさが染み込む。
当初、行燈の灯りと小さな引き出し箱しかなかった殺風景な御帳台の中は酒田の手配で座椅子や本、携帯ゲーム機、Wi-Fiホームルーターが持ち込まれ、行燈の灯りも本を読むのが苦にならないくらいの明るい電球に取り替えられて快適な環境に改善されている。
キスと温かい手で腹痛は紛れたが、物足りなくて酒田の手を自分の胸に誘導しつつ慶介からキスをした。
服の上から撫でるような弱い刺激だけでも慶介の体は反応して2つの先端がピンと固くなり、薄い浴衣の布にシワを作る。ここで、爪でクッと引っ掛けてくれれば最高に気持ちがいいのに、と慶介は思うのだが、やはり、そういった強い刺激は与えてくれない。
もうおしまい、と引こうとする酒田の襟元をつかみ引き寄せながら酒田の唇を甘噛みすると、支えるだけだった手が獲物を逃さないようにする掴み方に変わり攻め手が入れ替る。
酒田は予告するように喉をスルリと撫でて、慶介の髪をゆるく髪を掴み顎を上げさせると、いきなり、歯がぶつかり合うのも構わず限界ギリギリの奥まで侵入させるような激しさで慶介の腔内を舐め回し犯す。
あまりの激しい舌使いに怖気づいて舌を引っ込めれば、絡めてこいと命令するように吸い上げられて、慶介は舌を突き出すだけで精一杯になる。
まるで喉まで到達しそうな酒田の舌と絡めた舌で溢れた唾液が口の端から垂れ落ちて「窒息しそう。」と思ったところで唾液がズルゥっと内臓ごと持っていくかのような力強さで吸い上げられて、怖さと興奮でゾクゾクとした。
その瞬間、また酒田から強い誘引フェロモンが放たれ、慶介の脳は酸欠でフラフラしている感覚とフェロモンに酔うフワフワが混同して気持ちよくなり、ぐったりと酒田に寄りかかった。
艶っぽい吐息を漏らす慶介はすぐ横の布団に転がるように運ばれて、酒田は頭まですっぽりと布団を被せ、慶介の頭を抱き込みながらさらなる追加のフェロモンを出して慶介から思考力を奪う。
(あぁ、頭ナデナデすんな・・・また、眠くなる・・・)
慶介は、本日、3回目の昼寝に入った。
夕飯のお膳が運び込まれた音で目が覚めた。
朝と昼は粥だったし、夕食は一汁二菜に漬物という精進料理のような分量。ヒート中は食欲がなくなる慶介にちょうど良い量だが、1食で1合の米が食べられる酒田には足りないのでは?と聞けば、プロテインバーを差し入れしてもらってるから大丈夫。と言った。
食後のお茶を飲みながら慶介は気になっていた事を聞くことにした。
「なんで、セックスしねぇの?」
シクシクと痛む腹の感覚は高校以来となる久しさで、最初は「懐かしい~」なんて気楽に構えていたが丸1日たった今は明らかに気持ちが弱っていた。
また、5時間おきに渡される薬は入院時に使われる鎮痛剤の代わりにもなる永井の胃に穴を開けようとした強力な痛み止め。確かにこれを飲めば愛撫は軽いもので足りる。逆に言えば、この薬を飲んでいる限り酒田とのセックスは必要ないのだ。
酒田にしては珍しく怒っているような雰囲気を隠さず、表情も固いというより怖い。
「正直に言うと、したくない。」
「な、なんで?」
「あの襖の向こうに他のアルファがいるからだ。」
「あ・・・」
ここが他所の家だということは分かっていたが、トイレに行くときも誰とも会わないし閉鎖的な環境にいるからついつい羞恥心や警戒心が薄れて無頓着になっていた事に気づいた。
「部屋の外で警備についているのは番のいるアルファだから慶介の誘惑フェロモンを嗅いでも反応することは無いけど、それでも慶介の誘惑フェロモンを嗅がれるのも本当は嫌だし、声を聞かれるのはもっと嫌だ。」
「それは・・・」
「初日に初夜をするみたいなことを言ったけど、本当はする気はなかったんだ。騙してごめん。」
本来、この巣篭もりでオメガは項を噛まれてフェロモンはお互いにしか作用しなくなる。だからこそ、こんな布切れだけで囲われた部屋でヒートを過ごせるのだが、慶介たちはそれが出来ない。
慶介は巣篭もりをただのヒートにしか捉えていなかったが、番になる期間ですよ。と項を噛むことを強要されるこの儀式は、酒田にとっては屈辱の儀式だったのかもしれない。
「いや、酒田の言う通りだ。俺こそ考えなしに煽るようなことばっかして、ごめん。」
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