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結婚式編
結婚式編:イメージづくり
しおりを挟む試験に落ちて落ち込む慶介だったが、2ヶ月後には身内で行う結婚式が決まっているし、ウェディングパーティも夏休みの時期が好まれるので早く会場を押さえなければならないので失意に沈んでばかりいられない。
まずもって、本多家の結婚式は2回する。
1回目は本多家一族の当主だけでやる結婚式。結婚式というよりは祝言という感じで、他所ではやめた古いならわしを形式上はやるらしい。
そして、こちらの結婚式で慶介がやることは何もなく、全部、親たちがやってくれる。逆に言えば、親が勝手に選ぶのでこちらには選択の権利も余地もない。
そんな祝言なので、1回目に出られなかった両家の親族と友人を呼んで2回目のウェディングパーティをするのだという。
バース社会では、この1回目は内々で祝言をあげて2回目にパーティをするのが今の主流だそうだ。
ベータ的に言えば両家顔合わせの食事会が人前式の結婚式で、結婚式と披露宴がなくなってウェディングパーティという結婚式の2次会のようなものをする。
「んで、何から決めればいいの?」
慶介も野本のウェディングパーティに招待されたことがあるので、何もわからないということではないが、それでも何を決めれば良いのかはわからない。
「まずは、慶介の希望は?」
「えー? ・・・特にない。」
「ベータの友達を呼ぶんじゃねぇのか?」
「え、でも。ベータの谷口と山口って呼べるのか?」
「呼べるよ。パーティなら。」
酒田の漠然としすぎた質問に何一つイメージが浮かばなかった慶介は困った顔をしながら、目の前に広げられた雑誌を興味なさげにペラペラめくっていたが、永井の一言で真っ白なモヤモヤがほんの僅かに形を作り始める。
「じゃぁー・・・、野本くんの時みたいな和気あいあいって感じがいい、かなぁ?」
野本のウェディングパーティはリゾートホテルのプライベートプールがある場所でかなりカジュアルな感じだった。
セレモニーらしいことは新郎新婦入場とケーキ入刀くらいで、食事はビュッフェ形式だし、服装だってちょっと気合い入れたデート用の服レベル。野本が子連れだったことから雰囲気はまるでママ友のお茶会パーティ、プールには子どもも大人も水着持参で遊んでいたくらい自由だった。
パーティらしい雰囲気になったのは子どもたちが帰った夕方からで、子ども向けの食事がおしゃれな飲み会の酒のアテに入れ代わり、昼間はお茶だったオメガママたちもお酒を飲み始めて、慶介にとっては馴染みのないダンスを踊った。
基本的には見ているだけでも楽しいウェディングパーティだったが、慶介には昔なじみの知り合いがいないので会話が続かずそれだけはちょっと辛かった。
でも、谷口と山口を呼ぶならそういうこともないだろうし、野本を呼ぶなら子連れでも来やすい感じのが良い。
「野本レベルのカジュアルさはちょっと・・・。たぶん、野本は内々の結婚式に親族を呼んだから、パーティは友達が中心だったんだろうけど、本多家の式は当主と次期当主の番しか参加出来ないからウェディングパーティに出たがる親族は多いと思う。」
「野本くんのウェディングパーティは特殊な例ってこと?」
「いや、本多家が特殊なんだ。」
「酒田の言う事なんか気にすんな。慶介の好きにしろよ。」
「まぁ、本多と言っても慶介は分家の本多だから、わりと自由に出来ると思う。ただ、慶介・・・ウェディングパーティは親族と顔合わせして挨拶をする貴重な機会だ。これを逃せばいちいち菓子折り持っていちいち挨拶に回らないといけなくなるぞ? 酒田家でも年寄りらと本家と、家を出てしまっているアルファ数人にも確認しなきゃならないし、なんだかんだ言って、本多の祖父母ともちゃんと挨拶したことないだろ?」
「・・・やっぱ、挨拶いる?」
「信隆さんがやや縁切り状態だったから、今まで交流してこなかったし、今後一切関わりを持たない。と言うならウェディングパーティに呼ばないのも、『有り』だとは思う。」
クソめんどくせぇ。と正直に顔に出すと酒田が苦笑した。
ペラペラとめくった雑誌にも「結婚式はやることだらけで大変!」と見出しに大きく書かれている。
婚姻届だけ書いて「ハイ、終了!」とはいかないものか。
「どうするよ、慶介?」
「はぁーめんどー。つーか、酒田は希望ないのかよ。」
「え、俺は・・・・・・・・・特に、ない。」
「なんだよ、その間は?」
「なんでもない。気にするな。」
「気になるって、言えよ。」
言え、言わない。教えて、教えない。聞きたいなぁ、言いたくない。気になるよ、忘れてくれ。と、押し問答。
怒ってみたり、色仕掛けをしてみたり、泣き真似したり、とあの手この手で攻めても酒田は口を割らない。
「教えてくれねぇならっ、今日は、な・・・(永井はだめだ)、の・・・(信隆は父とは言えアウト寄り)、か、景明さんと一緒に寝るぞっ!」
「・・・っ、それはやめてくれ・・・。」
「じゃあ、言え!」
押し問答と長い沈黙の末に聞き出した内容は「ウェディングドレスを着て欲しい」だった。
「花嫁プレイかよ、ウケる~!」
「酒田、お前・・・」
「だから、聞くなって言っただろッ!」
慶介は絶句。永井は爆笑。酒田は赤面。
ドン引きの慶介に酒田は必死になって言い訳をした。「雑誌の写真に影響を受けてちょっと慶介の女装を想像してしまっただけ。」「やましい妄想なんかしていないから。頼むから引かないでくれ。」「他のアルファのベッドになんか行かないよな?」とマジ焦りを見せたので、慶介も無理やり聞き出したのは自分なのだから、ここで拒絶するのは駄目だろうと、少し反省した。
コーヒー休憩を挟んで、気を取り直し、真面目にイメージ固めを始める。
酒田の言う通り、1回目の結婚式には酒田と本多の両家の人間だとしても当主と次期当主以外は参加出来ないので2回目のウェディングパーティにはセレモニー要素は含めたいところ。でも、野本のような子連れでも楽しめるカジュアルさを残したいのでホテルの式場は堅苦しすぎる。と、探しているうちに、ガーデンウェディングが良いのではないか? と方向性が見えてきた。
ネットで検索してみたら、関西でガーデンウェディングが出来る最大キャパシティが250人だったので、親族と友人、その友人の友人や婚約者、そしてそれらの補佐と警護の予測人数をカウントしはじめたらざっと300人を越えてしまい、カウントを止めた。
「ぐ、やばい。300越えた。」
「どうする? 人数決めてから招待客選び直すか?」
「削るとしてもどこから削れば良いんだ。」
酒田と永井がカウントしたのはざっくりと、親族枠で100、友人枠で100、友人の友人枠で100。
慶介は、単純に2親等の親族と学校で親しかった友人だけでいいではないか?と思うのだが、酒田と永井は従兄弟の交際相手や友人達など、そんな人まで呼ぶ? という人まで当然のごとくカウントしている。
「この辺、ズバッと全部いらないだろ?」
慶介は友人の友人枠の人数を切ろうと提案したが、酒田と永井は難しい顔をして言った。
「ここを削ると、ガーデンウェディングにする意味がなくなると思うんだが・・・。」
「子どもを削るってんなら来なくなる親族も出てくるし、逆に大幅に人数が減ることになるぜ。」
「なんで?」
理由は至極単純。
ウェディングパーティは子どもの婚活パーティでもあるからだった。
バース性が確定する5歳以降のアルファは早くも婚活がはじまる。
家と学校だけを行き来する引きこもりがちなオメガの子が安心して出られる外出先は有料公園や校外学習、そしてパーティ。ウェディングパーティは普段関わることのない遠方の子どもと交流出来る絶好の機会なのだそうだ。
「野本の結婚パーディでも、子ども同士がケーキ食べさせ合ってただろ? あれ、一種の求婚なんだ。」
「あのファーストバイトごっこがキッカケで婚約したってやつもいる。親が決めてしまう許嫁ブームは去ったとはいえ、幼少期のうちにオメガを掴まえておきたいと思うアルファの親は多いからな。慶介の従兄弟に当たる本多分家のところにフリーのオメガがいるし、酒田の方にも小さいオメガがいるから、子どもを削るのは良くない。削るなら親族枠の年寄りたちだ。」
「でも、結婚式は親族顔合わせの挨拶の場なんだろ? 疎かにするわけにはいかねぇんじゃ?」
「それはそうなんだが、どうしたらいいんだろうな。」
うーん、と悩む3人に水瀬の伯父が「どうかしたのかい?」と、声をかけてきたので、酒田が人数オーバーで悩んでいるという説明をした。
「そうだねぇ。その場合、削るのは年寄りなのは仕方ないことなんだろうけど、削られる側からすると、慶介くんの晴れ姿をひと目で良いから見たい。と思うんだよね。」
より一層、悩みの唸り声が重くなった。
水瀬の伯父は「困った時は親を頼りなさい。」と一言アドバイスをしてリビングを去った。
慶介たちはアドバイスに従って、自室にいた信隆に相談しにいくと、
「ウェディングパーティを2回する。という方法もあるが、そうすると後の予定がズレるな。・・・祝言の方に両家の親族が参加出来るように本家に頼んでみるか。ーーそれから、酒田。パーティの警護を兄の会社に依頼しろ。それで警護要員を減らせるはずだ。」
そうして、数え直したら確実に来るだろう人数は150、多く見積もっても260人くらいになり、とりあえず一安心。と3人でホッと息をついた。
その後は候補となりそうな会場を検索したり、本当にガーデンウェディングで良いのか、と他のパターンを考えてみたりしたが、最初に感じた好印象が抜けなかったのでガーデンウェディングを推そうと結論づけた。
「この後、どうすんの?」
「基本的に金は信隆さんが出すから、説明しに行く必要がある。」
じゃあ早速、と立ち上がった慶介を酒田が止めて「それは俺がやるから。」と、言って信隆と景明に説明するための企画書のようなものを作りはじめた。
「ちょ、ちょ、永井っ。」
「んだよ?」
「酒田が、社会人みたいでカッコいい・・・!」
ノートPCに向かって文字を打つ姿なら大学のレポートなんかでよく見ているが、今の酒田は大学の課題をやっている時とは違う真剣さがあって、ものすごく「大人」に見えた。
「あー・・・、まぁ、仕事面に関しては酒田の方が一歩どころか、はるか上だからそれは認めるが。俺だって柔道をしてなきゃあれくらいは余裕で出来るようになってるわ!」
「お前は・・・、ホント、負けず嫌いだな。」
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