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プロポーズ/誓いの言葉・R18(後)
しおりを挟む一度達した後の甘イキ時間も落ち着いたころ、力の抜けた手で背中に合図を送る。
体を起こした酒田は、苦しげな表情で2人の繋がっていたものを引き抜いた。ズルゥと熱が出ていき、圧迫感からの開放の気持ちよさと失われる寂しい切なさで複雑な感覚になった。
慶介の愛液でヌラヌラとテカるそれは上向いたまま、先端からは先走りの液がジワリとにじみ出ている。
慶介は自分の要望をすべて叶えてくれて、それでもなお何故か耐えきった酒田に愛おしさがつのり、達したあとの気怠い体を起こし、酒田のソレに手を伸ばし、ゆるりと撫でた。
「次は酒田の好きに動いていいぞ。」
と告げると、慶介の手の中で膨らんだ熱いものがピクっと跳ねて酒田の興奮が感じられるのが面白かった。
酒田の要望は「後ろからしたい」だった。
四つん這いになってみると、手足が震え姿勢を維持するのがキツそうだと思ったが、そんな心配は杞憂だった。酒田は後ろから覆いかぶさり慶介はべシャリと潰された。いわゆる寝バックに近い。
ぐぬ~と入ってきた圧迫感と良いところを押しつぶし進む熱さに息を詰め、再び入ってきた剛直に奥をグリグリと捏ねあげられて「あ"あ"ぁッ!」と声を上げた。慶介の体は足をバタつかせ反射的に逃げようとするが、体全体で押さえつけられていてはどうしようもない。
酒田の動きにはさっきまでの優しさは無く、自身の欲を満たすための激しい動きに慶介は怖さを感じながらも酒田の欲を見せつけられているようで興奮した。
体重を乗せて打ち付けられる腰が程よく鍛えられた柔らかな大殿筋にぶつかる音は軽快だが、酒田の欲望を押し込まれた慶介からは汚く掠れた喘ぎ声が上がり、酒田の征服欲が最高潮に達した時、ガッと頭を押さえつけられ、首に衝撃が来た。
正直、噛まれたと思った。
勉強のために読んだマンガでも興奮したアルファがネックガードの上から項をカジカジと噛む演出がよくあったから。でも、酒田がしたのは頭突きだった。
「慶介・・・、噛みたい・・・。」
色っぽくも、諦念を匂わせる吐息のような声で囁かれた言葉に、慶介は思わず胸が絞られ苦しくなった。
自分だって「嚙んで」と言いたい。オメガの本能が、酒田に噛まれたい。酒田のものになりたい。と訴える。だけど、本能を否定すると決めたのは慶介だ。
本能が選ぶ運命の番を拒否して、心で酒田を選んだ。だから、ここで「噛んでいい」と言ってはいけない気がした。
「駄目だ、指輪とネックガードで我慢しろ。」
頭の後ろで酒田の唸り声が長く響き、声が次第に弱々しい犬の鳴き声になったあと、甘噛みよりも弱い力でカプっとネックガードの上から項を噛まれた。
慶介は腕を伸ばし、酒田の頭をさわさわとなでてやると、噛めない分を発散するように背中や肩をヂュッと吸われ、幾つも痕をつけられた。
「慶介・・・、慶介、好きだ・・・愛してる・・・」
「俺も。俺も、酒田のこと愛してるよ。」
首を捻って舌を絡めるキスをした。
止まっていた腰の動きが再開され、再び快感の波にもまれる。
最初はゆっくり、ワザとかと思うほどにグチュグチュと音をさせながら出し入れされていたのが、少しづつ律動が早まって、慶介の体も甘い収縮を返し、酒田の動きが今までにない早さと力強さになってきた。2人の絶頂はすぐそこだ。
「あ"、あ"、あ"ぁ、イク、イぅっ、さかたぁ、い、いしょ、一緒がいい。酒田も出して。ーーイッ、イぐぅ、う"、う"ぁっ、あ、あッ、あぁあ"あ"ッ!」
達する瞬間、ネックガードのゲルシートごと項を噛まれ、脳と背筋に電撃が走り、頭が真っ白にスパークする。
跳ね上がる頭も体も抑え込まれ、自由にできる手で枕カバーを固く握り、足先をギュっと丸めて、酒田の体の下で快感に痙攣した。
絶頂に体をビク、ビク、と震わせる慶介に、酒田もまた絶頂の迸りを2度3度と押し付け、引き込むようにうねり締め付ける最奥へ、アルファらしい長く大量の精を流し込み、心も感動に打ち震わせた。
シャワーを面倒くさがった慶介の体を酒田がタオルウォーマーで温めたウェットシートで丹念に拭っていく。全身さっぱりして、ゴミの片づけが終わった酒田を腕を広げて迎え入れる。
時計をちらりと見たら普通ならば夕飯前。
小腹が減ったような気もするけど、幸せ感マックスな温もりから離れるなんて選択肢はポイッと捨てて、酒田の頭を抱えてボーイズラブ漫画で言う『だいしゅきホールド』で「おぅ、う"」と声を上げさせるくらい強く酒田の腹を締め上げた。酒田もお返しだと言わんばかりに腕で慶介の肺を締め上げた。少し耐えてみたけど一度、空気を吐き出してしまったらもう駄目だった。ギブアップと体を叩き、絡めた足を解放した。
顔を見合わせ、ひと笑いしたら啄むようなキスの応酬から絡め合う濃厚なキスへ発展し、ムクリと反応し始めたそこが触れ合って慌てて中断した。
今度は慶介が酒田の胸に顔を埋める。
十分に硬く興奮してしまったものを酒田が慶介の体に擦りつけているので、手でしてあげようと触ると「ダメ、休憩する」と言って、慶介の手を自身の背中へ置き直した。くっついている肌は少し汗ばむほどに熱いのに、背中はひんやりとしていたので手の熱を与えるようにペタリペタリと撫でていった。
酒田の胸の中は温かくて、柔らかくて、フェロモンだけじゃない濃厚な匂いで包まれて、気怠さもあって眠ってしまいそうだ。
頭や背中を撫でていた酒田の指がスルッとネックガードの内側に入ってきてピリピリと背筋が痺れた。指の動きはなめらかな項の感触を確かめるように動き、小さく息をついたあと額にキスをした。
慶介は、小さな息が「ため息」に聞こえて、胸の中を満たしていた幸せが僅かなヒビ割れから漏れてしまうような不安を感じた。
「なぁ、酒田。噛めないの辛いと思ったら、言ってくれな。俺・・・ちゃんと、」
ガバっと起き上がった酒田がまるで捨てられた子犬のような泣きそうな顔で、慶介の胸に頭突きするように飛び込んできて「辛い」と言った。
「慶介、辛い。噛みたい。・・・怖い。」
「怖い?」
「いつ、永井に取り返されるかと思うと不安で仕方がない。慶介が永井に運命を感じてやっぱりあっちが良いって言われるんじゃないかって。毎日ビビってる。これが一生続くのかと思うと、辛いし、怖い。」
しがみつくような抱擁は、以外にも苦しくなくて自由な両手で酒田の大きな背中を広く筋肉の形を確かめるように撫でてまわしながら、慶介は不安が煙のようにポワンと消えるような不思議な感覚がした。
なんというか「心変わりを案じるのは、当然なのでは?」と思ってしまったのだ。
でも、そう思うのは慶介がベータ育ちだからだ。
ベータであれば、付き合っても、結婚しても、2人の関係は永遠に確定しない。
交際関係も婚姻関係も継続し続けているだけだ。
告白して、交際を確認しあって、結婚式を挙げてみんなの前で宣言して、法律を含む色々なルールを作って、違反したら喧嘩して、仲直り出来なければ別れたり離婚する。
それは死ぬまで続く極自然な当たり前のリスク。
「酒田。この先、俺が永井を好きになる可能性ってゼロじゃないんだ。」
「・・・・・・運命の番だもんな。」
慶介は酒田の頭をバスケットボールのように鷲掴みにして、無理やり顔を自分へ向けさせた。
「そうじゃない。俺が永井に鞍替えするとしたら、それは、酒田に愛想が尽きた時だ。」
酒田の顔はポカンとしたままだ。
「んーと、俺と酒田の間で修復不可能なくらいの溝が出来てしまったり、どっちかが不貞行為を繰り返したり、ギャンブルで借金作ったり、そういう別れたくなるような事が起こった時、俺は永井に乗り換える可能性があるって事。ーーでもそれは、お前も同じだ。俺に対して耐えがたいと思うような事があった時、俺は酒田に別れを切り出されるんだ。」
「俺が・・・別れたいって、言う側に・・・?」
「そう。酒田の『噛みたい』っていう希望が不満に変わってしまったなら、2人で解決方法を話し合って、それでもダメなら、そのときは・・・別れる、しかない・・・。別れた方がお互いのためって事もあるから。」
まだ、きょとん顔の酒田の髪を撫でながら、どう言えば伝わるのかと悩む。
慶介だって、酒田に愛想をつかされる日が来るかも知れないという不安がある。
具体的に言えば、永井のフェロモンに本能が負けてしまう時のこと。ヒート中に永井のフェロモンを嗅げば慶介は間違いなく本能に負け、うわ言で永井の名前を呼び求めてしまう。そんな慶介を見て酒田が良い気がするわけがない。
それに、酒田が嫌になる日が来るかも知れない。それを思うと、慶介は酒田にみっともなく縋りつきたくなる。「捨てないで」「掴まえていて」「お前のものにして」と。そして、首のネックガードに触れた時、思い出すのだ。
自分はもう酒田のものだった、と。
「酒田が怖いのはどっちだ?俺の心変わりか?項を奪われる事か?」
「どっちもだ。慶介に選ばれなければ俺にはチャンスすらなかった。・・・もしかしたら、たまたま、先に出会ったのが俺だから、刷り込みで好きになってるだけなんじゃないか?って思うこともある。この2ヶ月、永井は大人しかったけど、いつ牙を剥いてくるかも分からない。項を奪われる恐怖は二度と味わいたくない。」
慶介は酒田のつむじにキスをして、目を合わせるために顔を持ち上げた。
「俺もだよ。俺も、酒田が永井のフェロモンに誘引されてばかりの俺に愛想をつかす日が来るかも知れないって、心変わりを怖いと思う。正気を失って永井にフラフラとついて行ってしまうかも知れないって思うと怖い。でもさ、項だけは心配してない。だって、俺の項は酒田のネックガードで守られてるから。」
額を突き合わせて、祈りを口にするように言う。
「酒田が守ってくれると信じてる。」
酒田から鼻を啜る音が聞こえた。うつむきながら体を起こした酒田に引っ張られて慶介も上半身を起こす。
酒田は慶介の上にまたがったまま、慶介の左手をうやうやしく持ち上げ、額に押し当てて、薬指の指輪にキスをして言った。
「守るよ。慶介の心と項は、俺が守る。」
あの連れ込み事件の夜明け、廊下で聞いた誓いの言葉を思い出した。
一方的に守られてばかりじゃ嫌だな、と思ったけど、慶介にはいまいち誓えるものが思い浮かばなくて、情けなくなる。
だけど、真摯な気持ちには真心で答えたいと思って、素直な気持ちを口にした。
「心変わりしないとは誓えない。人生、何があるかわかんねぇし、酒田とは知り合って、まだたったの2年しか経ってない。」
そのうち、付き合ったのは1年にも満たない。
「関係も警護とその対象って時間の方が長いし、俺、酒田の好きなものとか嫌いなものとかまだ全然分かってない。」
酒田が警護を永井に変わってもらうほどにスノボが好きだと知ったのも先の冬だ。
「正味、これから嫌いな所とかも出来るかもしれない。」
完璧な人間なんていない。人間誰しも、欠点と長所があって、凸凹がある。その凸凹が噛み合うかはまだわからないし、噛み合わない時は擦り合わせや譲歩しあわなければ。それが人と人が寄り添って生きるうえで大事なことなんじゃないかな。と、説教臭い事を思ってしまった。
「だから、俺は・・・『酒田を好きでいつづけるための努力をする』と誓うよ。」
病める時も健やかなる時も一緒に支え合って、喜びも悲しみも分け合って、感謝と尊敬を忘れず、思いやりを持って接し、信頼と愛情を重ねていきたい。
・・・なんて言葉は結婚式に残しておきたいので、今は、これらをする「努力」を誓うにとどめ、慶介も酒田の左手をとって同じように、額に押し頂き指輪にキスをした。
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