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答え合わせ
しおりを挟む酒田と福富という特定班との話し合いにより、答え合わせをクリスマスパーティと称し、公認お見合いパーティの日とかぶるように日程を決め、風紀委員にはお断りの理由を作る事に成功した。
クリスマスパーティと言う名の答え合わせは、カラオケのパーティルームで開くことになった。
特定班たち7人とその保護者、慶介と酒田に水瀬も来た。
「さぁ、早速、始めよう。」
まずは、福富以外のメンバーの推論を聞く。この段階では、例え正解だったとしても、何も言わない。それぞれの推論を聞いた上で、福富以外のメンバーの総意の答えを決める。満を持して福富の推論と決め手を明かす。最後に、慶介が推論があっているかの答え合わせをする。
慶介による答え合わせの対価に、特定班の皆さんには、水瀬が用意した誓約書にここでの話を秘密とする約束してもらう。
さらに、慶介を特定するために見つけた情報は金銭で買い取る。
誓約書で慶介のベータ育ちを学校に広められるのを防ぎ、買った情報には消す等の対処をして今後バレる可能性を潰しておく。というのが水瀬の発案だ。
「じゃ、俺からー。まずは、名簿を調べたよ。中学、小学校、幼稚園、どこかのアルバムに乗ってないか?って。でも、どこにもなかったから、海外かなぁ?って思ったんだよ。でも、英語の授業は普通だし、海外かぶれもしてないからこの路線は外れだと思って捨てた。」
「僕は、アルバムに載ってないならアンダーグラウンドかな?って思ったからそっちで調べた。」
「でも、それ、中学は陸上だったってところで否定されてね?」
「いや、陸上はブラフじゃねぇかな?って思ったんだよ。800mって妙に具体的だし、実際に部活には入らなかったじゃん?」
「それな。俺が気になったのは『本多』の名前に反応が遅れるってところ。コイツ、もともとは別の名前だったんじゃねぇかな?って。」
「そうそう。つまり、学校関係の情報は全部設定の作り物。そう思ってアンダーグラウンドに絞ったんだけど、やっぱ、全然情報が掴めねぇの。それで苦戦した。」
「お前ら、それ、ただダークウェブに手ぇ出したかっただけやろ。」
「そういうお前は何しててん?」
「俺は病気系。子育てブログとかサーチして、学校に行ってなさそうなのを探してた。」
「それで、見つかってないんやから意味ないやんけ!」
「やめろや、責任追及はええねんて。もっと情報出すだけ出そうや。」
熱い議論が交わされた結果、福富以外のメンバーの答えは「慶介の正体は、海外の日本人学校でアルファとして育てられていた誤判定オメガ」だ。
ちなみに誤判定オメガというのは、バース性の男の子は皆、5歳くらいの時に血液検査とエコー検査でアルファかオメガを判定する。その判定が偶に間違えることがあるのだ。
たいていは成長の過程で、アルファなのに威圧フェロモンを全く使わない。とか、アルファなのに誘引フェロモンに影響を受けた。とかで気づくことが多い。
「満を持して俺の発表と参りましょう!」
嬉しそうに福富が立ち上がる。
「俺が基本的に根拠にしたのは風紀委員の木戸の発言。木戸が役所のバース課職員の席を狙っているのは有名だ。そこから確かな情報を得ていると仮定した。その木戸が本多のことを『常識知らず』と『手つかずのオメガ』って言ったんだ。ーーどうやったら常識知らずのオメガが作れるか?そもそも常識って何の常識だ?本多は学力は普通だし一般常識もある。でも、ーー『手にキス』を知らなかった。手にキスをしないのはジジババくらいだ。つまり、本多はバース性の常識が無いってことだ!じゃあ、バース性の常識を知らないのはーーだれか?・・・ベータだよ。本多は、ベータ社会で育ったんだ。だから『手つかずのオメガ』なんだ。」
「なるほどね、ベータ社会に行ったアルファかぁ。じゃあ、俺らの誤判定オメガはアタリか。」
「であれば、探すのはベータ社会。喋りが関西だから、近畿の中学校の陸上競技大会の800m選手で探したら、下の名前だけヒットした。ーー問題は、こっからだよ!『本多慶介』と名前がヒットした『田村慶介』が同一人物かどうかを確かめるのが大変だったんだよ。なんせ、どこにも田村慶介の顔がねぇの!諦めかけたその時っ、ーーあのバズった女装ですよ。あれがベータ社会でも一部バズってくれたお陰で、ベータがSNSに『田村慶介』の顔をアップしてくれたんだよ。」
タタッと、スマホを操作して福富は慶介にSNSの画像を見せてきた。
顔を並べた比較画像だ。卒業アルバムの写真を写メした画像を使って、女装の慶介を「知り合いに似ている」とコメントしている。
でも、卒業アルバムの慶介は、眉毛は細くスポーツ刈りでちょっと柄の悪い印象だから、女装写真と比較されても、ぱっと見て似ているとは思えない。
だが、女装をしていない今の慶介と卒業アルバムの写真を比べれば同じ顔だと判断出来る。
「な、これ、お前だろ?」
「うん。」
「本多って昔は柄が悪かったんだな。」
「いや、この卒アル、わざとこういう顔で撮ったんだ。将来、悪いことしてTVで顔写真使われるかもしれないから、悪い顔しとこうぜ!って、友達と一緒に悪ふざけで。今、猛烈に過去の俺に感謝してる。」
慶介に見せたスマホを回収して、福富は続ける。
「結論、本多慶介はベータ社会に行った元アルファの誤判定オメガ!」
ドヤ顔されたが、間違っている。
「え、えっとー・・・。俺が田村慶介なのは正解だけど、ほとんどハズレかな。」
「え”え”ぇ?!?!違うの??!!」
慶介はちょっと困った顔で酒田と水瀬を見た。間違えてくれているなら、そのままの方が良いのでは?と思ったのだ。
水瀬が楽しそうな顔でニヤリと笑った。
「あともう一押し足りないね~。なぜベータ社会で育てられたのか?を考察しないと。」
「「「ベータ社会で育てられた理由???」」」
特定班のメンバーが頭を捻る。彼らの保護者も一緒に考えている。
「ベータ社会に行くアルファって言うと、任務、追放、縁切り・・・。子どものうちからベータ社会に行くこともあるけど、それもだいたい中学からだし。」
「バース社会が嫌いなオメガがベータ社会で育てたとかは?」
「オメガがベータ社会で育てるって・・・」
「・・・ベータ女性が子どもを引き取ったってのはどう?あり得るかは抜きにして、ベータならベータ社会で育てるでしょ。」
「それなら、たしかに~。でも、ベータにバース性の子どもが渡ることがあるか?今どき、捨て子はないだろし、追放された父親が連れ去るってのも、考えにくいよな。」
「そうだよ、子どもの親権はほぼオメガだもん。そのオメガが追放されることは無んだからーー」
「乳児の間の取り違え!・・・いや、無いか。出産する病院分けてるもんな。」
意見が出なくなり膠着状態に陥る。
慶介は、そんなにベータから産まれるということはありえない事なのか。と、思い知らされた。
「皆さん、協力ありがとうございます。ここまで考えていただいても出てこないということがわかり、一安心です。正解をお答えしましょう。」
水瀬からのアイコンタクトで慶介が答える。
「俺の母親は、ベータの女性です。俺はベータの女性から産まれたオメガなんです。」
一同が声を失い「驚愕」という顔をしている「ベータからバース性が産まれるのか?」とのつぶやき、細かい内容の答え合わせをして、各々が「なるほど通りでオメガらしさが無いと思った」と納得していく。
特定班7人のうち、4人はベータ社会でバース性を隠して活動する補佐だと決まっているらしく、ベータ社会あるあるが本当なのか?の質問攻めや慶介なりにバース性がバレそうな所をアドバイスした。
秘密を気にしなくてよくなると、慶介は愚痴り始めた。自分は男だから男のアルファのアプローチに辟易している事、男オメガと話が合わなくてつまらない事、普通に遊びたい事。
「何がしたいんだ?」と聞かれたので、慶介がベータの時にしていた遊び方を話すと「俺らアルファ同士の遊び方と一緒だな」と、皆が携帯ゲーム機を取り出し「普通に遊ぼうぜ」と言った。
ちょっと良い所のお菓子などのお茶会の準備を取っ払い、クリスマスケーキだけは食べるけど、ピザとポテトとコーラで乾杯し、本来使う予定のなかったカラオケで普通に歌う。歌いたくないやつは対戦ゲームをしたり、スマホいじっておもしろ情報を探して見せあって笑う。飽きたら交代したり、重岡の選ぶニッチな漫画の話をすると、知っていたやつが作者のことをコケ下ろすように賛美し、いかにその作者の漫画が気持ち悪い最高の作品か!を語るのを、ストローをズゴゴーと慣らしながら聞き流したり、アンダーグラウンドという闇世界のこわーい噂話を怪談気分で聞いたり、学校の中で履くスリッパ青赤緑黄でローテーションしている内の黄色は不人気で来年の1年は黄色でかわいそう~という、しょうもないことをダベる。
まるで谷口や山口としていたような、やりたかった男子高校生の遊び方をして、今までで最も満足した遊びだった。
「また、このメンツで遊びたい。」
慶介の一言に皆が顔を見合わせ、控えめに意見する。
「いや~、無理かなぁ~。あんまり親しげにしてると他のアルファから探り入れられるし。」
「俺ら、口が軽い自覚があるから、うっかりを避けるためにも、遊ぶのは止めといたほうが良いと思う。」
「そうそう、俺らも、一応、婚約者募集中ですし?」
「・・・そっか。」
彼らと友達になれそう、と思ったのは慶介だけで、楽しかった遊びは彼らの接待だったのだ。と、気づく。
せっかくの楽しかった気持ちが波が引くように去っていく。
このショックは回復するのに長くかかった。
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