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女装の影響

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 慶介は文化祭後、バース社会の間でバズったという状態になり「謎の長身女装オメガ」として顔が知られる。

 景明たちに禁止されていたSNSアカウントをクラスの女子達の強行で作られて、連日、メイクサロンとか、撮影スタジオのある服屋さんとかに連れて行かれて、プロの手によって女装に仕立て上げられて、大阪の映えスポットに行っては、映え写真とやらを撮ってSNSにアップする。言われるがままにしていたら立派な女装アカウントになってしまった。

 しかし、不満を飲み込んで、女子たちの好きにさせたおかげで、慶介は他の男オメガと交流が持てるようになった。


 彼らと交流して思ったのは「まるで女の子みたいだ」ということ。
 慶介から見ると男オメガの彼らは見た目が男の女子だった。オネェ言葉を使うとか、それこそ女装をするとかじゃなくて、話す内容とか、仕草が女の子って感じがする。皆、婚約者か彼氏がいて、自分のアルファ自慢をしたり、不満点を話すんだけど、その内容とか視点とかが、女というか妻目線。

 高校は婚活会場だから、アルファは本気で結婚相手を探していると言われたが、オメガもまた結婚相手にふさわしいか真剣にチェックしていたのだ、と知った。



 スーパーからクリスマスソングが流れるようになると文化祭の話題は少しづつ下火になり、慶介のSNSも更新が止まる。みんなの話題がクリスマスに移っていく。

 慶介のお茶会は、オメガの子たちに遊びに誘われて回数が減り、形は合コンへと変わった。

 オメガの「遊び」は、ほぼお茶会だ。
 サロン、クラブ、ラウンジ、場所の名前は変わっても、やってることはほとんどお茶会。室内で遊べる道具はたくさん揃ってるし、それで遊ぶ事もあるけど、あくまで会話がメイン。
 外に遊びに行く、とはカラオケやボーリング、有料自然公園をさし、街をぶらぶら歩くなんてのは本当に稀なことなのだと知る。
 それも仕方ないのかも知れないと思った。オメガが外に出ると、婚約者や彼氏が付いて来たがるし、そもそも、それぞれに補佐が付いている。最低人数でもオメガの人数に警護がプラス3されるので嫌でも大所帯になり、気軽に街歩きが楽しめる感じではなくなる。
 買い物も、店舗をウロウロするのではなく、別室で商品を持ってきてもらいそこから選んで買う。そんなのは面倒なのでみんなネットショッピングだそうだ。時代錯誤のお貴族様か?って思ったけど、ベータ時代に自転車に乗って友達とショッピングモールに行ったり、フラッと本屋に行ったりしていた慶介としてはオメガたちの生活を窮屈に感じる。

「オメガって、自由がないんだな。」
「そうだな。俺たちアルファはオメガのためと思ってやってるが、アルファの都合が良いようにしているだけだろ。と言われたら言い返せない。」
「これに慣れなきゃいけないのか・・・。」



 クリスマスシーズンは告白シーズンだそうだ。1年生はパーティやらで賑わうが、3年生には真剣味が増して緊張感が漂う。
 このタイミングで本決まりに持っていき、正月に親族が集まる場で報告したいと言う希望があるらしい。

 冬休みの公認お見合いパーティはそのあおりを受けて参加人数が減ってしまうらしい。風紀委員は何とか人数を集めようと、お誘いとお願いがしつこい。

「君がフリーなのも知られてて、名指しで聞かれるんだ。あの長身女装オメガの本多君は来ないのか?って。今回は理由もなしに断れないと思ってくれ。」



 今年のお見合いは無視だな。と、言っていたが、慶介がバズってしまった以上、スルーは無理そうだ。と話し合っていたある日、

「田村クン。」
「はい?」

 慶介は振り返ってしまった。

 自習室だったから気を抜いていた。あっちゃ~という顔まで見せてしまい、慶介がどうしようと悩んでいる内に、慶介を田村と呼んだ男は、ニヤリと笑うとあっさりと去って行った。


 取り急ぎ、酒田に報告した。

 あれは知ってる顔だった。慶介の正体を突き止めようとしていた特定班の1人だ。一時期は本当に鬱陶しかったが、最近は大人しかった。
 そいつが、慶介を田村と呼んだ。ある種の確信をもって声をかけていたように感じたが、慶介の返事で決定的に、完全に特定した。という感じだろう。



**


 酒田は、慶介を重岡の車に押し込むと、口止めをするために特定班の男の元に走った。

「福富、何が目的だ・・・!」
「やぁ、酒田~!目的なんてないよ~。俺は、ただ知りたいだけ。ずーっと気になってたことが解って、いま、すごくスッキリした気分だ。」
「・・・要求は、無いのか?」
「無いよ。付き合ってくれとか、ヤらせて欲しいなんて言わない。」

 特定班の1人である福富の言葉に一旦、肩をなでおろす。アルファの要求の1位2位は回避された。

「ーーでもねぇ、知ってることは・・・話したいんだよねぇ~。知りたいと言ってるやつに、俺は解ったぜ?教えてやろうか?って言いたい。」
「・・・っ、・・・どうしたら、黙っててくれるんだ?」
「はぁー?無理だよ。俺、床屋だもん。知ってしまったら言いたくて仕方がない。『王さまの耳はロバの耳ー!!』ってね。」

 陽気な福富の反応が酒田の焦りと神経を逆なでする。

「・・・くそっ、学校でバラされるのは困る。・・・本多の本家ですら、知られていないはずだ。」
「まじで?!!フゥ~!テンション上がるっ!!ああっ、誰かに話したい!!」

 酒田はゴッ!と壁に頭を打ち付けた。火に油を注いでしまった。俺のバカ!!
 そんな酒田の耳元で福富が囁く。

「でもさー、情報は『秘匿する』って楽しみ方もあるじゃん?・・・俺もその辺はわかってんだよ?・・・だから、俺、要求思いついちゃった。聞いてみる?」

 福富の要求はこうだ。
 慶介の正体を探っていた仲間がいる。誰が一番に正体を突き止めるかの勝負をしていたという。それの答え合わせをする場を設けて欲しい。ということだ。

「答え合わせはもちろん『田村クン』にやって欲しい。酒田でもいいけど、満足感はへっちゃうなぁ。あと、年内にお願いしたい。」
「も、持ち帰って検討する・・・。」
「よろしく~。」


 本多さんに報告すると、バレちゃあしょうがねぇ!と笑いながらおおらかに受け止めた。
 最低限の知識は身についたし、正体を突き止めた相手が慶介のベータ育ちを悪用しようとしているわけでもないのなら、答えられる要求には応えて、口止めをきっちりすれば良い。との事。

「しかし、田村慶介にたどり着いたとは、なかなかやるなぁ。どうやってたどり着いたか聞きてぇな。」








***

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