【本編完結】ベータ育ちの無知オメガと警護アルファ

リトルグラス

文字の大きさ
上 下
10 / 102

説明

しおりを挟む

 重岡と夕飯を作っているところに、部活帰りの酒田と仕事帰りの水瀬が揃って顔を出す。

「晩飯なんです~?」
「麻婆茄子と鶏むねサラダっす~」
「足りますかね?タコときゅうりのキムチ和えも作っときましょうか?」
「いやぁ、いらんでしょう。足りんかったら、晩酌ん時にキムチ和え自分で作りますよ~」
「酒田もいらん?」
「俺は米食うからいらない。それよりも、昼飯のアレ・・・」

 あぁ、と慶介は唇をとがらせる。酒田はやたらと木戸に言った「考えとく」の一言を心配しているのだ。放課後も木戸に声をかけられないように、とそそくさと帰る準備をさせられた。

「だから~、考えとくって言うのは、行けたら行くと一緒やん。」
「お見合いに出るのはまだ駄目だぞ!」
「なんでだよ?!行かねぇよ!」
「だって、今、行けたら行くって言っただろ!」

「は?・・・行けたら行くは、行かんやつやろ?」
「え?・・・行けたら行くは、なんとしてでも行くんじゃないのか?」

 2人はお互いの認識の違いにポカンとする。
 水瀬がひと笑いしたあと、酒田の背中を叩く。

「酒田ぁ、大阪の奴に『行けたら行くわ~』言われたら、ぇへんでぇ。」


 夜、景明かげあきに酒田が今日の様子を結構、事細かく報告していた。金銭は発生してないけど景明から酒田へ警護として依頼しているから、業務報告のようなものだ。と水瀬が言った。

「見合いか。風紀委員には悪いが、今年は不参加だな。」
「そもそも、見合いって何するんですか?」
「大阪だとー、ホテルの会場を借りて、立食形式の食事があって、ちょっとしたゲームがあって、グループに分かれて話をする。普通の婚活パーティだよ~。」
「水瀬さん、さすがに端折りすぎです。」

 学園公認お見合いパーティは、大人のアルファが金にモノを言わせてオメガを得ようとする、青田買いを止めさせるため、苦肉の策から生まれた恒例行事だそうだ。
 アルファの参加条件は18歳以上、未婚、番がいない事だが、オメガは学園グループの在学高校生なので、なるべく参加人数を増やすため、運営を任されている風紀委員が婚約者や交際相手のいないフリーのオメガに声をかけ参加をお願いするのだと言う。

「しかし、慶介くんは男オメガです。公認パーティに限らず勧誘、招待を受ける可能性は高い。ただただ不参加と突っぱねるだけでは角が立ちます。対策を講じる必要があるでしょう。」
「せやな、酒田は口が回るタイプやないしな。クリスマスまでに何かええ言い訳を考えるとしよう。」

 水瀬は景明に対してなら真面目な返答をするのか。と、珍しいものを見た気持ちになった。
 慶介の視線に気づいた水瀬は、慶介の思ういつもの水瀬の顔になって、何か?と言う。

「水瀬さんは景明さんの秘書なんですよね?でも、重岡さんは補佐って言ってた。・・・何が違うんですか?」
「そうですね~。秘書は個人契約、補佐は会社契約、と言ったところでしょうか。僕は本多さんの命令にのみ従いますが、重岡は信隆さんの命令にも従います。あと、補佐は余りアルファの総称的な面もあるので、秘書を任命するのも名乗るのも、ちょっと特別です。」
「主従関係みたい。」
「昔はそう言いました。」

 風呂から上がってきた重岡が「アイスコーヒー作りますが、欲しい人いますか?」と聞いてきたので手を上げる。全員だった。

「他にも聞きたいこと無いです?」
「あー、聞いてもいいのかな・・・。あの、父、の、悪評って、なんなんすか?」

 う”ーーーん、と深く景明が唸った。

「どこまで話したもんか・・・。あいつは言わんやろうしなぁ、でも、慶介も知りたいわな。これまでの経緯いきさつと言うやつを。」


 弟の信隆には婚約者がいた。
 高校卒業すれば結婚して番を持てると思っていたところに、2つ年下のアルファにフェロモンの相性で奪われてしまった。信隆は烈火の如く怒り、奪ったアルファとアルファの実家を徹底的に潰した。
 周りが、そんな事をしてもオメガは帰ってこないぞ。フェロモンで惹かれ合った者は引き離せないのだから諦めろ。と慰めたり説得したが、2人が番になった後も、信隆が大学卒業するまで猛攻の手を止めることはなかった。

 信隆は言うた。復讐だ、と。
 自分以外の男を選んだ女を許せなかったから、女が最も嫌がるであろう番のアルファの力を削ぐという復讐をした。
 当時は運命の番ブームで、オメガが相手を選ぶのが主流だから、と婚約を簡単に解消した両親には家との関係を切り、金銭的復讐を選んだ。

 信隆の稼ぎを期待してた両親が何度も説得に行ってたが、無視されてたのをよく覚えてるわ。

 大学卒業後、信隆は荒れててな、ベータの女を抱いては遊び暮らしとった。
 ベータの女が、妊娠したから責任をとって結婚しろ。と家に押しかけて来ることも2度、3度とあったな。
 避妊しろと忠告に行ったら、愛人契約書に避妊は女側がすること。子どもが生まれても認知しないし、結婚もしない。という愛人契約をしているから女どもは無視しろ。って言いおったわ。

 慶介の母親はその内の1人やろうな。認知してもらえないから、他の男に言い寄って結婚して托卵したんやろう。

「正直に言うと、オメガでなければ引き取ることはなかった。」

 オメガをベータ社会に置いておくことはできない。保護するには養子にするという形で子を取り上げるしか無い。愛人契約書を引っ張り出してきて脅すことも考えた。金で解決させる準備もしていた。しかし、母親は子どもを渡すことにためらわかった。懸念は父親の説得だけだった。

 トラブルなく養子にできたが、信隆の方に問題が発生した。九州に連れていくつもりだったのだが、過去のトラウマから信隆はオメガに対して平静でいられなかった。
 実家には頼りたくなかったのだろう、珍しく「どうしたら良いと思う?」と、俺に相談してきた。

「俺が、ひと肌脱いでやるかぁ。と思ってな、大阪で引き取ってやるよ。っつったら、あいつ、金だけ出して丸投げしやがった、はっはっは!」

 金はたんまり余ってるから欲しい物は何でも買え。と言われた。


 こうして慶介は大阪で父親の兄の景明たちと同居することになったのだった。








***

しおりを挟む
感想 55

あなたにおすすめの小説

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(‪α‬)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。 まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。 水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。 そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

処理中です...