7 / 102
勉強
しおりを挟む月曜日、酒田の登校を見送る。今週は学期末テストなんだそうだ。慶介も書類上は入学している。
あまりに中途半端なタイミングの転校なので、無用な混乱を避けるため、今週は保健室登校で1人別室でテストを受けることになっている。
「勉強とかしてないし、テスト範囲とかわかんねぇんだけど・・・」
「赤点とっても追試験で合格するか、補習授業に出ればいいだけだから。気にせず、赤点取ればいいと思うよ。」
明日からテスト期間と聞かされたのは日曜の夕飯時、驚きでカレーのスプーンを落とした慶介に酒田はあっけらかんとそう言った。
夕食後もテスト勉強をする酒田の隣で、慶介は中学生むけ性教育の本を読まされた。
内容の大部分はベータでも学ぶ保健体育の授業と同じ、男と女の体の成長や変化について説明されている。男は女に比べて体が大きくなるとか、声が低くなる、脇毛や陰毛が生える、陰茎が大きくなり精通がくるとか、そういう感じの内容。
ベータとアルファ・オメガの違いは両性、発情期とフェロモン、興味深かったのは月経がないことだろうか。
両性という女性アルファと男性オメガというベータにはいない生物。女なのに陰茎をもち、男なのに子宮がある、2つの性が両立しているという意味で両性とされているが、生殖機能としては第2性側が強いらしい。
女性アルファは卵巣機能不全により排卵が少なく、男性オメガは精子の数が非常に少ないそうだ。
どちらも不妊治療を受ければ子どもを授かることは可能なのだとか。
あと、オメガと診断されてから地味に気にしていた月経。
オメガも女性アルファも排卵に合わせて子宮内膜が厚くなり受精卵を受け止めるための準備をするが、いらなくなった子宮内膜は剥がれ落ちずに体内に吸収されていくので月経が起こることがないとのこと。
発情期とフェロモン関連のページは最も多い。
おもしろい事が書いてあった。フェロモンはいまだに物質として検出できていない「謎の何か」らしい。アルファなら5歳くらいから威嚇フェロモンを使いはじめ、思春期にはオメガの発情を促す誘引フェロモンも自在に使いこなす。
だが、現代の科学ではそれが何をどうやっているのか全くの謎なのだとか。
酒田が「フェロモンのいい匂いがする」と言っていたが、慶介には酒田のフェロモンが分からない。アルファもフェロモンを放っているはずなのに。
そして発情期。アルファ・オメガは第1性の体が成熟してくる13歳ごろから第2性の特徴が現れ始める。
オメガには排卵に伴う発情が起こり、発熱、発汗、脱力、強い性的興奮状態が症状として現れ、アルファを誘うフェロモンを出す。その状態が続く数日間を発情期またはヒートと呼ぶ。
アルファはオメガの発情フェロモンを受けて発情し、ラットとも呼ばれる強い興奮状態になると射精のタイミングで陰茎の根本が膨らむ事がある。
発情期を迎えたオメガは妊娠と番行為が可能になるため、避妊と項をネックガード等で守る必要がある。
項を噛む番行為をするとオメガは項を噛んだアルファ意外との性的接触を受け付けなくなるので、十分な信頼関係を築き、よく話し合った上で行いましょう。と吹き出し枠に書いてあってギョッとする。
「性的接触を受け付けない・・・項を噛まれる?とセックスができなくなるという事?」
「そう、番以外とセックスはできなくなる。ベータ的に説明すると、離婚出来ない結婚かな?オメガが項を噛ませられる相手は生涯に1度きりだた1人。」
「勝手に噛まれても?」
「噛まれたらそれでおしまい。どうしようもない。」
「はへー。」
酒田は眉をひそませ、こめかみを押さえた。
そんな顔をされても慶介にとって、性教育の本はまるでフィクション小説の設定資料集のようで、面白く読めたが自分事として受け止めることは出来なかった。いまだ、自分の体の中に子宮があるオメガなのだと言われても、全然実感出来ない。
すると水瀬が『オメガの身を守るための心得』という警察が配っている防犯マニュアルの冊子を差し出した。ちょっとダサいイラストと共に守るべきポイントや対策がわかりやすい言葉で書かれている。その間に文字が印刷されたA4の紙が挟まれていた。
事例1、アルファのオメガ強姦。
加害者アルファは被害者オメガに付きまとい等でストーカー行為を繰り返し、接近禁止命令を出される。
しかし、接近禁止命令に逆上したアルファはオメガを誘拐、監禁。発情期が来るまで性行為などの乱暴を受ける。発情期が来ると脅迫でネックガードを解除させたうえで番行為に及ぶ。
アルファは「自分たちは運命の番だ」と主張し犯行を否定。
ネックガードにアルファの指紋がなかったことから番行為はオメガの同意があったものとする。という判断により、誘拐、監禁、暴行の罪のみが問われ、アルファには有罪判決が下りる。
なお、被害者のオメガは自殺。
事例2、人身売買。
オメガが誘拐され4年後に救出される。
その間、オメガは人身売買組織に発情誘発剤を打たれて発情セックスができる奴隷オメガとして売られていた。
妊娠してもなお犯され、出産した子どもは組織によって闇で売買されたと思われる。
項を噛まれたオメガが番い以外と性的接触をすると起こる拒絶反応を好む悪趣味な客を取らされていたようで、救出されるも、その後、衰弱死する。
事例3、集団レイプ。
古い話だが、公立高校に通っていたオメガが学校内で発情し、周囲にいたベータがフェロモンに誘惑された。
空き室に連れ込んだベータは次から次へと数を増やし、オメガは21人のベータに集団レイプされる。
当時は発情期をコントロール出来ないオメガに非があるとされた。
「誓って、1人になりません。ネックガードも外しません。」
慶介は宣誓のポーズで上の2つを宣言し、心に誓った。人身売買組織はヤバ過ぎる。ネックガードも専用の刃物や時間をかければ切断は可能なので、誘拐された段階でアウト。
とにかく、オメガだという理由だけでターゲットにされるのだから、オメガとしての自覚があるとかないとかじゃなく、絶対守るべき防犯意識として覚えておこうと思った。
***
21
お気に入りに追加
498
あなたにおすすめの小説

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる