秘めやかな色欲

おもち

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黒田 椿

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『君こそ誰なんだよ...っ、早く鏡夜に代わってくれ』

『今は酔っ払って寝てしまってるんですが』

『酒...!?君が飲ませたのか?鏡夜は酒に弱いんだ。鏡夜!鏡夜...!声を聞かせてくれ、危険な目にあっている訳じゃないよな...!?』

『お前も酒に弱いこと知ってんのかよ...、ムカつくな...』

小さく呟いた声が、電話越しに喚き立てる東條と言う男に聞かれることは無かった。

微細のズレすら許さないような綺麗な顔で眠る男の頬に、指を滑らせる。

その肌は赤ん坊の様に柔らかく、指に吸い付いた。

電話の男の反応からして、肉親だろうか...

......いや、違うな。



『東條さん、この子の恋人ですか?』

『っ...!そ、れは...違う...』

『...』

一方的に電話を切り、夜間モードに設定した端末を弄くり回す。
ロックもかけないなんて、本人だけではなくスマホも無防備なようだ。

東條とのやり取りは、主人とペットを彷彿とさせるような内容であった。

我慢出来たらご褒美をあげる

また俺に会いたいなら、オナニーしてる動画を送って

俺があげた下着に精子ぶっかけて興奮するなんて、東條さんは最低だね


『...これはこれは...』

碓氷 鏡夜と言う人間は、男に身体を許している。

マッチングアプリの大量のフォロワー、投稿している画像は全て際どいアングルでランジェリーを身に着け、男を誘惑している。


数多の、男を。


その中でも特に、この東條と言う男は特別だったようだ。
1回身体を繋いだであろう男との連絡は途絶えているのに、東條との連絡はマメにとっている。

それが何よりも無性に腹立たしかった。
身体を重ねた回数、この美しい身体に触れた人間がいるのだと思えば、相手を殺したくて堪らない焦燥感にすら駆られた。

この苛立ちの正体は...ーーー。


ぎし、とベッドを軋ませながら碓氷に覆い被さったオレは、彼の小さな唇を舌でなぞり口をこじ開ける。

『...』

『ん...、ふ...ぁ』

興味がある。

この男について、もっとよく知りたい。

あわよくば、泣いた顔をもう一度見たい。

自分の腕の中でぐちゃぐちゃになって、端正な顔を歪めることが出来れば...


『...、すげぇ興奮するんだろうな...』


彼の全てを見たい。
自分だけが知っていたい。

他の人間には見向きも出来ないくらい、頭の中をオレでいっぱいにしたい。

四六時中頭を悩ませて、身体を火照らせて...オレに縋り付いてくればいい。


『...厄介な相手に目を付けられちゃったな、お前』


唾液で濡れた下唇を甘噛みしながら、彼のスラックスのファスナーを下ろす。

案の定男が着用する下着では無かったが、それよりも驚くべきことがあった。

碓氷は後ろにアナルプラグを仕込んでいたのだ。

それには流石に声を漏らして笑った。

『冷徹冷酷、サイボーグとまで言われてるが...誰よりも人間らしい...』


彼はありのままの自分を貫いていたんじゃない。
本当の自分を隠し、偽りの自分を演じていたのだ。

...オレと一緒だ。

追求していた感情の正体

オレはこの子に触れる男の存在に嫉妬し、目くじらを立てた。

もう、それだけで明白であろう。

『鏡夜...容姿に似合った綺麗な名前だ...。
今後は誰にも触らせちゃダメだよ...、汚れてしまうからね。あと、連絡先もオレ以外全部消して、マッチングアプリも辞めて貰う...

今日からお前は』

再び柔らかな唇にキスを落とせば、彼の生糸の様な髪に指を通した。



『...髪の毛一本まで、オレのものだ』
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