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ついに神崎から例の品を受け取った。
真っ白な紙袋の中に存在する小さな2つの箱。
真紅のリボンが丁寧に施されたそれは、見ているだけでもドキドキしてしまう。
今日をどれだけ心待ちにしていたことか。
授業や他の業務を終わらせた俺は、速攻自宅へと戻ってきた。
寝室のクローゼットに紙袋を隠し、いつも通り夕食を作る。
そわそわ
「ニャーン」
「ニャー」
あずきときなこを撫でながら気を紛らわせるも、さっきから全然落ち着かない...!
あっちへ行ったりこっちへ行ったり。
何度も時計を見ては、視線をフライパンへと戻す。
「......だめだ、緊張してきた。深呼吸しよう...すー...はー...すー...」
「何してるの?」
「ひにゃっ!!」
たった今帰ってきた黒田が、背後から俺をギュッと抱き締めると、反射的に手が出てしまった。
「...久しぶりに殴られた」
「あ、あんたが突然抱き締めるから...っでも、ごめん...おかえりなさい」
「ふふ、ただいま。包丁危ないから続きはオレがやろうか」
過保護だ。
俺の額にキスを落とす黒田がにこりと笑う。
「やらんでいいから、シャワー浴びて来い」
え、でも...と口篭る彼の背中を廊下に向かって押し返すと、彼は渋々浴室へと姿を消した。
あと数時間。
あと数時間で、指輪を渡す時がくる。
「はぁ...心臓痛てぇ...」
その場にしゃがみ込んだ俺の足元に擦り寄るきなことあずきが、まん丸の目で顔を覗き込んできた。
「「ニャーン」」
「うん、ありがと...俺頑張るからね」
夕食を食べ、シャワーを浴びる。
何があるか分からないから、しっかり浴室で後ろを慣らしたことは言うまでもないが...
「もう0時になるけど、寝なくていいの?いつもは23時までに寝なきゃ!って言ってるのに」
「うん...」
ベッドの上で、柔らかなオレンジ色のライトに包まれながら静かに本を読む黒田を、ただただ眺めていた。
なんて言おう。
どうやって渡そう。
ドキドキして破裂してしまいそうな胸を懸命に落ち着かせながら、ページをめくる彼の美しさに見惚れていた。
「明日起きれなくなっちゃうよ?」
「平気だ、アラームさえあれば起きれる」
「って言いながら、朝は不機嫌なんだよな。そこも可愛いけど」
笑う彼がパタリと本を閉じ、ベッドヘッドに本を置く。
「さて、丁度0時になったし、もう寝ようか」
「...椿さん」
9月10日。
徐に立ち上がり、クローゼットから紙袋を取り出した俺はベッドの上に座り直した。
きょとん、とする黒田の前で震える手を袋の中に入れると小さな箱を取り出す。
「...開けて...欲しい...」
差し出した小さな箱に施されたリボンに指を掛けた黒田が、しゅるりと音を立てて抜き取り手の内でそっと、箱を開けた。
「...お誕生日おめでと...、男から貰っても嬉しくないかもしんねぇけど...指輪...、やる...」
「...憶えてて...くれたんだ...」
プラチナの指輪はいたってシンプルで、特別目を惹くようなダイヤや装飾はない。
ただ、内側に書かれた文字や俺の指紋の印字を見て黒田は手で顔を覆った。
「まいったな...、誕生日なんて歳を取るだけでいいことないと思ってたのに...」
彼の手から指輪を取り、左手の薬指に優しく嵌め込むと
その手の美しさにゾクリと肌を粟立たせた。
「椿さん...俺はあんたを愛している...」
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