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しおりを挟む「あ、いや...でもあいつは若王子先生が思ってる程悪いやつじゃ...」
「ええ、分かってます。僕だってあの人の身内を悪く言うようなことはしません。ただ...」
風に乗って香る煙草の匂いが鼻腔を擽ると、何だか胸が妙にざわめいた。
「ヤバい人でしょう?あの人」
「...」
「貴方たちが裏門を離れてからもずっと近辺をウロウロしてたんですよ。黒づくめのガタイが良い男を複数人引き連れて高級車乗り回すような人に...僕達夫婦の関係を認めて貰えるとは到底思えませんね」
......ま、そうだな。
「ですので、敵情視察といきたい。
貴方が弟さんと仲良しであることは今朝の出来事で十分分かっていますので、彼が何者かを教えてください」
「え゛っ」
この男が毎朝化学準備室でコーヒーを飲んでいることは知っていた。
...化学準備室からは丁度裏門が見えるようになっているが、もしかして俺が光悦に絡まれるところから見ていたんじゃないか...?
「髪に鼻を寄せられて、匂い...嗅がれるような仲なんですよね?」
「ば...っち、違うよ!」
「おやおや、焦ってますねぇ...黒田先生が知ったら怒っちゃうんじゃないですか?」
にやにやしながら俺に身体を寄せる若王子が、煙草を咥える。
「ぁ、おい...危ねぇって...」
「やましい仲じゃないなら教えてください...。さもないと」
「っちょ...近...待って...」
滞る灰の中が赤く燃えている。
若王子の甘い匂いに眉をしかめていると、彼の膝が両足の間に割り込んでピタリと身体を密着させた。
予想外な彼の行動にボッ、と身体中に熱が駆け巡り目を見開く。
「や...っ、やだ...!何すんだよ...離せ、ぁっ...うそ、...やめ...!」
「前髪結んじゃいますよ」
「もう結んでんだよ...」
ちょんっ、と括られた前髪を見て若王子は顔を手で覆いながら笑った。
「クソほど似合ってねぇ...、マジ滑稽」
「うるせぇ、殺すぞ」
「あはは、弱い奴ほどよく吠えるって言うけど、本当その通りみたいだ。
にしても、思った以上にいい声を出すじゃないですか。やだとかやめてとか、聞いてて心地いいです」
こっっっのドS野郎め...!
結ばれた前髪を解こうと、頭上に手を伸ばすと若王子によってあっさり制される。
挙句の果てには、教えてくれるまで外させないし帰しません、と笑ったため舌打ちをした。
俺の貴重なお昼ご飯の時間が...。
きっと今頃、黒田は1人車の中で寂しい昼食時を過ごしているに違いない。
「さ、早く言ってくださいよ。もっと結んで欲しいんですか?」
「えっ!?やだ、やめてくれ...!」
「ふふふ...」
携帯灰皿に煙草をねじ込み、不敵に笑った若王子がまたしても俺の髪を手に触れた
その時
「若王子先生、あまりいじめないで欲しいな」
「!!つ、つばきしゃ...」
嫌がらせをされる俺の前に突如現れたその男は、爽やかに笑いながらこちらに歩み寄ってくる。
「デスクの上にお弁当出しっぱなしだったから、温めて来たよ。一緒に食べよ...っと」
ぎゅううう
音速で黒田の身体にしがみつくと、若王子は呆れた様に肩を竦めて見せた。
「虐められた...!変な髪型にされた...!」
「んー...どれどれ?...ふふ、可愛いよ。碓氷先生は何でも似合っちゃうんだから、本当凄いなぁ」
「...!......ま、俺に似合わないものなんてないし...」
機嫌を直した俺を見て、黒田はにこりと笑いその場に座り込む。
「黒田先生、よくこんなのとお付き合い出来ますね」
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