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しおりを挟む「じゃあ印字は?最近だと少し変わっているものもあるが、定番のものだと記念日の日付けを入れたり、お互いの名前を入れたり出来る」
「印字...、それは文章でもいいのか...?」
「もちろん、指輪に書ける範囲であれば...。文章がいいなら、ここに書いてくれる?希望があれば書体も。人気なのは筆記体と明朝体、丸ゴシック辺り」
メモ帳とペンを彼から受け取った俺は、陽の光によって真っ白に発光する紙の眩しさに眉を顰めた。
「碓氷先生って、字綺麗だよね」
「...ありがとう」
「...これでいい?漢字も間違ってない?」
「ああ」
中身を見た神崎が、一瞬何かを考えてから朱肉を取り出す。
「そう言えば予算とか聞いてなかったけど、これなら大分安く抑えられるよ。ざっと計算すると......これくらい。オーバーしてたらオーバー分切り捨ててあげる」
オーバー分切り捨てるって、商売としてやっていいことなのか...?
アルバイターがそんな大胆なことをするとは驚きだ。
「いや、問題ない」
「OK、じゃあ契約成立ってことで拇印くれる?」
「拇印?サインじゃ駄目か?」
「駄目、薬指の拇印がいい」
頑なに拇印と言う神崎に、朱肉を握らされては仕方なしに薬指の腹に赤インクを付ける。
ペタリ、と紙に指を押し付けて提出すれば彼はそそくさとパンフレットを片付け始めた。
「シンプルなものだからすぐに出来るよ、10日までには間に合わせる。あと1個お願いなんだけど、相手の薬指の拇印も貰ってきてくれる?」
「えっ...?」
「それがないと、うちの会社では交渉成立したことにならないんだ」
「......。わかった」
椿さんに怪しまれないよう、寝てる間に採取しとくか。
その後ラッピングのリボンの色や、箱の色やら細かくメモし終えた神崎がパタリとメモ帳を閉じると17時を告げるチャイムが街に響いた。
「よし、じゃあこれで終わり。先生の連絡先聞いてもいい?」
「ん...」
生徒と連絡先を交換するのは、これで2回目だ。
神崎の黒髪が風邪で揺れ、ピアスがキラキラと輝くのを見ていると彼は綺麗に笑った。
「先生、俺の顔の良さに見惚れたな?」
「違ぇよ。おら、立て...さっさと帰んぞ」
「ああ、俺はもう少しここに残る」
用がないなら帰ればいいのに...、そう思いながらお尻についた草をぱっぱっと払う。
「あ...碓氷先生?...と、神崎?」
座り直す神崎が、再び朝顔に視線を送る姿をぼんやり見ていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
「政宗、今日は少し遅かったね」
「こ、こら...!政宗じゃなくて、姫神先生、だろ...!す、すみません碓氷先生の前で...」
ああ、そう言うことか。
如雨露を持って慌てふためく姫神を見て、神崎がなぜここを指定したのか、もう少しここに残ると言ったことにも納得。
徐に立ち上がった神崎が、如雨露を抱えたままの男の元へ近寄ると、姫神の柔らかな頬を指先で撫でる。
「汗かいてる...俺に会いたくて急いで来たの?」
「っ.....だってなおくん...私が来るまでずっとお外で待ってるから...」
「政宗...かわいい...」
「もう、なおくん...♡」
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