秘めやかな色欲

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｢はい、次。さっさと取りに来い｣

夏の終わりが近付いてきた頃、学校が始まった。

大量に出していた宿題を一晩で終わらせ、ひーひー言っている生徒が目に余る。

だからあれほど宿題は計画的にやれと言っていたのに。

夏休み明けは生徒の学力が著しく低下しやすい。
長期休み中にしっかり勉強していたか、遊び呆けていたかが明確に分かるが...

｢吉野、なんだこの点数は｣


45点。


｢赤点ギリギリだぞ、やる気あんのか｣

｢うーん...自信あったんすけどね、放課後に講習お願いします｣

あ、こいつ絶対わざとだ。

｢吉野って数学だけダメだよなー。他の教科は点数良かったのに｣

｢俺、数学苦手だから...｣

答案用紙を受け取った吉野に佐川が声をかける。
どれどれ、と吉野の答案を覗き込む佐川の頭を教科書で叩いた。

｢授業中の私語は厳禁だ。大体君もそこまで点数良くなかっただろ｣

｢うっ...すんません...｣

しゅん、と肩を落とす男には目もくれず答案用紙を生徒に返却し、採点ミスがないかを確認していく。



｢...採点ミスは今日の16時30分まで受け付ける、以上。...号令｣

｢起立...礼、ありがとうございました｣


頭を下げる生徒に対して軽く会釈をしてから、チョークケースや教科書を手に持った。

今日の授業はこれでおしまいだが

｢...よし｣

俺は、不本意ながら神崎 七王に用事がある。
彼にお願いをするのは正直腑に落ちないが、今俺の願いを聞いてくれるのは神崎、ただ1人だけなのだ。

2年の教室を後にし、3年のクラスが隣接する廊下を歩いていると、沢山の人に囲まれた神崎の姿を発見する。

しかし、あまりにも人が多すぎて声をかけられない。

神崎を呼び出したところで来てくれるかどうかも分からないし、声を掛けたことによって奴が白い目で見られたらどうしよう...

そんなしょうもないことをぐるぐる考えていると、俺に気付いた神崎が此方に歩みを進めてきた。

｢おい、やめとけって｣｢碓氷なんかに構うなよ｣など、そんな声が聞こえてくると、思わず彼から目を逸らした。

やっぱり、人気のないタイミングを見計らって来るべきだったな...一旦出直すか。

｢碓氷せんせ？どうした、俺に会いに来たの？｣

｢ばっ、...！違う！貴様、軽々しく肩を組むな｣

出直せなかった。

｢だって高さが丁度いいんだもん。で、なんの用？｣

近ぇな...。

香水の匂いと、ジャラジャラつけられたシルバーのアクセサリーが眩しい。

こいつはまたこんなに胸元を開けて...ダラしない...。


｢...あの、前言ってた...奴のこと...｣

｢前...？...、あー...はいはい。じゃあ、今日の放課後、校庭裏のベンチで話そ？｣

いい？と念を押す神崎が、屈んだ状態で俺の顔を覗き込む。

色素の薄い瞳の中に日が差し込むと、まるで向日葵が咲いている様だった。

｢...ん、分かった...｣