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しおりを挟む朝食を食べ、チェックアウトを済ませた俺と黒田はようやく光悦&進コンビと解散することになる。
「いやー、鏡夜のえっちな声もえっちな姿も見れて最高の旅行だった。あれが俗に言うラッキースケベって奴?」
嫌味のない顔でにっこりと笑う光悦を前に、黒田が咄嗟に俺の身体を隠す。
「鏡夜、こいつから離れて。目で犯される」
「あはは、お前のことも犯してるぞー椿♡」
「...」
煙草を吸いながら嫌そうな顔をした黒田は、光悦の鳩尾に肘鉄を食らわせた。
「うっ...つーかお前ら観光は...?僕はまだ鏡夜と離れたくない...」
「昨日も言ったけど、オレらは今日帰るんだって」
「え?ホントに?ここまで来といて?舞妓さん見に行こうよ」
「無理」
「えー、やだやだー」
駄々っ子な光悦を必死に宥める黒田を眺めていると、向こう側で煙草を吸っていた進がこちらに戻って来た。
「ああ?んだよ碓氷てめぇ、ジロジロ見てんじゃねぇぞ」
「見てない...」
「...さっさと光悦様の目の前から消えろ」
くっ......!
散々俺と椿さんの時間を邪魔したくせに...そのセリフをこいつに言われると腹が立つ!!
「なんたって、あのお方を独り占めしていいのは俺だけだからな」
殺意すら芽生える言動にキツく拳を握った。
「光悦にキスマークすらつけて貰えないくせに...」
「......あ...?きすまーく...?」
何だそれ、と小首を傾げる進を鼻で笑い、鎖骨下にある赤い鬱血の跡をTシャツの隙間から覗かせた。
「コレだよ、コレ。あんたはわざわざ洋服を脱がないと周りに自分の主人を自慢できないもんな、かわいそうに。俺はこの痕が見えるだけで、椿さんのモノって言う証拠になるんだけど」
「...は?それがあると、どうして黒田の所有物ってことになんだよ」
「ああ、いや...キスマークすら知らない進くんには関係ない話だった、悪ぃな」
自分が出来る精一杯の笑みで進を見やると、案の定俺のお粗末な煽りは彼に効いたらしい。
ぷるぷると肩を震わせている姿は子犬を連想させる。
黒い...豆柴だ。
「こ、光悦様...!」
突然大きな声で光悦の名前を呼ぶ進には、流石にあの2人も会話をピタリと止めてしまう。
目をまん丸くしてこちらを見る光悦は、進が真っ赤な顔で俯き肩を震わせている姿を見て、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。
「珍しいな、お前が声を荒らげるなんて。あと人前で光悦様って呼ぶなとあれほど言ってあったのに...」
「すみません...、俺...」
呼び方に関しては今更だろ。
「...鏡夜、おいで。今のうちに逃げよ」
「えっ?あ、ああ...」
黒田に手を引かれて足早にその場を後にするが...、進が俯いたままの姿を見てそんなに傷付くようなことを言ってしまったのかと不安になった。
「美味しいもの食べて帰ろうね、鏡夜」
「!美味しいもの...!行こう行こう」
が、美味しいものに釣られ、その後すぐに進のことなどどうでも良くなった。
「...きすまーくって奴を、つけていただきたいです...」
「......僕が?お前に?」
「は、はい...。碓氷が言うには、その痕さえ見えればその人のモノだと言う証明になるって...」
新しく煙草を咥えた光悦を見て、慌ててライターを取り出し火をつけた進はそのまま1歩後ろへ下がる。
遠くを見ながら紫煙を燻らせ、短い髪が風に靡く美しい姿に、進の胸は恋する乙女の如く高鳴った。
「ですから...俺にも光悦様のきすまーくがあれば」
「キスマークなんてどうせすぐに消える...。
それに、お前が僕のモノであると言うことは、僕だけが知っていればいいことだ」
僕には敵が多い。
もしお前が危険な目にあったら、耐えられないからね。
そう言おうとした光悦だったが、一息吐いてからしゅんとする進の頭にポン、と手を置いた。
「大体な...駄犬のお前に僕のキスマークなんて、豚に真珠と一緒だぞ」
「...?ぶたに、しんじゅ...?」
「ことわざ。キスマークも知らないお前みたいな価値が分からない奴に、高価なものを与えても無意味ってこと。もっと日本のことを勉強するように」
「な、なるほど...!もっと精進いたします!」
自分以外が見ることの出来ない進の笑顔を見て、光悦は不思議と居心地の良さを感じていた。
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