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しおりを挟む「...で、清水寺に行った後は自由行動になって、19時までにホテルに集合するって言うプランになっているから」
「じゃあ、オレたちもここからは自由行動にしよう」
17時
かなり端折ったが、ようやく下見から解放された。
途中色々な物を食べ歩き、最近の女子高生の如く至るところで写真を撮りまくる。
後々データフォルダを見返すのが楽しみだ。
「椿さん、あれ」
「まだ何か食べたいの?」
「食べたい。八つ橋...食べたい...。あっ...お団子...食べたい...」
「ヨダレ垂れてるよ」
黒田のハンカチで口端を拭われていることにもお構い無し。
目を輝かせながらそろりそろりと近付く俺を見た黒田が、ポンと肩を叩いた。
「夜ご飯食べれなくなるんじゃない?」
「うっ...」
「オレが予約した旅館、結構いい所みたいでね。中でも料理が美味しいって評判なんだ」
「う゛っ...」
夕食が食べられなくなることを考えれば、ここはぐっと我慢すべき時なのだろう。
でも...甘味がこっちを見ている...。
「だから、好きなだけお土産として買って帰ろう」
「好き」
「あ、その好きは「1日1回、鏡夜から好きって言う」には含まれないよ」
「...」
黒田の言う通り、食べたい甘味を片っ端から購入する俺とは裏腹に、道沿いに存在するお茶の専門店を見かけた彼は一瞬にしてその中へ姿を消してしまった。
「買ってきた」
嬉しそう。
玉露のお茶を値段も見ずに購入した彼はご満悦の表情を浮かべている。
「お茶って...あんなに高いんだ...」
「オレが買ったのはそこまで高くない方だけどね」
「え...あ、そうなの...?」
ランジェリー買ってもお釣りがくるレベルだぞ...、俺からすれば高い。
その後も、お土産屋さんでお揃いの箸を買ったり、箸置きも新調したりと中々いい買い物が出来た。
しかも
「...大吉!」
「あ、オレも大吉」
同じ神社、同じタイミングで大吉を引き当ててしまうとか、絶対運命だろ。
「...今までおみくじ引いても凶ばかりだったし、大吉引くのはじめてかも」
「椿さんが凶を引いてるイメージ全然湧かないけど」
「そう?まあでも...君と出会えたから...」
「...、ん...?」
彼の指が頬を撫でる。
真っ赤に燃える夕焼けの中、純麗に微笑むその表情は
「こんなに人を好きになれて、こんなに大切にしたいと思える人に出会えたからこその大吉なのかな...」
心臓の鼓動をまんまと加速させた。
「...さて、そろそろチェックインの時間だし移動し...、!」
おずおず手に指を絡め、身長の高い彼を見上げる。
「鏡、夜...?」
「手......、繋ぎた...ぃ...」
ただでさえ蒸し暑くて息苦しいのに、心臓がバクバクしたら余計に呼吸をするのが難しい。
「...」
黒田の驚いた表情。
「ほんの少しだけでも...いい、から...」
旅先では開放的になると言うが、その通りだった。
今この手の先に居るのは彼なんだと言うことを、しっかり心に刻み付けておきたい。
彼の手を掴む指に力が籠り、辺りの騒がしさだって気にならなかった。
「椿さ...」
「周りの目ばかりを気にしていた以前の君とは大違いだね...」
目を細めた彼の首を、一筋の汗が伝う。
それから少し屈んで、耳元に唇を寄せたかと思えば、小さな声で甘く囁いた。
「そんな可愛いことされたら、堪らないよ...」
「っ、...!」
「そこ、段差あるから気をつけて」
俗に言う恋人繋ぎを堂々とし始めた彼は、俺の手を優しく引っ張りながら歩いた。
広い背中。
大きな手。
綺麗にセットされた髪。
風に乗って香る、彼の匂い。
「...」
全部がたまらなく愛しいと感じる中、彼の耳も微かに赤いような気がして、少し嬉しくなった。
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