秘めやかな色欲

おもち

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3人で朝食を食べ終えると、吉野は帰る準備を始めた。

もう少しゆっくりしてもいいんだよ、と言う黒田の発言に頭を振り、これ以上居たら流石に帰れなくなる。と冗談交じりに口にした吉野を見て、胸がチクリと痛んだ。


「母...碓氷先生」

「貴様...死んでも学校で母さんって呼ぶなよ」

「まあ...そこは努力しますよ。薬のことですがお話した通り、もう作ることはやめておきます。自分の興味本位で盛っちゃってすみませんでした」

「え?あ...ああ...」

それは俺もいい思い(3P)が出来たわけだし、謝られる程のことではない。
吉野が薬作りを辞めれば、ヘヴンが表の世界に出回ることも、裏社会で取引されることも無くなるのだ。


「吉野が薬作りを辞めてくれれば、俺からは何も言うことないよ」

「...。俺、先生に目を付けた理由があるんです」

「理由?」

「はい。碓氷先生って、生徒から不人気で」

グサッ
  

「怖がられてて、話しかけられることもほぼ無いじゃないですか」


グサッ グサッ


今、容赦ない言葉のナイフに滅多刺しされてます。


「だから貴方に近付けば、貴方は俺だけを特別扱いしてくれると思った。
...他の生徒より可愛がってくれると思った。
先生と一緒に過ごした日々は孤独であることを忘れられて、凄く幸せな気持ちにさせてくれました」


吉野がスマホを手に持ち、鞄を肩にかける。


「また当分会えなくなるけど、夏休みが明けたら...たまには一緒に居て欲しいんすけど...」

「...はぁ」

大きなため息を吐いてから頭を抑えれば、彼は眉を下げた。

「やっぱり、迷惑ですか...?」

「メリハリさえ付けてくれれば構わない。俺もお前と居るの...えっ、と...嫌いじゃない、...と思うし...」

「母さん...」

「違う違う」


完全に俺のことを母親だと認識し始めているみたいだが...、大丈夫か...?


「吉野くん、良かったらこれ持ってって」

キッチンの方から何やら荷物を持ってきた黒田の手元にはクールバッグがぶら下がっている。

「夏バテにならないように、きちんとご飯を食べるんだよ」

作り置きしていたおかずの数種類と、ねこ型の保冷剤が入ったクールバッグを受け取った吉野は嬉しそうに目を細めた。

「父さん...」

「また来てね」

黒田は父であることを受け入れているようだが、大丈夫なのか?

「ありがとうございます、お世話になりました」

ぺこりと頭を下げた吉野が玄関のドアノブに手を掛ける。

「吉野、やっぱり家まで送る」

「いえ、大丈夫です。大通りに出たらタクシー呼ぶので。じゃあ...また夏休み明けに」

 

そう言い残し、吉野は黒田家を後にした。

突然、家の中が静かになってしまったことに、少しだけ寂しさを感じる。

足に身体を擦り付けるきなこを抱き抱えると、黒田が俺の腰に腕を回した。

「鏡夜、なんだか寂しそうな顔してるね」

「してねぇよ...。ったく、母さん母さんって俺はあいつの母親じゃねぇっつーの...」

ぷい、とそっぽを向く俺を見て、彼は小さく笑みを零した。

「...君は本当に分かりやすいな」

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