241 / 312
241
しおりを挟む「ご馳走様でした。凄く美味しかったです...夕食を誰かと食べるのなんて何年ぶりだろ」
彼は、俺と黒田と夕食をする中でよく笑って、よく喋った。
それは学校での姿とは程遠い。
ただひたすらに楽しそうで、いつもの大人びた姿は夢だったのではないかと思う程に、無邪気だった。
「吉野くんだって、1人で食事をしたくない日もあるだろうからね。またいつでもおいで」
警戒していた黒田も、俺のことを恋愛対象として見ていないことが分かれば、すっかり気を許したらしく、気さくに吉野と会話を交えている。
「父さん、好き」
「ありがとう。吉野くん、お茶は?」
「...いや、夜も遅いしそろそろ帰る準備しないと...」
そう言いながら寂し気に食器を下げる吉野を見ると、男には無いはずの母性すら溢れてきそうだった。
「家の電気つけてくればよかった...」
どうにかして孤独を紛らわせてやりたい。
「暗い家に帰るのって寂しいですよね...」
なんだか妙にわざとらしいが、しゅん、と肩を落とす姿を見ただけで心臓を鷲掴みされるのは、どうやら黒田も同じだったようだ。
「吉野くん、今日は楽しかった?」
完全に我が子を心配する父親の目で吉野のことを見ている。
俺は、食器を洗いながら黒田の声に耳を傾けた。
喫茶店で聞いた話が頭を過ぎるのだろう。
吉野の顔を覗き込みながら、穏やかな声で囁く彼の優しさに思わず胸がときめいた。
「はい...楽しかったです」
「そっか」
吉野の黒田を見上げる姿は雨の日に捨てられた子犬そのものだった。
身体はやけに小さく見えて、か細い声が喉から出る様は再び俺の母性を擽る。
「椿さん...、今日は吉野を...」
「泊まってく?」
真っ先にそう提案した黒田に、俺も吉野も軽く目を見開いた。
俺が意地でも今日は一緒に居てあげようと頼み込む前に、黒田は口にしたのだ。
「いや...でも、迷惑になるし...」
「歳が近くて頼りないかもしれないが、オレでよければ沢山甘えていいんだよ」
つ、椿さん...!!
なんて優しいんだ、こんな彼女が隣に居るなんて鼻高々...。
しかも彼女のはずなのに、めちゃくちゃパパの顔してるじゃねぇか...。
「ほんとに?」
目を輝かせ黒田に飛び付いた吉野は、嬉しそうに足をパタパタと動かした。
「学校の人には内緒だよ」
ソファーに倒れ込む黒田が頭を強打し、片手で抑えていると、吉野はちゅっ、と音を立てながら彼の頬にキスを...
「っておい吉野てめぇ...!今椿さんにキスしたろ...!」
「はい」
「...んでキスしてんだ...っ、返せ!」
「返せ、とは。家族はキスするって聞いたんすけど」
いや、だとしても...実際には違うし椿さんは俺の彼女だし...。
ジト目で吉野を睨み付けていると、彼は照れた様に笑った。
「ごめんなさい...、こんな父親が欲しかったから...嬉しくてつい...」
ぐ、ぬぬ...。
その無邪気な笑顔と本当に嬉しそうな姿を目の当たりにすれば、怒る気すら失せてしまう。
「だめ!...椿さんにキスするの禁止!」
「わかりました。寝る前と起きてからだけにします」
「おい、そう言う問題じゃねぇぞ」
10
お気に入りに追加
853
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる