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しおりを挟む年相応の無邪気な顔で笑う吉野を見て、少し安心した。
俺にキスをしたり、淡々と昔のことを話したとしても、この子は子供。
まだ親に頼っても、甘えてもいい存在なのだ。
「嬉しい...、1人は寂しいから」
「...」
彼の寂しさが少しでも紛れるのであれば、それで構わなかった。
「先生、濡れた服は乾燥機にかけてあげるから、シャワー浴びて来てください。風邪ひきますよ」
...改めて指摘され、自分がどんな姿をしていたのかを思い出す。
吉野から服を借りて帰るわけにも行かないし、雨とクーラーのせいで身体が冷えてしまった今の自分には有難い提案だった。
「ん...」
彼の言葉に甘え、案内されたバスルームに足を踏み入れる。
「俺も一緒に浴びていい?」
「あ゛...?馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ」
「いいじゃないですか、男同士ですよ」
男同士も何も、なんで生徒と一緒に入らなきゃならないんだよ...!
脱衣場で濡れたTシャツを脱ぎ、洗濯機の中に放り込んだ吉野の身体は雨のせいで微かに濡れている。
「先生、寒い...」
濡れた髪も、揺れる瞳も、彼のしなやかな身体に残る過去の傷痕も...やけに色っぽく見えて...
「じゃ、じゃあ貴様が先に入れ!」
「俺が...?」
「ああ、俺は後で構わない」
「...先生が先に入ってください。脱いだ服はこれに入れておいて、服が乾くまではこの服着てくださいね」
足下のカゴを指さし、脱衣場を出ていく彼に胸を撫で下ろした俺は、濡れた衣服を脱いでいく。
幸い、下着は濡れておらずノーパンと言う自体は免れそうだ。
熱いシャワーを頭から被り、目を閉じる。
まさか吉野にあんな過去があったとは... 。
自分と妹の身を守るために薬を作ったなんて、怒るに怒れなくなってしまった。
ただ、薬作りも辞めると言っていたし、今回のことは多めに見てやるにしても...だ。
感覚を鈍らせる薬も、今では改良されて快楽を増幅する薬と化している。
その薬を求めて多くの金が動き、巨大な組織すら翻弄しているのだ。
「あまり、現実味を感じないな...」
「さっきから通知鳴りっぱなしでしたよ」
「え、ああ...」
きっと黒田だろう。
部屋に戻り用意して貰ったタオルで髪を乱雑に拭く俺は、スマホを手に取った。
案の定ーーー。
心配した黒田からの連絡に、思わず笑みが溢れる。
すぐ帰る...っ、と...。
「シャワー浴びてきます。飲み物は冷蔵庫の中にありますから、必要であれば勝手に取ってください」
俺の返事も聞かずに浴室へ消えた吉野の背中を見つめながら首を傾げた。
「何考えてるか分かんねぇ奴だな...ほんと」
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