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しおりを挟む「ちべた...っ!!」
突然頬に押し当てられた缶コーヒーに飛び上がる。
「くっ...、ふふ...」
外の暑さで水滴を滴らせるアイスコーヒーの缶は、いかにも冷たそうに見えた。
肩を震わせて笑う大きな男は、今日も今日とて制服を気崩し、ばちばちにピアスを着用している。
「なんだ神崎か...。貴様は本当に受験生の自覚がないみたいだな...」
「それより、ちべたってなに?冷たい、だよ。碓氷せんせ」
「...っ、うるさいなぁ...」
指摘をするな、恥ずかしい。
「こっちを向け...、全く...こんなにワイシャツのボタンを開ける奴があるか...。袖の捲り方も雑だし...暑いなら半袖のワイシャツがあるだろうが」
「えー...半袖シャツってダセーじゃん」
大人しく俺に服装を直させる彼は、頭上で静かに口にする。
「ダサくない、気崩してる方がダサい」
「でもこんな暑い日に、しっかり第1ボタンまでとめられると逆にエロく見えるから...先生こそ少し着崩した方がいいんじゃね?」
......あ?
なんだ、逆にエロく見えるって。
「先生、こっちの袖もやって」
「......本当いつまでも手のかかる奴だな」
白いワイシャツに視線を落とし、ゆっくりと捲る。
「...、先生ってコーヒー飲めるんだっけ」
「え?...まあ、飲めるが」
「今日あちぃから、ちゃんと水分摂れよ。先生ただでさえ色白で体調悪そうに見えるのに、その様子じゃ水分補給さえまともにして無いだろ。講習の途中からぼーっとしてたしさ」
確かに、今朝一杯の水を飲んだ程度だが、まさかこいつ...俺のことを心配してくれているのか...?
「目の下にクマあるし、眠れてないのかと思ったから買ってきたんだけど.........あれ、コーヒーだったら返って眠れなくなるのか...?ちょっと待ってて、アイスティーにしてくる」
難関のK大学志望の神崎ももちろん、俺のクラスで夏期講習をダラダラと受けていた。
が、そんな中で俺のことを気にかけてくれていたのかと思えば無性に気恥しい。
「い、いい...!大丈夫だ...それに寝不足じゃないから心配するな」
ただの夜更かしだなんて口が裂けても言えない。
「本当?...まあでも折角なら、好きな物の方がいいだろ。一緒に...」
歩き出そうとする神崎をキュッと掴み、缶コーヒーを手に取った。
「これがいい...、生徒から学校で何かを貰うのははじめてだから...その...大事に、飲む...」
きょとん
「はー...、あんたって人は...」
「なっ...なんだよ...」
目の前でため息を吐いた神崎を睨みつける。
静かな校舎に微かに木霊する2人の話し声。
「...何でもない。ね、先生ってアクセサリー着けねーの?似合いそうだけど」
「?まあ...そうだな、ピアスも開いてないし...ネックレスもしない。大体男の教員はアクセサリーなんか着けないだろう」
ピアスもネックレスも指輪も着けてる神崎からすれば、アクセサリーを着けない男は珍しいのだろうか。
「男の教員で許されるのは結婚指輪ぐらいだよ」
結婚指輪
もし俺が椿さんに指輪をプレゼントしたら、貰ってくれるのかな...。
いや、でもノンケ相手に男の俺が指輪って流石に、渡された方はしんどいか...。
「あ、なに?指輪でときめいちゃった?先生も恋人いるなら指輪プレゼントしない?実は俺、ジュエリーの販売店やってんだけど、なんと今なら制作費2割引き。ジューンブライドが終わったら毎年安くなるから、夏に注文が殺到するんだ」
????
何か突然自分語り始めたぞ。
「金属の種類、石の種類、デザインも豊富で内側に印字も可能。水にも強い金属を使うからわざわざ入浴の時とかも外さなくていいんだけど、どう?」
グイグイ距離を詰める神崎に息を詰まらせ、眉間に皺を刻む。
ジュエリーの販売店?アルバイトか...?
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