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「そこの大学はこれ、そっちの大学は...」
夏休みに入ってから数日、俺の生活リズムは見事に崩壊した。
それもこれも毎晩のように、菫から送られてきた舞台の映像を見ていたからだった。
ああ言うジャンルに触れるのは初めてだが、内容が面白くて興味深い。
セットや小物、洋服などの装飾品の美しさや、照明の当て方なんかも計算され尽くした映像はとても惹かれるものがあった。
なにより、菫があまりにも美少年なのだ。
線が細い、今より若い頃の黒田椿を彷彿とさせる姿は正直たまらん。
テレビにしがみついて見ているお陰で、彼からは毎晩白い目で見られている。
「碓氷先生、ここの問題について質問なんですけど」
「どれ」
そして只今、絶賛夏期講習中。
クーラーのない教室は灼熱地獄のようで、学生たちのやる気を削っていく。
風があるとは言え、涼しくもない風が肌を撫でても、じっとりとした暑さが人々を襲うだけだった。
あと30分もすれば家に帰れる、と口にしている訳でもないが、生徒たちが時計に目をやる度にその声がどこからかもなく聞こえてくる気がして、俺は前髪を掻き上げた。
まっっっったくだ。
一体どこのどいつが夏期講習をやろうなんて言い出したのか。
実に腹立たしい...、そもそも暑くて集中出来るはずが無いだろう。
しかも、数学以外何も分からんっつーのに有名大学や難関大学を受験する生徒ばかりを俺に押し付けやがって...!
「先生~、T大って日本史より世界史の排出率の方が高いですか?」
「ちょっと待ってろ」
暑い中、わざわざ生徒たちに学校まで足を運ばせたにも関わらず、12時には帰すって鬼畜の所業かよ。
可哀想過ぎる...。
俺だって、今年の夏休みは海に行ったりコテージに泊まったり、バーベキューや流しそうめんだってしたかったよ...。
生まれてから31年目にしてようやく恋人が出来た初めての夏を、こんな...っ!
「難しく考える必要はない。まずは式を分解する」
こんな夏期講習で終わらせられるか...!
今のところ、毎日の楽しみは黒田とイチャイチャすること、菫の舞台映像をしがみつきながら見ることくらいしかない。
夏らしいかと言われれば、一切そんなことはなく、折角の思い出作りが出来る長期休みすら与えられない3学年担任の宿命。
あー...今頃椿さんはきなことあずきを撫でながら、新聞読んで紅茶飲んでるんだろうな...早く帰りた...。
「一見難しく見えるだろうが、式を分解することにより答えを出しやすくなる。取り敢えずは式を分解出来るかどうか確認してから解くことをお勧めする」
「わ~、ありがとうございます...!先生の教え方本当に分かりやすいです」
「君の理解力が高いんだろう」
ああでも、勉強にやる気がある生徒って接しやすくていいな...。
素直で、勉強に対する熱意がある子を見ていると関心する。
その反面、自分もこうであったら...と、昔のことを思い出した。
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