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しおりを挟むいや、違う。
これはサワーじゃない。
俺の代わりに沢山お酒飲んでくれたのに、ここにきて自ら酒を飲むわけがないだろう...!
この俺ともあろう人間がそんな失態を、犯すはずない...!
黒田はあんなに沢山のお酒を飲んでいたのだ。
ここで俺が酒を飲んだら...全てが水の泡...!
「碓氷先生って...噂通りお酒弱いんですね」
「赤くなるの早...」
「弱くないし赤くない...」
氷が溶けてほぼ水みたいな味しかしなかったのに、ここまで赤くなれるのはむしろ才能だ。
幸いなことに意識は保てている。
頭がぼんやりして、ふわふわしてきてはいるが...
「碓氷先生、大丈夫ですか?」
「しーっ、もう寝かせちゃおうよ」
黒田が帰ってきた時に、酒を飲んだとバレないようにしなければならない。
「大丈夫、です。おれ、お酒つおいです...」
片手で頭を抑えながら、烏龍茶を飲む。
火照った身体に心地のいい水温は俺の脳をゆっくりと覚醒させた。
頭はふわふわしているが、呂律にさえ気を付ければきっとバレないで誤魔化せる。
「ごめんね、突然抜けちゃって」
戻ってきた黒田が隣に腰をかけ、女2人と俺に向かって爽やかな笑みを投げ掛けた。
彼女らは「「大丈夫です♡」」と口にしたかと思えば、まだ黒田に酒を勧めようとするでは無いか。
俺だけではなく黒田まで酔わせて持ち帰るつもりなのか。
もう彼のお腹は酒でたぷたぷだ、酒を勧めるのはやめてあげて欲しい。
「やめてくら...ください、黒田せんせ...もう、お酒飲まないの」
「ん?...そうだね。さっき立ちあがったらクラってきたから、少しだけ酔っちゃったのかも」
ふぅ、と息を吐きながら目を伏せる彼の色っぽさと言ったらもう、凄い。
「「「えっちだ...」」」
心の声がダダ漏れになってしまう女2人と声が被ってしまい、気が合うことの無い俺たちの間に謎の親近感さえ芽生える。
そして同時に気まずくなる。
「はは、3人してどうしたの」
あ、また笑った。
酒が入った黒田って、こんなに色気があって...艶っぽくて...、耳とか首がほんのり赤くて...美味しそうに見える。
周りの奴に見せたくないって気持ち、今なら少し分かるかも...。
「...碓氷先生、顔をよく見せてごらん」
「んむっ?」
突然頬をむに、と両手で抑えられ真正面から見つめられる。
えっ、なに!?
近い近いっ、大好きな黒田の顔がこんな近くに...!
「君...何だか顔が赤くないか?」
「!!...気のせいれす」
危ない、このままではバレる。
「心做しか滑舌も...」
「気のせいらってば...!」
あれ、何だか楽しくなってきたぞ。
さっきまでクソほどつまらなく感じていた飲み会も、酒が入れば陽気になる。
世界がふわふわして、すげぇ気持ちいい...。
怪しんでいる黒田の目の前で烏龍茶を一気に飲み干し両手でグラスを掴む俺は、違和感を感じて中を覗き込んだ。
「...碓氷先生、何やってるの?」
「きえた...」
「さっき飲んでただろ」
「ちがう...、きえたの...」
彼の身体にすりと身を寄せ、再度「きえた...」と上目遣いで見やれば、黒田は綺麗な顔を強ばらせて向かいの席に座る女2人を睨み付けた。
「どっち...?」
突然俺の肩を抱きながら冷たく、低い声を発した黒田の表情にきゅんきゅんする。
なんか怒ってる...、カッコイイ...♡
状況が分からず困った様子の女2人に、彼はさらに氷の様な冷たさで言い放った。
「この子にお酒飲ませたのはどちらかと聞いているんだが...?」
いつも穏やかな黒田のこんな一面を前にした彼女らは、流石に危機を感じたのか慌てたように声を荒らげる。
「私たち、飲ませてないです!」
「碓氷先生が勝手に飲んだんですよ...!」
何故俺が酒を飲んだとバレた??
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