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「明日より夏休みに入るが、受験生の君たちには月曜日と水曜日に登校して貰い、午前中だけ課題をこなして貰う。くれぐれも忘れないようにな。
あと各教科から宿題が出ていると思うが...休み明けのテストがあることも念頭に置いて取り組みなさい」
早速夏休みに入る生徒たちの気分を損なうような発言をしたことにより、教室中の空気は重い。
隣の石井のクラスからは「夏休みだ~!」「やった~!」と言う雄叫びまで聞こえてくるが、うちのクラスは依然静寂を保ったままだ。
「また、夏休み中は自転車事故や交通事故が多くなる。夏バテや夏風邪の体調管理にも十分に気を付けろ...以上、号令」
「起立......、ありがとうございました」
ゾロゾロと椅子から立ち上がる生徒の「ありがとうございました」の挨拶を聞いた俺は軽く頭を下げた。
綺麗に掃除されたばかりの教室。
散々校長の長話を聞いた後に、俺の話を聞いた生徒たちのライフはもう0だ。
あまり教室に長居しても気を遣わせるだけだろうと、日誌やチョークケースを持っては早々に教室を後にしようとした。
その時
「碓氷先生、HR終わった?」
「...えっ!?うそ、黒田先生!?」
「わ、ホントだ!黒田先生~♡」
ひょこっとドアから顔を覗かせた黒田に、教室中の女子生徒が色めき立つ。
突然鏡を取り出したり、髪の毛を気にしたり...
「おい...そこ、スカート短くするな。うちの高校はメイク禁止なのを知っているだろう、メイク道具没収すんぞ」
仕事が増える。
注意した生徒の服装を正し、メイク道具をしまわせている中、あっという間に黒田は女子生徒に囲まれていた。
「黒田先生、貴方何しに来たんです?」
「この後飲み会だから、一緒に行こう...っと、こらこら白衣を引っ張らないで」
飲み会。
そうだよ、飲み会だよ。
だけど貴様、それを生徒の前で言ったら「私も行く~♡」って言うに決まってんだろうが...!
「「「私も行く~♡」」」
ほら言った!!
「駄目だよ、今日は先生たちの打ち上げだから」
「ねえねえ、黒田先生お酒強い?」
「酔ったらどうなるの~?」
女子生徒に触らないよう腕を上げた黒田は困ったように笑う。
夏休み前に彼女が出来なかった男子生徒の多くが、つまんなそうに女子生徒を横目に帰宅していく中
「先生と会えなくなるのやだ~」
「先生は夏休み中、学校に来ないの?」
「夏休み、うちらと海行こうよ♡」
「てか先生めっちゃいい匂いする!」
彼女らは彼女らで黒田にゾッコンだった。
「んー...碓氷先生...っ」
自分の蒔いた種を回収することも出来ず、助けて欲しそうに懇願する眼差しに、フツフツと怒りが湧いてきた。
黒田も黒田なのだが
俺の彼女にベタベタ汚い手で触りやがった挙句、雌の匂いを充満させやがる生徒たちが許せない。
「おい貴様らいい加減にしろ...ゾロゾロと目障りなんだよ、とっとと帰れ。帰らねぇなら宿題の量倍に増やすぞ...」
一際低い声で唸れば、女子生徒達は黒田から離れスクールバッグを手に取った。
「先生、さようなら!」
「「さようなら~!」」
唐突にしてガランとした教室内に黒田の拍手が響く。
「凄いね、流石碓氷先生。惚れ直しちゃうな」
「めちゃくちゃ分厚いドリルを宿題として出しましたからね」
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