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しおりを挟む「はは...先生のガード硬そうなところ、好きだな」
「うぜぇ...」
窓を閉めて、生徒指導室を出るように促せば、彼は残念そうに肩を竦めて見せた。
「...吉野、悪いことは言わない。ヘヴンは二度と作らないと約束してくれないか...」
「ヘヴン...?それって、俺の作った薬のことですか?」
「ああ」
ギシ、と立て付けの悪い扉が鈍い音を奏でる。
夕闇の中、吉野の影が不気味に揺らめいてはザワつく胸を、必死に、必死に押さえ込んだ。
「どうしようかな...、俺のお願い叶えてくれたら作るのやめてあげてもいいですけど」
「あ゛?お願いだ...?どうせ俺のものになって下さいとか言うんだろ。言っておくが、経済力のないガキに興味は無いぞ」
「え...?いや、違います」
..........。
「そこは、俺のものになって下さいって言うところだろうが」
「いやいや、まさか...」
キスしておいて、魅力的だ、可愛い、好きだなって言っておいて
まさかってなんだよ。
マジでこいつ意味わかんないし何考えてるのか全然読めねぇ...。
「で...?お願いって?」
「明日は片付け、明後日は終業式。すぐに夏休みに入っちゃいますね」
「...?ああ、そうだな」
「夏休みに入ったら俺とお茶してください」
お茶...?
もっとこう、先生からキスして欲しい~♡とか言うのかと思ったら。
「言っておくが、3学年の教員に休みなんてない。夏休み中の補習は勿論、土曜日はボランティアで学区のゴミ拾いもしなきゃならないし、修学旅行の下見もある。君とお茶をする時間があると思うのか?」
「それは残念です。さて、帰って新しい薬でも調合しようかな」
「...」
「今の薬よりも効果を強めて作ったら、沢山売れるだろうなぁ。薬の実験台も欲しいからSNSで募集して、それから」
「っ...、わかった。わかったよ...お茶だけだからな?」
壁に背中を預けた彼が、珍しくニヤリと笑う。
「はい」
クソ、まんまと乗せられた。
小さく舌打ちをしてから、徐に前髪を掻き上げる。
「...君のことを詳しく教えてくれるなら、早めに...場を設けてやる」
「嬉しい...」
「おい、くっつくな...!...じゃあ、夏休み入ってから1週間後の15時、駅前で待ち合わせな...」
裏社会の人間が必死に嗅ぎ回っている薬を作っているのが我が校の生徒である以上、自分の時間を削ってでも、生徒の安全は確保しなければならない。
仕方ないけど、話を聞いて彼の怪しい薬作りに終止符を打たねば。
「碓氷先生」
「んだよ...、まだ言いたいことでもあんのか」
「デート、楽しみにしてますね」
......デート?
「はぁ...!?ち、違うだろ!デートなんかじゃない...っ、貴様が俺とお茶をしたいと言うからわざわざ貴重な時間を割いてやってるんだ。感謝しろ...!緊張しすぎて当日まで眠れなくなっちまえ...!」
「ふ、...くく...」
吉野の背中を強く押し、生徒指導室から追い出せば速攻鍵をかける。
「、な...にが可笑しいんだよ...」
肩を震わせて笑う吉野の表情に、物珍しさを感じて怒る気にもなれなかった。
「ああ、いえ...本当可愛いなって、思っただけです」
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