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しおりを挟む「碓氷先生、空気読んでどこか行ってくれませんか?」
さっき戻ってきたばかりの俺になんてことを言うんだ。
てめぇらがどこかに行けばいいだろ。
「他に行くところなんかありません」
「あるだろ」
「ねぇよハゲ」
「はいはい!2人ともそのへんにして...!あ、碓氷くん、お菓子食べます?」
姫神が俺の機嫌を取るべく引き出しからお菓子を取り出す。
お菓子で機嫌が良くなる程、俺は子供じゃない。
どこもかしこも居心地が悪い。
「あっ、碓氷くん!?どこ行くの?」
「どうぞお気になさらず」
語尾を強めに、スマホだけを手にした俺は職員室の扉を強く閉めた。
「ったく...」
職場で発情しやがって。
適当な空き教室にでも入って、時間がくるまでダラダラ過ごすか...。
生徒指導室の鍵ならいつも持ち歩いてるし、生徒や教員が立ち入ることも少ない場所だ。
机もあるし椅子もある。
少し寛ぎにくいだろうが、1人で居るには丁度いいだろう。
そう思い、足早に生徒指導室へと向かっては、誰にも見られないように中へ身体を滑り込ませた。
「...すげぇ静か」
窓を開けると、夏の匂いが部屋中に広がる。
少しだけ汗のかいた身体を撫でる風に心地良さを感じては、生徒指導室に置かれていた椅子に腰掛けた。
日中は生徒と教員に囲まれ、夜は黒田と一緒に過ごす。
そんな生活を送っているから、1人の時間が酷く新鮮に感じた。
前なら、1人でいる時間がないと苦痛で仕方がなかったのに。
肉体的な関わりは常に持とうとしていたが、私生活にまで踏み込まれるのは嫌だったし、1人の時間が好きだったからこそ寂しいとすら感じることは無かった。
でも今は、
「...」
1人でいる時に、どうやって時間を潰していたかも思い出せない。
適当に喋りかけたことに反応があるわけでも、ここに行こう、次はあれをしようと言う話が出来るわけでもない。
1人って、寂しいな...。
眼鏡を外して机に突っ伏する。
何だか今日は酷く疲れた。
それもこれも、若王子や神と言う男のせいだろう。
静かに目を閉じ呼吸を整えると、一気に睡魔が襲ってくる。
「...」
心地いい風や虫の声を聞きながら、俺はすぐに眠りについた。
「ん...、ぅ...?」
鳥の鳴き声で目が覚める。
辺りは既に薄暗く、静寂に包まれていた。
身体が痛てぇ...。
俺の授業の時に居眠りをされたことはないが、実際こんな寝心地の悪い机と椅子をつかって眠っている生徒のことを思えば、寧ろ感心するな。
とは言え、酷く長い間眠っていたような気がする。
夢の中で何度も優しく頭を撫でられたのが気持ちよかった。
「ふぁ...あ...、?」
大きな欠伸をしながら身体を起こした俺は、目の前の人物に驚愕する。
「...先生も欠伸するんですね」
「よ、吉野...っ!?」
驚いた。
寝て起きたら目の前に人がいたのだ。
物音1つ立てずに、いつからそこに居たかも分からないまま
俺は生徒の前で爆睡をかまし、大きな欠伸をした。
「っ...」
死にたい。
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