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しおりを挟む「綺麗な顔が涙で台無し...」
今ではその言葉をも疑ってしまうが、散々自分を否定したこの数時間の苦痛を、和らげてくれる気がした。
「こんなに泣いて...、よっぽど辛いことがあったんですね。でも、もう泣かなくて大丈夫ですよ。泣き止むまで僕が一緒にいてあげる」
その優しさに滝のような涙が溢れた俺の姿を見て、彼は可笑しそうに笑った。
「ふぇえん...っ」
「何その泣き方」
数分後、ようやく落ち着きを取り戻した俺はやっとの思いで口を開いた。
「......黒田先生、女と腕組んで歩いてた...」
「見間違いではなく?」
「ん...。俺がいい男を見間違えるはずがないもん...。絶対先生だった、あの服も着てるの見たことあるし...うっ...また涙が...」
ジョッキに入った緑茶を勢いよく飲み、鼻をすする。
「まあ、あの容姿なら女性は放っておかないですからね...。きっとあの手のタイプは女性に不便したことないでしょうし」
唐揚げを頬張る若王子の発言に言葉を詰まらせては、そのままテーブルに突っ伏した。
「やっぱり女の良さに気付いたんだ...!もう俺なんていらないんだっ...!あ゛ー、男に生まれた自分が憎い...!死んで女に生まれ変わりたい...!」
「メンヘラみたいですね」
泣き過ぎて頭が痛い。
まだ黒田とやりたいことも、行きたいところも沢山あったのに...。
「以前、黒田先生はオレが一方的に想いを寄せているって言ってましたけど、貴方たちまだ付き合ってないんですか?」
「え...うん...」
「は?馬鹿なの?」
さっきまで優しい言葉を掛けてくれていた男とは到底思えない。
「さっさと自分のものにしないと意味ないんですよ。いくら自分が好きだ、愛していると伝えたとしても、相手がハッキリした回答を出さなければ大抵の人間は脈ナシと判断するんです」
「え゛っ...」
「貴方から自分の気持ちは伝えてるんですか?伝えていないのに黒田先生からは好きでいて貰いたい、自分のものでいて欲しいなんて、それは贅沢って言うものですよ」
ごもっとも過ぎる。
死体蹴りをされている俺に、彼がトドメの一言を突き刺した。
「付き合ってもいない今の状況は、セフレと何ら変わりありません。ですので、黒田先生が他の女性と歩いていようが何していようが...貴方には咎める権利すらないんです」
そうか
そう、だな...。
身体から、スッと力が抜けていく。
意地張って、少しの羞恥心に負けて、言い訳して...想いを伝えなかった自分が悪い...。
「...うう...、自業自得だ...」
喉から出たか細い声に、若王子が目を細める。
「いいですか、碓氷先生。人間には、伝えるために口がついているんです。どんな些細なことだって、口にしなければ伝わらないし、伝えることが出来ずに後悔することはあっても伝えるのに遅いと言うことはありません」
「...」
「貴方は人より素直になれないだけで、自分の気持ちをしっかり持ってるんです。その気持ちを好きな人に伝えないのは勿体ないと思いませんか?」
「...ぅん...おもう...」
緩めのパーマがかかった漆黒に染まる黒髪が室内の照明でキラキラと輝けば、若王子が神々しい天使のように見えた。
「誤解しているところがあるのかもしれませんよ。素直になって言いたいことを伝えれば大丈夫。...ね?だからもう泣かないで?」
「う゛ん゛っ...!」
「はは、泣いた顔ブサイクだな...。もし黒田先生が貴方に飽きて別の女性と一緒になろうとしてたら、また言ってください。寝とる方法を教えますので」
にっこり
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