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しおりを挟むあたふたしながら、どうにか俺の逆鱗をしずめたい姫神は、もう関係ありませんと言いたげな2人の横でデスクからお菓子を取り出す。
「そ、そうですよね、ごめん...!あの、お菓子食べます?」
「いりません」
「肩でも揉もうか?」
「結構です!」
つーん、と顔を逸らし腕を組んだ俺の心は疲弊している。
もう疲れた、お家帰りたい...。
「う...碓氷くん、変なこと言ってごめんなさい...怒らないで...」
俺の横まで椅子を持って来て謝り倒す姫神。
「......」
まあ、ムカついたとは言え、この人が悪いわけじゃないしな。
しょんぼりとする姫神がどうにも小動物に見える。
悪いことをした時に反省の色を見せる子犬のような彼を見て、イラつくことも馬鹿らしく思えた。
「...いいですよ、もう」
「碓氷くん...!」
それに
「4人で行くより、黒田先生と行く方がマシ...ですから...」
しおりとペンを持った俺は席を立ち、女性教員に囲まれた黒田の元へ歩き出す。
「黒田先生がいちごミルク飲んでるなんて珍しい...っ!」
「コーヒー牛乳を押したつもりが、いちごミルクを押してたみたいでね。甘すぎて逆に喉が渇くよ...」
「え~♡甘いの苦手ですか?」
「いや、好きだよ」
「って先生...!それまだ包装ついてます!食べちゃダメですからね...!」
「ん?ああ、ほんとだ......開かない...」
わらわらと集まる女性教員の中心で、必死にお菓子の包装を開けようとしている黒田。
ここから包装をはがせますよって言う目印は、絶対に視界に入っているはずなのに、全く違う場所から開けようとしている。
「ゴホン...これから黒田先生とお話があるので、貴女方は自席に戻っていただけますか?邪魔です」
その辺にあった椅子を引きながら、無理矢理女性教員の海に割り入る姿を、彼女たちはつまらなそうな表情で見やった。
「何なのよ突然...」
「邪魔なのはあんたでしょ」
ヒソヒソと聞こえる小言も、この甘ったるい女の匂いも不快でしかない。
黒田から漂ってきたあの時の匂いと似ているその香りに、またしても女の存在を思い出してしまう。
...仕事中なのに、公私混同するなんて本当らしくない...。
しょんぼりと肩を落とす俺を見て、黒田は辺りを囲んでいた女性教員に低い声で言い放った。
「彼が邪魔だと言っているから退いてくれるかな...?」
普段の彼らしからぬ冷たい口調に、一瞬にして女性教員が捌けて行く。
...すご。
「......どうも...、じゃあ...」
「あ、ちょっと待って」
「...?」
座ろうとした瞬間に制され何が始まるのかと思いきや、白衣のポケットから取り出した淡いブルーのハンカチで椅子をさっと拭いてくれた。
「ごめんね、君を汚い場所に座らせたくなくて」
っっっっ!お姫様扱いされてる!!!
「あ...ありがとう、ございます...」
優しくされる度に、周りの女性教員が送ってくるの視線が痛い。
彼のデスクの上にしおりとボールペンを置いては一息吐いた。
まだ黒田の顔を見ることは出来ないし、こんなに近いのも会話するのも久しぶりで、ドキドキする。
この2日間、1人で部屋にとじこもりじっくり考えた。
女と2人きりで、腕を組みながら歩いているところを見てしまった以上、真実を知るのが怖くて堪らなかった。
『やっぱり女性がいい』と告げて、あの女と2人で去ってしまう黒田の姿を夢で見てしまってからは余計にも肩身が狭くなって...。
それでも彼と一緒に居たいと言う想いは変わらなかった。
だから、
このことを言及さえしなければ
真実に触れさえしなければ
俺は黒田の傍に居ることが出来ると思った。
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