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しおりを挟む「姫神先生、どちらへ行かれてたんです。修学旅行の下見...」
話を続けようとしたが未だに姫神の後ろに奴の巨体があることに気付き、口を閉ざした。
「碓氷くん...?」
くるりと踵を返し席に座り直した俺はノートPCを開いて、姫神に視線を投げることも無くぶっきらぼうに「後でいいです」と伝えた。
み、見られている...。
黒田の視線がこちらに注がれていることが妙に落ち着かない。
「そう言えば、修学旅行の下見を任されてたね。オレも行きたかったな」
「行きたかったんですか!?私の代わりに行く?」
......ん?
黒田の発言に姫神が凄まじい勢いで食いつく。
「いや、ちょっと待ってください...!どうしてそうなるんですか...!」
そんなことが許されるなら俺が辞退したい。
姫神が行かないとなると、若王子と石井もいかないって言うに決まっているし、大体最初に任されたのは姫神なのだ。
許せん。
説得し直すべく、姫神の元まで戻れば案の定
「主任が行かないなら僕は行きません」
「え~、じゃあ私も~」
と、軽々しく口にする若王子と石井。
キレそう。
「そもそもに4人で下見って、どう考えても人数が多いんですよ。2人で十分でしょう、ね?主任」
俺にウィンクを投げ掛けた若王子が「貴方たちに旅行をプレゼントします☆」と言いた気な表情を浮かべている。
いらんぞ。
「そうだね、黒田先生と碓氷くん2人でなんてどうですか?」
ぱぁっ、と明るくなる黒田の表情に少しだけ胸が高鳴ったが、顔を顰めながらそっぽを向いた。
「やだ」
「碓氷先生、オレと2人で下見に行こっか」
「やだ!」
久しぶりに成立した会話がこれだ。
やだやだと駄々を捏ねる30歳に呆れた若王子が席を立ったことにも気付かず、周囲の人間を困らせる。
出来れば下見になんか行きたくない。
最初から面倒だと思っていたし、枕が変わればきっと眠れない。
日帰りの旅行ならまだしも宿泊もしなければならないなんて...、荷物が多くなるに決まっている。
黒田となら一緒に行ってもいいかな、と思っていたがこんな心境のまま行っても楽しいわけがねぇ。
「碓氷先生ってこんなにワガママなんだ~...、私ワガママな男無理...」
おい、聞こえてるぞ石井。
「教頭に下見のメンバー替えを依頼してきましたよ。これで最終決定にしてくれだって」
自席に戻ってきた若王子がとんでもないことを言い出したため、勢い良く肩を掴んだ。
「おい何勝手に...!」
わ、笑ってる...
俺と黒田を2人で行かせようとしている...!!
「碓氷先生、僕は今通知表をつけるのでとっっっても忙しいんです。触らないでください、へし折りますよ」
この男...完全に楽しんでいるじゃないか。
以前の「意地悪したくなる」っ言う発言も、黒田が見ていることを知っていてわざと口にしたに違いない。
「...まだ仲直りしてないみたいですし、僕からのプレゼントです」
「クソ...っ」
余計なことしやがって...。
仕方ねぇ、今から教頭に言っても無駄だろうな。
チラリと黒田を見やり小さな声で口にした。
「...、下見の件で話があります...」
「うん、いつでもいいよ。場所移動する?」
「何でだ...ですか、貴方の席にお伺いしますから座って待っててください」
「OK、早く来てね」
上機嫌で自席に戻る黒田の背中を見ながらこれでもかと言うほど大きなため息を吐いた。
「碓氷くん」
「...はい」
気まずそうに顔を覗き混んできた姫神に、やるせない様な視線を投げ掛ける。
「もしかして私たちと行くこと楽しみにしてた...?」
ピシッ
「はぁ...?」
楽しみ?この4人で行くのが?
「楽しみにしていたわけがないだろ!」
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