秘めやかな色欲

おもち

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「先生、ごめんなさい...!ちゃんと勉強するから!」

「ここの公式が上手く使えません」

「全然わかんない!」

「...」

駄々を捏ねる生徒3人の拘束から逃れ、生徒指導室を早く出るように急かす。

ガックリと肩を落としながら荷物をまとめた男子生徒3人は、小さな声で「さよなら...」と呟き生徒指導室を後にした。

まったく...最近の若者はやれセックスだ、やれ恋愛だとマセた考えをしやがって。

「先生」

「っ!うぁ...、なんだ...まだいたのか...」

ぼんやりと椅子に座ったままの吉野も、落ち着いた動作で帰る準備をしている。
さっき全員帰したと思っていたから、吉野がいることに大層驚いてしまった。

「すんません、あいつら全然俺の話聞かなくて」

「あ...いや、それは問題ない...。だがお互いに時間を無駄にするような集まりは辞めた方がいい。君たち学生の時間はほんの一瞬でかけがえのないものだからな」

「...」

開け放たれた窓に鍵をかけ、くっつけられた机を分解する。

静かな室内に、校舎に残る生徒の声が微かに木霊した。

「...どこで騒いでんだ?注意しに行くか...」

「こんなに暑いのに汗かいてないですね、先生」

突然の脈略のない質問に目を丸くする。

「え?ああ...寒がりだからな、代謝悪いし...あんまり汗かかないかも」

「じゃあこの前の汗は...」

ふわ、と嗅ぎなれない匂いが俺の鼻腔を擽った。

「よっぽどだったんですかね...?」

「っ!!」

気付けば吉野の身体が近くにあって、心臓が大きく跳ね上がると後ろによろけてしまう。

上手くバランスが取れず、倒れそうになった身体を吉野の手が支えた。

「っ...わ、ごめ...」

「大丈夫ですか」

「ん...」

身体を支える手が熱くて、距離が近くて、一瞬呼吸が止まった。

「も...大丈夫だ。少し驚いてしまって...」

吉野の腕を慌てて振りほどき、乱れた髪を整えた俺は心を落ち着かせるために大きく息を吸う。

よし...。

「じゃあ、鍵閉めるから出て」

「はい」

「......」

「......」

吉野は物静かだ。

俺も口数は多いほうじゃないから、こうして会話のないタイミングが続くと気まずい。

「また来週...。気を付けて帰りなさい」

「先生、最後にいいですか」

生徒指導室に鍵をかけ、職員室の方向へと身体を向けた俺の背後に吉野が立てば、ぞわりと肌が粟立った。

「俺しか気付いてないだろうし、実際はどんな下着を穿いてるかわかんないすけど...スラックスに下着の線浮いてる時ありますよ。気を付けてくださいね...」

「な、っ!?!?」

「じゃ、帰ります。さようなら」

スタスタと足早に生徒用玄関に向かう吉野を呼び止めることも、足止めすることも出来なかったわけだが。


一体俺は今、何を言われた...!?!?

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