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しおりを挟む俯いた俺の手を黒田がそっと握れば、綺麗に微笑んだ。
「鏡夜、して欲しいことがあったらなんでも言ってね?全部オレがするから」
「...ぅ、うん」
確かに指1本動かすのも辛いが、腰が痛いくらいで動かそうと思えば動かせる。
黒田は俺を甘やかし過ぎなのだ。
黒田だって身体は痛いだろうに...、優しい奴...。
「あ、そうだ。あの水、僕が貰ってもいいかな?」
昨日吉野から渡されたペットボトルを指さす光悦は続け様に口を開いた。
「僕が昨日、七夕祭りの会場に居たのはヘヴンを探すためだったんだ。最近あちこちで出回ってるみたいでね...厄介な薬だから全部うちの組で回収しようって話が出てる」
「それは別に構わないけど...、俺が飲んでしまった水は生徒から貰ったものなんだ。水を販売していた屋台で混入されたとか、自動販売機から出てきた水に混入済みだったとか...、理由は何にしろ生徒も1口飲んでいた。俺はあんたら2人に処理をして貰ったが、1人だった場合は...その、大丈夫なのか...?」
吉野が心配だ。
あの時、いつもと変わらない様子だったが、別れた後に何か大変なことになっていたら...、そう考えるだけで恐ろしい。
「1人だったら危険だな。椿みたいに体力が有り余ってるゴリラでも、ヘヴンを摂取した人間を満足させることは極めて難しい。摂取した量にもよるけど、ヘヴンの力によって増進した性欲を満たせなかった場合、摂取した側の精神は崩壊してしまうからね...」
ゾワッ
と肌が粟立つ。
「でもさっき言った通り、摂取した量にもよるから。ヘヴンが薄まった水1口ぐらいなら、10回そこら射精すれば徐々に治まってくるよ」
1人で10回もオナニーできるかよ...。
「鏡夜、オレってゴリラじゃないよね...?違うよね...?」
ゴリラは嫌なようで、不満そうな表情を浮かべた黒田が俺の手を摩る。
にしても...
吉野は?
吉野はどうなった?
「黒田先生、吉野の連絡先知ってる?心配だから電話かけたい」
「吉野くんの連絡先か...、今は分からないけど」
一瞬にして室内の空気が変わった。
なんだか、凄く嫌な空気だった。
「...オレは、彼が怪しいと思うな」
「え...?」
いやいや、吉野に限ってそんなことをするはずが無い。
それに、組の連中が探し回るような薬を普通の学生が所持しているなんて...あまりにも非現実的過ぎる。
「馬鹿言うな...、冗談ならいくら黒田先生でも怒るぞ」
「......僕も、屋台の人が意図的に入れたりするのは考えにくいと思う。ヘヴンは5mlでも数万円の値がつく程、高額で取引されているからね...。その辺の人間がおふざけで使う代物じゃないことは、鏡夜にも分かっていて欲しい」
「は...、何だよ...じゃあ吉野がやったって言いたいのか...?」
開け放った窓から、生暖かな空気が入り込む。
2人は口を開かず、ゆっくりとお茶を啜った。
「...もう、いい」
呆れてものも言えない。
足下で座るきなことあずきに視線を落とすと、胸が異常にモヤモヤした。
重苦しい空気。
「よしっ、この話はおしまい。ところで鏡夜、僕のアカウントのブロックは解除してくれた?」
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